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異世界の魔法言語がどう見ても日本語だった件  作者: トラ子猫
第二章:冒険者編(少年編)
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はじめてのダンジョン

 ノエルさんの口から語られた依頼というのは、簡単に言ってしまえば積み荷の護衛であった。


 木材を取り扱う技術者組合からの依頼で、木炭や薪、資材等の原料となる木をゼフィロスの森で切り倒し、複数台の荷車に積むらしい。作業の最中は無防備になり、しかも積み荷の都合上時間もかかるため、護衛が数人ほしいということなのだ。


 下級から中級冒険者向けの依頼らしいが、パーティを組んで依頼すれば最下級のミィルも参加することが可能。依頼達成の際の報酬は一人辺り二レゾ二十レイス。


 かなり高額な報酬設定は、拘束時間の長さが理由だろうか。朝方に出掛けても日暮れ近くまでかかるようだし、一日を潰す対価としては妥当なのかもしれない。


 その他食事のほうは、技術者組合から配給がされるとのこと。なお、飲み物は各自で持参する必要があるようだ。


 いくら魔術が使えるとはいえ、封印跡地(ダンジョン)の歩き方を俺達はまるで知らない。そのため、他の冒険者達との合同任務になるこの依頼は、行きがかり上非常に都合が良かった。


 そういうわけで、俺達はその依頼を受けることにする。


「じゃあ、初任務頑張ってね。ジェラルド君」


 ノエルさんはそう言ってにっこり微笑むと、手を振って俺達をギルド本部から送り出すのだった。


 ――


 冒険者通りにある指定された集合場所に向かうと、すでにそこには三台の荷車と何人かの冒険者達が待ち受けていた。みな物々しい装備に身を固め、いかにも腕に覚えのありそうな風体の人が多かった。


 その近くには、冒険者とはまた趣のことなる格好の人達もいる。依頼主である技術者組合の人達だろうか。みんなたくましい体つきをしており、手に手に斧や鉈を持っていた。


「あの、依頼を受けに来たジェラルドとミィルです」


 組合の人間と思しき手近な一人に声をかける。頭に布を巻いていて、まるで山賊のような印象の人だ。


「あん?」


 山賊面がこちらを振り向き、片眉を釣り上げる。


「お前ら、そんなナリして冒険者だってのか? ひょろっくせーガキじゃねえか」


「でも、ギルドの紹介状はありますよ。それに俺なら下級冒険者だし、依頼を受ける資格は十分満たしてるはずですよね?」


 言いながらノエルさんから受け取った紹介状を手渡す。山賊面は怪訝な顔でそれを覗き込むと、次の瞬間には顔色を変えて大声を上げた。


「あんた、ギルド長から直接依頼を受けたってぇのか!? そりゃ、すまねえこと言っちまった。今日はよろしく頼むぜ、あんた」


 途端に馴れ馴れしい口調になって、男は俺の肩をバシバシ叩いてきた。ちょっと痛い。


「ええ。しっかり護らせてもらいます」


「おう、頼りにしてるぜ。おれぁ組合のまとめ役で、ゴンザレスってんだ。ゴンって呼んでくれ」


 ゴンさんはそう言って、「向こうで待っててくれや」と冒険者達のたむろしてる方をあごでさす。それに従い、俺とミィルは出発する時間を待った。


 やがて一行は、封印跡地であるゼフィロスの森へと出発する。俺とミィル以外の冒険者は他に八人で、組合の人間は十五人ほど。この面子で日暮れ近くまで木を伐り倒し、夜になる前に帰ってくるのだという。


 冒険者の中には、人間以外にもエルフが数人混じっていた。ダナディーン大陸には人間の他、エルフやドワーフ、獣人といった種族が存在しており、森や水辺の多いハルケニア王国にはとりわけエルフ族が多く住んでいるという。


 人並み外れた美貌と遠くを見通す視力を持つエルフ達は身軽で有名だ。剣の腕もさることながら、その優れた視力を活かした弓での狙撃は人間などでは太刀打ちできないと聞いたことがある。


