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魔法の練習をする

宣言通り上げました!

今回は前回の失敗から学ぶお話です

『消し炭スープ事件』から半月が経った。

 俺はあの時の失敗を反省し、まずは魔法書にある魔術がそれぞれどんな能力を持っているのか確認してみることにした。


 何分俺もはしゃぎすぎだ。いくらこっちの世界で五年間子どもとして過ごしていたとしても、さすがに前世では十九歳だったんだからあまり浮かれた行動を取るのも恥ずかしい。


 ……いや、まあ、そんなこと俺以外の人間にはどうせ分からないんだけどさ。

 せめてもう少しだけ大人になろう。魔術っていう、下手をすれば危険な力も持っているんだし。


 ともあれ、ただ発動させるだけならどんな魔術であろうと扱えるという確信が俺にはあった。

 なにせ俺は元日本人。

 そして魔法言語は日本語なのだ。これで魔術を発動させられないわけがない。


 しかし、ただ使うだけなら簡単というだけであって、使いこなすにはまだまだほど遠い。まず使いこなすために必要なのは、どの呪文がどんな効力を発揮するのか把握しておくことだろう。


 そして、それを把握する一番手っ取り早い方法がある。


 結論から言えば……全部使ってみて効果を確かめればいいだけのことだ。


「よし、と」


 家の裏手に出た俺は魔法書を開いた。開かれたページには、漢字と平仮名とで様々な呪文が日本語で綴られている。

 魔法書には一通り目を通してあったものの、試した呪文はまだ十個ぐらいしかない。


 ……いや、ほら、『うっかりさん』とかどういう場面で使うのかまったく分からないし。

 効果の予測できないものは、とりあえず何が起こるか分からないのが怖いのだ……そんなことを、消し炭となったスープは教えてくれた。


 あの犠牲は決して無駄にはしない。


「練習すっか」


 何はともあれ、よく分からない呪文は片っ端から試すに限る。

 だから万が一のことが起こりにくいように、こうして家の裏手にまでやってきたのだ。


 我が家の裏手は、かなり広めの広場となっている。林や人家もないだだっ広い空間しかないため、万一の事故が起こりにくい。


 また、村の他の家からも死角になっているため、ここで俺が魔術の練習をしているとバレにくいのだ。


 両親が俺を受け入れてくれても、村人までもがそうとは限らない。そのため、今はまだこの力を秘しておくほうがいいだろうと判断した。


「さてと、まずはこの呪文から……」


 ――


 日が暮れた。

 俺は額の汗を拭って息をついた。


 こうして思い切り色々な魔術を試してみて分かったが、何度も呪文を唱えると当然ながら体力を消耗するらしい。

 まだ、俺の魔術は周囲の魔力に魔法言語を反応させている段階だ。そのため、魔力を消耗することはないが、一日中呪文を唱えているだけでもかなり疲れる。


 ましてやこの体は五歳なのだ。

 体力を消耗しないはずがない。特に喉なんかはからからで、できれば今すぐ水が欲しかった。


「はぁ……はぁ……ゼッ」


 俺にはまだ、魔力というものを感知したり、自分の魔力を自在に操ったりすることはできない。

 これからできるようになってくるのだろうか。


 いや、なるのだ。そうなることができれば、きっと魔術師としてより高みに行けるはず。


「う、く……やっべ、疲れたなあ……」


 浅く呼吸しながら俺は地面に大の字で寝転がった。

 疲れてはいるものの、これは心地のいい疲労感だ。充実感に全身が満たされているかのようで、ついそのまま眠ってしまいそうになる。


 けどそういうわけには行かなかった。


 今回の『実験』でいくつかのことが分かった。

 まず第一に、魔法書に記されている呪文の効果や威力だ。

 最初は意味がよく分からなかった呪文も、実際に使ってみることでどのような効力を持つのか把握することができたのは非常に大きいただろう。


 次に、呪文の内容と発動される魔術の関係性についてだ。

 魔術は基本的に、『呪文の内容通り』にしか発動しない。『燃やせ』と言えば『燃やす』し、『凍れ』と言ったら『凍る』のだ。

『消し炭スープ事件』の時は、『焼き尽くせ』と言ったから文字通り焼き尽くして消し炭にしたのだろう。


「となると、つまり、俺はあれか。『スープを温めてくれ』って言ったつもりが、『スープを焼き尽くしてくれ』って言ったようなものだったのか……」


 魔法が、『焼き尽くしました!』って笑顔をこっちへ向けているのが見えるようだった。


 あの時は、煉獄の焔=熱くするというイメージにとらわれて、『焼き尽くせ』という部分にまでは注意してなかったからな……『煉獄の焔で温めろ』だったらまた違っていたのだろうか。

 ……っていうかそもそも、『煉獄』って物騒な言葉が使われてる時点で気づくべきだったか。魔法が使えるってことに、完全に浮かれてたもんなあ……。


 ほんと、調子に乗ってる時にはろくなことが起こらない。燃えたのがスープだったからまだしも、あれが家族の誰かだったりしたらと思うと背筋が冷たくなる。


 ともあれ、呪文の選択を誤れば望んでいなかった現象を引き起こすこともあるのだと痛感した。マジで魔法言語の取り扱いには気をつけよう……。


 そして、呪文と魔術のこういった関係性のせいか、別々の呪文でも同一の現象を引き起こすことがある。


 例えば『焔よ』と唱えれば火が現れる。しかし、『太陽を覆いし燃ゆる衣よ』でも火が現れた。

『太陽を覆いし燃ゆる衣』とは当然のことながら焔なのだから、結局は同じ意味合いの呪文として扱われるようである。


 だが、『紅玉の輝きをここに示さん』という呪文でも焔が現れた。

 これは推測になるが、『紅玉の輝き』という言葉で俺が赤く輝く焔を想像したからではないだろうか。


 イメージと魔法言語と魔力の関係性はまだ不透明なところがあるが、『想像』したものを魔法言語を用いて『指示』し、その指示通りに魔力が『反応』し現象を『引き起こす』と考えれば筋が通る。


 『紅玉の輝き』という言葉で『焔』を出現させることだって可能だろう。


 とはいえ、たとえどんなにかっこよかろうが、いかにも呪文な感じで仰々しかろうが、『焔よ』と唱えるだけのほうがよほど実用的であるのだが。


「まあ、今はとりあえずここにある呪文を使うことにするけどな」


 魔法の法則性はある程度把握した。オリジナルの呪文を作ることだって可能だろう。


 とはいえまだ魔力を感知する域にまで至っていないから、まずはそこへたどり着こう。オリジナルの自作はそれからだ。

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