下級→中級 最下級→下級
それからしばらくの間は色々な依頼を受けてみた。
下級冒険者である俺が受けられる依頼は、最下級から下級まで。それを毎日片っ端から受け、俺はミィルと共にこなしていった。
依頼の内容は荷物運びから魔物の討伐まで幅広い。
ちなみに荷物運びなどは最下級冒険者向け。魔物の討伐などは下級冒険者向けだ。
最下級冒険者向けの依頼は、ゼフィロスの森で素材となる薬草などを採集するものもあった。
そうやって様々な依頼をこなしているうちに、ちょうどこの日、俺とミィルはそれぞれ一つずつ冒険者としての階級を上げていた。
「ったく。彼氏よぉ、中級冒険者になるの早すぎだぜほんと」
――『森の憩い亭』。
その日、俺とミィルは夕飯を食べにカリウスさんに教えられた酒場を訪れていた。
「そうなんですか?」
「ああ。普通よお、最下級から下級冒険者になるには一ヶ月かかる。下級から中級はその倍、だな」
今俺とミィルは、偶然『森の憩い亭』にいたガードナーさんとカリウスさんを交えてテーブルを囲んでいた。
それぞれが座る席には、パンやスープ、サラダ、焼いた肉などといった料理が並んでいる。この『森の憩い亭』の料理は少し割高ではあるが、出てくる料理はどれも美味しい。
特に俺は自家製だというソーセージが気に入っていた。噛みしめると、旨味の詰まった肉汁がじゅわりと溢れ出てくるのは、冒険者としてあちらこちら駆けまわり疲れた体を癒やしてくれる。
「早い出世には違いない。だが、そういう時に人間の気は一番緩む。正念場だぞ」
「は、はいっ」
厳しいことを口にするカリウスさんの前にあるのはサラダである。エルフである彼は肉をほとんど口にせず、野菜や果物を主に食べていた。
厳しいことを言うカリウスさんに、ミィルがすかさず反発する。
「そういうキツい言い方しなくたっていいじゃん。今のところ、危ない目とかに遭ってないんだしさ」
「だからそういう気の緩みが危険を招くと言っている。それともお前は一度痛い目に遭わなければ理解できないのか? いいか。冒険者というものは、なるべく冒険せず、挑戦せず、常日頃から警戒を怠らないようにする必要が……」
「あーもーその説教聞き飽きたあっ。会うたびにカリウスさんそればっか!」
「お前の自覚が足りないからだろう。嫌というならもう少しだけでもいいから自分が危険な仕事をしていると自覚を持ったらどうだ?」
「……まあまあ」
この二人はやっぱり相性が悪いと思う。
ミィルとて、カリウスさんのことを嫌っているわけではないと思う。実際任務の最中は彼女も気を抜いていないし、警戒だって怠っていない。勇み足なところはあるものの、危険に対して無謀に突っ込んだりするような行為も謹んでいる。
しかしなんというか、言われたらつい反発してしまうんだろうなあ、彼女は。
注意されたり、助言されたりすると、とっさに『そんなこと分かってる!』だとか『自分は自分のやり方でやるの!』だとか言う人間がいる。反抗期なんかには特に多い。
ミィルはその、『反抗期に入った子どもの典型例』じゃないだろうか。
「ジェラルドからも言ってやってよこのおっさんに! さっきからグチグチグチグチうっさいのなんの、まるでうちの母さんみたい!」
「いや、でも言ってることは圧倒的にカリウスさんのほうが正しいんだからミィルももう少し落ち着きなって」
「小娘。そっちの小僧は、どちらの言葉が正しいのかよく理解しているらしい。お前もその足りん頭をもう少し使うことを覚えるべきだ」
「む~か~つ~く~! コイツやっぱヤなやつだよジェラルド! 絶対に素で性格悪い!」
多分口が悪いだけだと思う。
「だぁっはっは! 彼女もなかなかやるじゃねえか! もっと言ってやれもっと!」
ガードナーさんはなんか煽ってるし……ってかこの人はさっきからお酒飲みまくってる。凄い勢いで飲み干しまくってる。大丈夫だろうか?
ともあれ。
ゼトを訪れてから10日ほどで、俺達は冒険者としての格を一つ上げたのであった。
『その話』が飛び込んできたのは、そんな折。
俺とミィルの階級が上がってから三日が経った日のことである。




