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あっさり魔法を修得しました

 突然の出来事に戸惑いながらも、俺は本の表紙に視線を戻す。


 すると、ただの装飾だと思っていた金糸の刺繍が、実は文字だったことに気づいた。


『日常に役立つ魔法言語集』と綴られたその文字は、本の表紙で燦然と輝きを放っていた。


 ――って。


「思いっきり日本語じゃねえか!」


 そう、そうなのだ。

 金糸で本の表紙に刺繍された『日本語』の、それもひらがなと漢字を織り交ぜて綴られたそれは、この世界に存在するにはなんとも不釣り合いであった。


 なぜ、日本語が?


 そう訝しく思いながらも表紙を開いてみれば、さっきまでは意味不明だった内容を読むことができるようになっている。


 中身も当然のように日本語で、予想通りと言えば予想通りの内容に先ほどまでとは違う意味で思わず床に突っ伏してしまいそうになった。


 内容に関しても、だいぶ酷い。

 簡単に抜粋すると、『こんにちは』『ありがとう』『さよなら』『また逢いましょう』『トンネルの向こうは雪国だった』『吾輩は猫である』『菩薩』『うっかりさん』……とりとめもない上に意味不明なラインナップ。

 吾輩は猫であるなんて、どういうタイミングで使うんだよ。著作権……は切れてるから問題ないのか、この場合? ってかこの世界には存在しないし……。


 呆れながらも何枚かページをめくると、不意にある一文が目に飛び込んできた。


『光よ、闇を照らし出したまえ』


 お、ようやく呪文っぽい言い回しを発見できたぞ。

 そろそろ暗くなってきた頃合いだし、試しにちょっと唱えてみるか。


「『光よ、闇を照らし出したまえ』」


 唱えた瞬間、目の前に現れたのは黄色く輝く光の球だった。大きさは手のひら大といったところか。

 薄暗かった納屋の中が、光球によって優しく照らし出された。


「……まさか、今のが、魔法?」


 ポカンと口を開いて光球を見る。


 だがやがて気を取り直した俺は、その光によってさっきよりも読みやすくなった魔法書の紙面へと目を走らせた。


 すると見つかるわ見つかるわ、呪文じみた言い回しの数々が。


『闇にて光を覆い隠さん』『実りし春の薫風よ、その香りにてわれらを温め給え』『忌まわしくもまとわりつく湿りを拭い去れ』『清浄なる空気にて、穢れと災いを祓いたまえ』


 ……まあ、いずれもやたらと小難しい、舌でも噛みそうな言い回しだった。さすが『呪文』とでも言いたくなるような種類の。


 それでも、これらの呪文を口にすれば魔法が発動するのだろう。試しにひとつ選んで、もう一度呪文を唱えてみる。


「『闇にて光を覆い尽くさん』」


 言いながら指差したのは、目の前で光を放っていた光球だ。

 それが、呪文を唱えた瞬間にフッと消える。


「『光よ、闇を照らし出したまえ』」


 再び光球が現れる。


「『闇にて光を覆い尽くさん』」


 光球がフッと消える。


 その後も、他の呪文をいくつか試してみたが、どれも何かしらの効果を発揮した。

 中には何も起こさない呪文もあったけれど、もしかすると発動条件が整っていなかったのかもしれない。


 ともあれ、こうもあっけなく魔法を使えたということに、気づけば俺はぽかんと口を開いていた。

 この世界の魔法、びっくりするぐらいチョロすぎである。


 こんなんでいいのかよ、ファンタジー。

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