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異世界の魔法言語がどう見ても日本語だった件  作者: トラ子猫
第二章:冒険者編(少年編)
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調査隊一行

 森の中の移動は主に俺の転移魔法を使って行われた。


 まずは森の上空に移動し、そこで地図を広げて報告のあったエリアを確認。


 そしてチェックしたエリアへと降りてしばらくの間探索をし、棲息モンスターの種類を確認する。


 エリアからエリアへの移動は俺の魔法でサクサクと進み、魔物も魔力を感知することである程度の場所を俺が特定することができる。


 そこからはカリウスさんの案内で森の中を進み、魔物と遭遇すればノエルさんがその都度分布図に何かを書き込んだりしていた。


「『殺虫剤! 除草剤!』」


 途中何度か、昆虫系の魔物や植物系の魔物の群れに襲われる。


 その都度俺は魔物に腕を向けてそんな即興呪文を口にした。これが意外と効果抜群で、火で燃やしたり風で切り刻んだりするよりも手っ取り早いのだ。


 そんな俺の魔法を見て、ノエルさんとメイファンは目を丸くしていた。


「ギルド長として魔法使いと出会ったことだって今まであるけれど、こんな奇抜な魔法を使う人間に出会ったことはないわ」


 というのはノエルさんの弁。


「一体どういう魔法なのかしら? 確か魔物に毒はほとんど効果がないはずなのに……デタラメな威力ね」


「お褒めに預かり光栄です。……っと」


 今俺達が探索しているのは、ウッドドラゴンに出会った辺りである。


 俺は気配を感知して、とっさに魔術を呪文を口にする。


「『伐採!』」


 目の前に手を伸ばしてそう口にすれば、前方に木に擬態して群れをなしていたウッドドラゴン達が片っ端から首を伐られて息絶えていく。


 今の俺は、ウッドドラゴンが身を潜めていても魔力を感知することができる。ウッドドラゴンの魔力がどんなものか、経験として知る機会があったからだと思う。


 つまり一度遭遇した魔物なら、その魔力でどんな魔物か判断することができるのだ。


「……私は夢を見ているのかしら」


 積み重なったウッドドラゴンの死体を見て、ノエルさんが呆然とした声を出す。


「いえ。昨日報告したように、この辺りにまでなぜかウッドドラゴンの群れが来てるんですよ」


「……私が夢だと思ったのは、擬態を解く前のウッドドラゴンが、目の前でこんなにも簡単に殲滅されたことについてなのだけど」


「……もう少し苦戦してみせたほうが良かったですか?」


 今日は前のように、守らなければならないのがメイファン一人というわけではない。だから効率を再優先してみたんだけどなあ。


「上級個体数十体相手にあえて苦戦することができるのがおかしいのよね。本来なら嫌でも苦戦しなければならないのが、竜種っていうものだもの」


「その小僧の力がデタラメなのは確かにおれも認めるところだ。だからこそ、慢心こそが最大の敵だと口を酸っぱくして言っているのだがな」


「カリウス君も相変わらずね。そんなんじゃ、いくら顔がよくたって女の子が逃げちゃうわよ?」


 ノエルさんが軽口を叩き返すと、カリウスさんが渋面になる。


「女というものはいけ好かん。わがままで自分勝手で感情的で理屈の通らん意味不明な存在だ。近づきたいと思うやつの気が知れん」


「そういうこと言ってるからおっさん言われるんだよばーかばーか!」


「おまけにガキで品がないと来ている」


「うー、うっさいなあ!」


 ミィルが頬を膨らませてカリウスさんに噛み付いている。


 ……とはいえ。


「おい。今のはミィルが悪いぞ。カリウスさんにちゃんと謝っとけよ」


「ぬぐ……」


「言っとくけど、頭下げなかったら夕飯抜きな」


 ちなみに俺達の財布の管理をしているのは俺だ。ミィルのような大雑把な人間にできるわけがない。


 俺の言葉に、ミィルはしばらくの間不満そうな顔をしていたけれど、睨みつけるとやがて観念したのかしおれたようにうつむいた。


「……うぅ、分かったよぅ。お、おっさん、ごめんなさい……」


「カリウスさん、だろ」


「うぅぅぅ~っ……か、カリウスさん、ご、ごめん、なさいぃぃ……」


 凄く嫌そうな謝罪だが、それでもミィルは一応カリウスさんに頭を下げていた。


 するとカリウスさんは不機嫌そうにそっぽを向いて、


「ふん。ガキだと思えば腹も立たん。まあ、自分の非を認めることができるのは人間的な成長かもしれんがな」


 と吐き捨てるように言っていた。


 ……ちょっとだけ早口になっていたから、もしかすると少しだけ照れていたのかもしれないな。


「あら、まるでジェラルド君はミィルちゃんのお兄さんみたいね」


 くすくす笑いながらノエルさんがコメントを口にする。


「え!? そ、そう見えますか?」


「お兄さんのようにも見えるし、お父さんのようにも……って、あらごめんなさい」


 言いかけてノエルさんが、はっとした様子で口をつぐむ。


 そんな彼女の視線の先にいるのはメイファンだ。


「え? あ、いえ、その、ボクは……大丈夫。大丈夫、です」


 どこか力なく尻尾をだらんとさせたまま、メイファンはどこか憂えた声を出す。


「いいえ、ごめんなさい。今のは私が悪いわ。……まだ、半年も経っていないのにね」


「だ、だから、ボクは……………………気にして、ないです。ギルド長も、みなさんも、だから気にしないで……」


「そう……。ありがとう、メイファンちゃん」


 ノエルさんが寂しげにメイファンに微笑みかけると、メイファンも無理に作ったような、あの、初対面だった時に浮かべた卑屈そうな笑顔を浮かべる。


 でもさ、メイファン。


 気にしてないならその間は何なんだ。


 大丈夫なら、なんでそんな笑い方をしてるんだ?


 事情を知らない俺でも、大丈夫じゃないって、気にしてないわけないってことが分かっちゃうじゃないか、そんなの。

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