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異世界の魔法言語がどう見ても日本語だった件  作者: トラ子猫
第二章:冒険者編(少年編)
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試験官任務

「はあ!」


「たあああ!」


 訓練場に声が響く。


 ここはギルドの運営している、冒険者に開放している訓練場だ。


 その訓練場にある、模擬試合用のスペースで、俺とミィルは朝の組手を行っていた。


 互いに得物は剣である。木製のもので、直撃しても大怪我をしないものを俺達は使っていた。訓練場では俺達以外にも組手や筋トレなどをしている人がいて、なかなか騒がしい。


 今俺達は、三日に一度程度の割合で朝に組手を行っている。ミィルはこの組手に対して非常に乗り気で、彼女の言葉を借りるなら『毎朝でもやりたい』だそうな。


 その理由は、俺を手に入れるための挑戦回数が増えるから。彼女はどうあっても、俺を自分のものにしたいらしい。


 当然、俺とてそう簡単に打ち込まれたりはしない。


 身体強化をしなくても、魔力の流れでミィルの動きは筒抜けだ。ことごとくをはねのけ、打ち返し、あるいはかわして彼女の攻撃を凌ぎきる。


 そうして剣先でミィルが手にする剣を跳ね上げ、もぎ取るようにして刃を回転させる。


 すると。


「うがー、またあ!?」


 ミィルの手にしていた剣がくるくると回転して、明後日の方向へと飛んでいく。


 俺は無防備になった彼女の喉元へ、すかさず剣の先を突きつけた。


「そこまでだ!」


 と声を出したのは、俺達の組手を見守っていたガードナーさん。


 近頃はガードナーさんが俺やミィルに剣の指導をつけてくれている。ガードナーさんに勝利したとはいえ、剣術を一から学んだことはなかったから大変助かっていた。


「よーし。彼氏のほうは相変わらず隙がねえな。オレだって勝てる気がしねえ。……っと、嬢ちゃんのほうはまだまだ荒いな。速ぇこたあ速ぇが、言い方を変えれば速ぇだけだ」


「えー!? 攻撃で最も重要なのは速度だって言ったのはガードナーさんじゃん!」


「おう、そうとも。だがよぉ、彼女。人間ってのは速度に慣れちまうもんなんだ。速さを追い求めて攻撃が単調になっちまったら意味がねえ」


「……じゃあどうすればいいの?」


「そりゃ自分で考えるこった」


 わっはっは、とガードナーさんが笑う。


 彼は基本的な動きや型は教えてくれるが、戦い方は自分で考えろと投げっぱなしにする人だ。ある意味放任主義的だが、見方を変えれば無責任ともいうことができる。


 とはいえ。


「ま、要するに相手をこっちの動きに慣らさせなきゃいいだけのこった。そっからは自分で考えな、彼女」


 と、きちんとヒントも提示してくれるから良き教師なのかもしれなかった。


「う~……考えるのってなんか好きじゃな~い!」


「まあそう喚くなって、ミィル。それに、魔物相手には駆け引きよりも速度が大事だ。今のミィルの戦い方は間違ってないと思うよ」


「だ、だよねだよねジェラルド! あたし間違ってないよね!」


「うん。魔物相手には、ね」


「やった!」


 含みのある言い方をしたつもりだったけど、ミィルはそれに気がつかないらしい。


 ……今の戦い方だと俺には当分勝てないって言ったつもりだったんだけど、伝わってないのかなあ。まあ、ミィルだしなあ。伝わってたら伝わってたで、それはそれで面倒だし。


 そうやってミィルが落ち込んだりはしゃいだりしていると、ガードナーさんがパンと手を叩いた。


「んじゃ、今日の組手はこれぐらいで終わりにすっか。おめぇら、今日はどうすんでえ? またオレと一緒に一稼ぎすっか?」


 彼の言う一稼ぎとは、街頭で行う賭け試合である。たまに俺も一緒に組んで小遣い稼ぎをさせてもらうこともあった。


 何より、鍛錬にもなるし、な。


「いや。俺達は今日も依頼受けてきます。誘ってくれてどうもありがとうございます」


「そうか。ま、頑張れや。駆け出しの中級冒険者よぉ」


 ニカっと笑ってガードナーさんが送り出してくれる。


 それに俺達も手を振り返し、訓練場を後にしようとした時だ。俺達と入れ違うようにして訓練場にその人物がやってきた瞬間、今まで訓練をしていた他の冒険者達の間で軽いどよめきが起こった。


