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異世界の魔法言語がどう見ても日本語だった件  作者: トラ子猫
第二章:冒険者編(少年編)
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伐採する

 ようやく本日の目的、資材用の木の伐採が始まった。


 斧や鉈、のこぎりを手にした技術者組合の作業員達が、大人が二人や三人で抱きかかえてようやく一周できるような木を相手に各々自分の獲物を振るっている。


 だが当然のことながら、人間の持つ道具では木を一本伐り倒すだけでも時間がかかる。そのため、普段はせいぜい五、六本。多い時でも七本か八本ぐらいしか伐り倒すことができないということだった。


 積み荷を乗せる荷車は三台。そのうち一台には枝を切り払い丸太にした木の幹を乗せ、もう一台には切り払った後の枝を積み上げる。最後の一台は、二台では足りなかった時のための予備である。


 だが最後の一台が使われるのはごく稀だという。基本的には二台の荷車だけで済むらしい。


 それを聞いて、俺は自分の力で足しになるのなら協力を申し出たいと思った。魔術の力は、こういう作業にもきっとおあつらえ向きの効果を発揮するはずだから。


「……って思ったんですけど、やっぱり余計なお世話ですか?」


 とはいえ、勝手にそういう作業をやるわけにもいかない。独断専行をすればそれだけ他人に迷惑がかかることもある。


 だから一応カリウスさんに伺いを立ててみると、


「少し待ってろ」


 男性にしては少し長めの髪を軽く揺らして頷くと、言葉少なにゴンさんのところまですたすたと足を進めていった。どうやら確認してきてくれるらしい。口に似合わず、本当に面倒見のいい人だ。


 ほっそりとした後ろ姿を俺は見送る。こうして後ろから見ると、カリウスさんは男性というよりはどこか女性的にも見えた。


 肩幅は狭いし腰は細いし、頭などは本当に男かと思えるぐらいに小さかった。美しい、という言葉がよく似合う。


「おい」


 そんな失礼かもしれないことを考えていると、低い声でカリウスさんが俺を呼ぶ。触れたものを片端から斬りつけるような鋭い視線がこちらへ向けられている。


「あ、はい」


「来い。ゴンちゃんから許可が出た」


 ゴンちゃん(・・・)


 首を傾げつつも、ゴンさんとカリウスさんの下へ駆け寄る。するとゴンさんが俺のほうへと目を向けた。


「よう。あんた、ジェラルドよお。木を伐り倒すの、魔術で手伝ってくれんだって?」


「はい。俺で力になれれば、と思って」


「んー……まあ、正直ありがてえ申し出だがな。魔術でそんなことができんのか?」


 訝しげな様子でゴンさんが問いかけてくる。まあ、確かに魔術のことをよく知らない人間からしてみれば、俺のような子どもが巨木を伐り倒す姿を想像するのは難しいかもしれない。


 ゴンさんの立場に立てばその懸念ももっともなので、こういう反応をされるのも仕方ないだろう。ましてや相手は木を伐り倒すことにかけては、一介の冒険者である俺達よりも詳しいに違いなかった。


「俺も、魔術で木を伐り倒した経験はさすがにありません。でも魔術を活用すれば、普通にやるよりも簡単に、そして早く作業をできるんじゃないかと思うんです」


「ここへ来るまでにこのガキが魔術の扱いに優れていることは明らかだ。腹立たしいことに、クソ生意気なクソガキの分際で、腕のほうは確からしい」


 カリウスさんも横から口添えをしてくれた。言い方はとても乱暴だったけど。


「それにあまり時間が遅くなればそれだけ魔物との遭遇戦も多くなる。日中のほうがやつらの活動は鈍いからな。早く終わらせることができるなら、さっさと切り上げて帰るのが賢い選択というものだろう」


