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異世界の魔法言語がどう見ても日本語だった件  作者: トラ子猫
第二章:冒険者編(少年編)
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森の異常と報告

「ジェラルドだ、ジェラルドだ、ジェラルドだぁぁ~! 寂しかった、寂しかった、寂しかったよぉぉ~!」


 メイファンと共に街に戻ってギルドの前までやってくると、ミィルが半泣きになりながら駆け寄ってきた。


 そのまま俺にしがみつこうとしてきたのをさっと避ける。


「なんで逃げるの!?」


「いや、お前こそなんでいきなり抱きつこうとしてくる」


「妻が夫にお帰りなさいのチュー的な事情だよ!」


「……俺はまだ未婚のはずなんだけどな」


「将来のために予行演習は必要じゃないかな?」


 胸の前で手を組んでミィルが期待に満ちた目で俺を見上げてくる。


 ……相変わらず、俺に対して一切の壁を作らないやつだ。この、身体的にも心理的にも距離が近いのはさすが幼なじみといったところかもしれない。


 とはいえ、いつものようにミィルの相手をするわけにはいかない。俺が今用のあるのは、ミィルではなくその向こうなのだから。


「俺とメイファンはギルドにこれから報告があるんだよ。つーわけでミィルは先に宿に戻ってろ」


「えーっ」


 ミィルがすかさずぶーたれる。


 そして俺の後ろにいるメイファンにキッとキツい視線を向けると、


「その女も一緒に行くならあたしも行く!」


 とわがままを口にする。


「ふ、ふぇ……」


 剥き出しの嫉妬をもろにぶつけられたメイファンは、耳を伏せ、丸めた尻尾を足の間に隠すようにしていた。


「おいこら。見境なく嫉妬すんな。怯えてるだろ」


「だって~……ジェラルドに近づくその女が悪いんだも~ん」


「ったく、お前は……」


 ミィルの態度に俺は呆れを隠せない。その一方で、これからギルドに報告する内容は明日にもミィルや他の冒険者達の耳に入るだろうとも考える。


 だとすれば、言いくるめて宿に帰すよりも、一緒に連れてってしまったほうが面倒は少ないかもしれない。


「ね、ね、ダメかな? それとも、あたしも一緒だとジェラルドは嫌、なのかな?」


 俺が態度を譲る気配を感じたのか、ミィルがここぞとばかりに媚びを作った声をかけてくる。


 ……まだ十三歳なのに。子どもなのに。ほんと、いつの間に女の手管ってやつを身につけたんだろうなあ、こいつは。


「……分かったよ、仕方ないな。その代わり、ついてきてもいいけど報告の邪魔はするんじゃないぞ」


「うん分かった! ジェラルド大好き!」


 ……分かってんのかコイツ? カリウスさんじゃないけど、ミィルはもう少し頭を使うことをやっぱり覚えるべきだよなあ……。


 そんなことを思いつつギルドの扉を開け、中へ。


 この時間だと受付はもう閉まっているが、それでも有事の際の窓口は開いていた。


 そこへ行き声をかけると、すぐにギルド長……ノエルさんの執務室へと通される。


「……なんかあっさり話が通るんだな」


「はい。ギルド長は期待をかけている冒険者からの報告を自分の耳で聞きたがるお人ですから」


 疑問の言葉を口にすると、案内の職員がそう答えた。


 ギルド長といえばこの冒険者街ゼトの市長も同然。つまりそれだけの権力がある。


 そんな人間が、期待をかけているからというだけで報告を自分の耳で聞きたいなどとは、随分と酔狂なことである。


 ……ま、ぶっちゃけそのほうが話も早いしこちらとしては好都合なんだけどな。


 ――


 執務室に入ると、ノエルさんは机で事務仕事の真っ最中だった。積み上がった書類の山がその仕事量を物語っているが……部屋の半分がほぼ紙で埋まっているのを見て俺は思わず気が遠くなる。


 前に通されたギルド長室とは違い、完全にノエルさんのデスクワーク専用の部屋らしい。まあ、これだけの仕事量を目の当たりにすると、専用の部屋があるのはむしろ当然なのかもしれない。


 彼女は今もカリカリと羽ペンの音を部屋に響かせては、凄まじい速度で書類の処理をしていた。


「……きゅぅ」


 俺の隣ではミィルが完全に目を回している。これなら報告の邪魔になることもないだろう。


「悪いな少年。今、こちらも仕事が手を離せなくてな。こういう形で報告を聞かせてもらう」


「は、はあ……それは構いませんけど」


 ノエルさんは熱に浮かされたように恍惚とした声をしていた。忙しくしていることに快感を覚える性癖でもあるのだろうか……いや、今はそんなこと関係ないか。


「今日、彼女……メイファンの冒険者登録任務の最中に、森の外縁に近い場所でウッドドラゴンの群れと遭遇しました。自力で討伐はしましたが、ギルドの発行している魔物の分布図ではウッドドラゴンの棲息地は森の中央周辺となっていたはずなので、報告の必要があると判断しました」


「なるほど。まあ、その判断は間違っていないわね。群れの数は?」


「目算ですが五十ほどだったかと」


「……仮にも五十体の上級個体を一人で倒したっていうの? さすがの私でも、ちょっと信じられないわね」


「ほ、ほんとなんです! ジェラルドさんは、その、ボクを守りながらあの群れを……」


 疑うようなノエルさんの言葉を聞いて、メイファンが思わずといった様子で口を開く。


「だからジェラルドさんは嘘なんて着いてません! ボクが……ボクは、ちゃんとこの目で見たんです!」


「嫌ね。別に、嘘をついてるなんて言いたいわけじゃないわよ、メイファンちゃん。ただ、ちゃんとした調査をする必要はありそうね」


 ノエルさんの対応は正しい。報告を鵜呑みにするのではなく、その報告が正しいかどうかの裏付けまであるかどうかを判断するのは組織のトップに立つ人間に必要なことだ。


「とはいえ、似たような報告も今結構されてるのよねえ。本来ならその魔物が棲息していないはずのエリアで遭遇したって話が、ね」


「それは……」


「さすがに、今のジェラルド君がしてくれた報告みたいに極端なものはまだ上がってないわ。でも、全体的に魔物の分布が森の中央から街寄りになってきている傾向があるのは事実なの」


 だから、とノエルさんはそこで一呼吸すると、机の上から顔を上げ俺達に向かってにこりと微笑みかけてきた。


「君達も、協力してくれるわよね?」

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