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異世界の魔法言語がどう見ても日本語だった件  作者: トラ子猫
第二章:冒険者編(少年編)
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ノエルの呼び出し

 屋敷に戻ると炊事場からいいにおいが漂ってきた。


 覗いてみると、メイファンが足取りも軽く朝食の準備をしているところだった。


「ふんふ~ん♪♪♪」


 鼻歌まで歌って、随分とご機嫌な様子である。


「おはよう、メイファン」


「ジェラルドさん! ミィルさん! おはようございますっ」


「うんうんっ。おはよ、メイちゃん!」


 声をかけると、ターンするような軽やかな動きでメイファンがこちらを振り返る。


 前掛け(エプロン)がふんわりと揺れた。


「朝食の準備をしてるのか」


「はいっ。父が健在だった頃は、ボクがいつも任されていたので。ジェラルドさん達は、もう朝稽古は終わりですか?」


「……見てたの?」


「いえ。ただ、父は生前、毎朝日の出と共に起きては門下生たちと共に朝稽古をしておりましたので。ジェラルドさんたちも起きた時にいなかったので、てっきり稽古場にいるのかと思っておりました。……違いましたか?」


「いや、違わないけど」


「ならよかったですっ。精のつくものをお作りしますねっ」


 メイファンはとてもいい笑顔でギュッと握った両拳を胸元へ寄せる。


「精のつくものだって、ジェラルド! これであたしたちの――」


「――夫婦生活バッチリだね、とか言うんだろどうせまた」


「おお、さすがジェラルド。分かってるねっ」


「まあお前と夫婦生活を送るつもりはないけどな」


「そんなばかなっ!?」


「馬鹿はお前だ!」


「あーはは……ええと、ボクもそういうつもりで作るんじゃないんですけどねえ……」


 俺とミィルのやり取りにメイファンが苦い顔つきになった。


「まあとにかく、もうすぐ出来上がるので少し待っててください」


 さて、どうしようか。


 俺は別に稽古をしてきたわけじゃないから疲れているわけじゃない。


 とはいえ、もう一人でかなり準備はできているみたいだし、今から手伝うのも邪魔になりそうだ。


「じゃあ、ちょっと悪いけど今日の朝食は任せるわ」


「はい。お任せ下さいっ」


 炊事場から俺達は下がる。


 その後ミィルは汗を拭いて着替えるため、布と着替えを取りに二階へ上がる。


 俺は居間のテーブルに一足早くついていた。


「お待たせしました」


 汗を拭いて着替えたミィルが戻ってくる頃には、メイファンも調理を終えて朝食を持ってくる。


 食料庫にあった乾燥肉を塩と野菜で煮込んだスープに、チーズとベーコンを乗せてトーストしたパンが今日の朝食だった。


 全員がテーブルについてからスープに手を伸ばす。


 一口汁をすすると、肉と野菜の旨味が口内に広がった。


 トーストもまた表面がパリっと焦げて香ばしく、とろりと溶けたチーズとベーコンの味わいは見事な調和を保っていた。


「うまい」


 まずその一言が出た。これまで泊まっていた宿で出ていたような粗末な料理より断然うまい。


「おかわり!」


 あっという間に平らげたミィルは、さっそくとばかりに空になった椀をメイファンへ突き出していた。


「そんなに慌てなくても、まだまだたくさんありますよ」


 苦笑しながらメイファンが椀にスープをよそう。


「お二人とも、お腹いっぱい食べてください。そうでなくても、冒険者は体力を使うお仕事ですから」


「ああ。遠慮無く食べさせてもらうよ」


「うんっ。メイちゃんありがと!」


 そうやって談笑しているうちに朝食を終えた。


 ――さて。


 とりあえず腹ごしらえは済んだ。


 メイファンは食器や調理に使った器具を片付けているし、ミィルはふくらんだお腹を撫でて椅子に座ったままうつらうつらとしているようだ。


 とはいえ、いつまでもここでゴロゴロしているわけにもいかない。


 そろそろ出かける準備でもするかと、俺が重い腰を上げた、その時だった。


 ゴン、ゴン、と重苦しく玄関の扉が打ち鳴らされる。


 この屋敷は、いかにも屋敷らしくノッカーがついている。メイファンが言うには、このノッカーを打ち鳴らすと罠が起動するようになっているらしい。


 だがその仕掛けは俺がもうすでに解除してあるので今となっては普通に来客を告げるだけの道具へと成り下がっている。


「……こんな時間から一体誰なんだろうな」


「あたしに分かるわけないじゃん。とりあえず、出てみるしかないんじゃない?」


 俺とミィルは顔を見合わせ言葉を交わした。


 確かに、ここで何を言ったところで埒が明かない。


「とりあえず俺が対応するよ」


「うん」


 立ち上がりそのまま玄関へ。


 扉を開くと、そこにいたのは知らない男だ。


 とはいえ、ギルドの関係者なのだろう。


 見覚えのあるギルドの制服に身を包んでいる。


「ジェラルド様でいらっしゃいますか?」


 慇懃な口調で男が問いかけてくる。


「そう、ですけど」


「なら、お時間を少々よろしいでしょうか。ギルド長があなたをお呼びしておりますので」


「えっ」


 新しい拠点で迎える初めての朝は、いきなり雲行きが怪しくなりそうだった。


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