「あー……まあ、カリウスの言うことも一理あるな。よし、試してみても損はねえだろ。今日はいつもより到着時刻も早かったし、上手く行かなくてもなんの問題もねえ」


 俺よりもむしろカリウスさんの言葉が効いたのか、ゴンさんが首を縦に振る。そして作業をしていた人達に向き直ると、


「おおい、テメェら! 一旦引き上げろやぁ! 魔術で木をばっさりやってくれるんだとよ!」


 と叫ぶ。


 するとゴンさんの声に応じてみんなぞろぞろとこちらまで戻ってくる。近くに人がいれば木が倒れた時に危ないため、一時的に場所を空けてくれたのだ。


 俺は前に一歩進み出るが、どういう木を伐り倒せばいいのかという知識がまるでない。そのため少し困っていると、


「そうだな、あの木を伐り倒してくれや。枝ぶりがなかなか立派で気に入った」


 後ろからゴンさんが、ある一本の木を指差してそんな指示を飛ばしてくれる。


 枝ぶりが立派なのかどうか俺にはよく分からない。とはいえ、ゴンさんは俺よりずっと木のことを知っているはずだ。


 俺は指定された木へ手のひらを向けると、即興で考えた呪文を口にした。


「『伐採せよ』」


 唱えるやいなや、根本近くをすっぱりと切り落とされた木が、みしみしと音を立てながら傾いていく。そうしてやがて重々しい音を響かせながら横倒しになると、後ろからみんなの歓声が上がった。


「おお、すげえな坊主!」


「生意気だが、頼りになるじゃねえか!」


「生意気だけどな! クソ生意気だけどな!」


「……ふん」


 最後に鼻で笑ったのは多分カリウスさんだと思う。


 賞賛と野次の言葉を背中に受けて、俺は嬉しくも少し恥ずかしい。思わず照れ笑いなんかを浮かべたりしないように苦心しながらゴンさんに問いかけた。


「あの、これ、どこか適当なところに運びますか?」


「頼めるのか? だったら、枝を切り払ったりしねえとなんねえし、ちょっと開けた場所がいい」


「それじゃ、あの辺とか?」


 言いつつ、道の少し幅広になっているところへ視線を向ける。ゴンさんもそちらへ視線を向けると、、


「そうだな。そこいら辺りなら邪魔作業もしやすいだろ」


 と首を縦に振ってくれた。


 そうと決まれば、あとは指示に従うだけである。


「『運搬』」


 伐り倒した木へ手のひらを向け、俺は次なる呪文を口にする。


 すると木はふわりと宙に浮いた。試しへ右や左に動くよう念じてみると、木は俺の意志に従って、自由自在に動いてくれた。


 これなら簡単に運ぶことができそうだ。


 俺は先程ゴンさんに指示された場所まで木を運ぶと、今度は、


「『その場に下ろせ』」


 と口にする。


 そうすると、今度は先程とは打って変わって、木は静かにその場に下ろされた。


 そんな作業をさらに何回か繰り返すと、いつもは夕方までかかるという作業が昼を少し過ぎた辺りで終わってしまう。一番時間のかかる作業を大幅に短縮することができて、みんなも嬉しそうな顔をしていた。


「作業中は何かと無防備になりがちだからな」


 帰りの道中にカリウスさんが話してくれる。


「森の中に作業のために分け入れば、それだけ不意を突かれることも多くなる。たかが木を伐り倒すだけの作業だと新人の貴様らには見えるかもしらんが、時間を長くかければかけるほど魔物に襲われる危険性も高くなる。そうした現場では、速度こそが最も大切だ」


「じゃあ、今日はジェラルドのおかげで安全に仕事を終えることができたってわけだよね!」


 ミィルがそう言うと、カリウスさんが冷たい視線を彼女へ向けた。


「それは事実だが、だからといって油断していい理由にはならんぞ、小娘。意識のほつれは死を招く」


「は、はい……」


 カリウスさんの厳しい指摘に、ミィルはしょんぼりを肩を落とした。そんな彼女へカリウスさんはさらに、


「背中を丸めて歩くな。いざというときの対応が遅くなる」


「は、はいぃ!」


 などと注意を飛ばす。


 しかし幸いながら、帰りの道は大きな危険に出会うこともなく、俺達は無事冒険者街へと戻ることができた。


「初めての任務にしては、まあ、悪くない。とはいえ貴様らはガキだからな。ダンジョンで注意を怠ったりしないよう、特に気をつけることだ」


 別れ際、カリウスさんがそんな言葉をかけてくる。


 俺はその言葉を今後の教訓としてしっかりと胸に刻みこみ、ようやく初めての任務を終えたのだった。

新しく連載始めました。

詳しくは、あとがき欄の下部↓を御覧ください

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