「ガントだ……」


「妖魔スレイヤーガントか」


「不浄を斬る者……」


「道場喰らい……」


 口々に言葉がささやき交わされる。


 その対象となっているのは、白銀に輝く鎧を身につけた屈強な体つきの男である。銀の髪は短く刈り込み、剣のような鋭い視線は歴戦の強者であることを示していた。


 誰かと思い視線に力を込めると、なんとその男の体に流れているはずの魔力が視えない。こんなことは今までで初めてだった。


 ガントは腕組みをして訓練場を見下すような目で一通り睥睨すると、口を開く。


「どうした? 文句があるやつがいるなら名乗り出ろ。俺の手で叩き殺してやる」


 殺すのかよ。潰すんじゃないのかよ。


 そんなツッコミをしそうになるのを必死でこらえながら、俺とミィル、そしてガードナーさんは訓練場を後にしようとする。


 すると。


「おい、ガードナー。逃げるのか?」


 ガントがこちらに声をかけてきた。


 ガードナーさんはというと、頬に軽い愛想笑いを浮かべていた。


「悪ォがオレと戦りたいなら金を払ってくれ。今日は街の西っかわでやってらあ」


「……腰抜けが」


「一応これでも商売だからよお。まあ、あんたの気が向くようなら、金貨のいっぱいに詰まった袋でも引っさげて来てくれりゃあオレとしちゃあ最高に嬉しいぜ?」


 ガードナーさんがそう返すと、ガントは「ふん」と鼻で笑う。そしてそれ以上は、もう話しかけてこなかった。


「……今のは誰なんですか?」


 訓練場から出ると、俺はガードナーさんに質問を投げかけた。


 彼は軽くうなずくと。


「ガント。ガント・ベルフォール。ベルフォール男爵家の四男で、冒険者ギルド所属の上級冒険者だ」


「上級!?」


「ああ。上級ってのは伊達じゃねえ。性格や口は世辞にも良いたぁ言えねえが、その強さは本物だ」


 凄いな。ガードナーさんがここまで褒めるなんて、あまり見たことない気がする。


 それこそ、俺が賭け試合で彼に勝った時ぐらいだろうか。


 そんな風に思っていると、ガードナーさんはさらに言葉を続けた。


「ま、上級冒険者としても知られちゃあおるが、道場破りの常習犯ってことで乱暴者としても有名だ。あんたらはなるべく関わったりしねえように気をつけろよ?」


「……気をつけます」


 関わったら面倒くさそうだ。


「おう、それがいい。この間もあの野郎な――」


 ガードナーさんの言葉に耳を傾けながら俺は考える。


 ガントを『視』ようとしたとき、何かに阻まれ彼の魔力を見ることができなかった。


 あれは一体――。


 ――


「お願いですお願いしますお願いしてるじゃないですかあ!」


 冒険者ギルド――。


 依頼を受けるため俺とミィルがそこへ向かうと、カウンターで誰かが騒いでいるようだった。


 視線を向けると、そこにいたのは最初に俺達に応対してくれたお姉さん――ユリアさんと言うらしい――と、銀色の獣耳にふさふさした尻尾を生やしている少女だった。いわゆる獣人というやつだ。


 この辺りで獣人を見かけるのは珍しいな。


 銀毛獣人少女は、見たところ年齢は俺達と同じぐらいに見えた。背丈は俺より低くてミィルよりは少し高いぐらい。


 二人のほうへ視線を向けていると、不意にユリアさんがこっちを見て嬉しそうな顔をした。


「ジェラルドくん! こっち来て!」


 そう叫びながらユリアさんが手招きしてくる。何かと思い俺達がそっちへ近づいていくと――。


「あなたが試験官さんなんですね!」


 と、銀毛獣人少女が俺の胸元に抱きついてきた。


「……敵? 恋敵!?」


 隣でミィルが敵意に満ちた声を上げている。


「お願いします! ボクを冒険者にしてください!」


「へ? え?」


 なおも胸元にしがみついてくる少女を引き剥がしながら、疑問の目をユリアさんに向ける。


「ど、どういう状況なんすか、これ?」


「それがね。その子が冒険者登録したいって言うんだけど……冒険者登録任務の試験官をやれる人が今出払っていて」


 確か冒険者登録をするには、冒険者登録任務をこなさないといけない。


 その任務には中級冒険者以上の階級を持つ試験官が同行する決まりになっていたんじゃなかったか?


 それにしてもユリアさん、情報伏せて追い返すってのはしなかったんだな。俺達の時のことを反省してくれているのかもしれない。


 そう考えていると、ユリアさんが顔の前で手をパンっと合わせて頼み込んできた。


「お願い! 報酬弾むから、この子の冒険者登録任務の試験官、やってもらえない?」

ケモミミです

色は色々悩んだんですが、個人的に大好きな銀色にしました

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