 実際、一行に交じるエルフの人達は肩に弓を担いでいて、背中には矢筒まで背負っている。きっと、頼りになる戦力となることだろう。


「なんかさ。ちょっと、ドキドキするね」


 そんなことを考えていると、ミィルが話しかけてくる。彼女は要所を革の鎧で守っており、腰からはショートソードを提げていた。どちらも、ギルドからの支給品である。俺も同じような装備をまとっていた。


「ドキドキ?」


「うんっ。あたし達は冒険者になってこれが初めての任務でしょ。だから、なんていうかこみ上げてくるものっていうか、大きな感動と一抹の不安っていうか、さ」


「そうだな」


 ミィルの言葉に俺は頷く。


 封印跡地に行くのはこれが初めてなのだ。そこがどんな場所なのか、どういった魔物と出会うのか、期待と不安がないまぜになったような気持ちが胸にあるのは否めない。


 でも、そんな微妙な感情まで含めて、これからのことを楽しみにしている俺がいるのも事実で……まあ、要するに俺もドキドキしているというわけだ。


 態度から、俺のそんな気持ちを察したのだろう。ミィルがニッと微笑んで、


「楽しみだね」


 と言ってくる。


 こちらも、


「そうだな。楽しみだ」


 とミィルに微笑み返した。


 そんな風に、和やかな会話を繰り広げていると、道の先にゼフィロスの森の入り口が見えてくる。


 入り口と言っても、道の脇に立てられている木の看板に『封印跡地:ゼフィロスの森』と書かれているだけだ。


 森との境界線には、完全武装した兵士が二人立っていて、警戒するような視線をこちらへ向けてきていた。


 ゼフィロスの森に限らず、封印跡地(ダンジョン)の境界線には魔物など危険な生き物が出没しやすい都合上兵士が置かれることになっている。中に入るには、この兵士にギルドから発行される通行許可証か冒険者登録証を見せる必要があるのだ。


「いいぞ」


 ゴンさんが通行許可証を見せると、兵士は腕を振り中に入るよう促した。ぞろぞろと、人間(エルフも含む)二十人と三台の荷車が森の中へ入っていく。


 いよいよ、初封印跡地(ダンジョン)だ。


 再びミィルと視線を交わし、拳をぐっと握り合っていると。


「おい」


 後ろから不意に話しかけられた。


「はい?」


「そこの子ども。ここからは気を引き締めてかかれ」


 振り向くと、そこにはエルフの男性が険しい目つきで俺達を見ていた。淡麗な顔立ちが、気難しげな表情のせいで台無しだ。


 エルフは容姿が美しいが、気位が高く気難しい者が多いとも聞く。このエルフはそういった評判を裏切らぬ性格をしているそうで、厳しい顔立ちを崩さずになおも言葉を続ける。


「見たところまだ駆け出しのようだがな。貴様らが足を引っ張れば困るのは我々同行者だ。せいぜい足手まといにならぬよう、無意味に出張ったりしないことだ」


 ……随分な上から目線だな。


 まあ、確かにこっちが新入りなのは間違いない。迷惑をかけられたら困ると言いたい気持ちも分かる。


 だからといって、いくら顔がいいからって、ここまで傲慢な言い方をされるのは気に食わない。


「……感じ悪」


 隣でミィルがボソリと呟く。俺とまったく同じことを思っていたらしいが、それを相手に直接言わないだけの分別は幸い持ち合わせていたらしい。


 とはいえ、言われっぱなしも性に合わない。何も見ないうちから上から目線でモノを言ってくる奴の鼻を明かしてやるぐらいのことは許されるだろう。


 おあつらえ向きに、こちらへ何匹かの魔物が向かってきていることを魔力にて感知する。あと少しで、俺達の行く手に立ちふさがるはずだ。


 そこでちょっとばかり、俺の力を見せつけてやるとするか。


「いいですよ。俺達が使えるってこと、目の前で証明させてもらいますね」


「なにを……」


 相手が何か言いかけた直後、木々の間から魔物が数匹現れて行く手に立ちふさがる。


 直立歩行する身の丈が三メートル近い猪、ボアベアが三匹。強力な毒を持つ巨大ムカデが一匹。そして、人の頭ほどもある巨大な蜂、アイアンビーはというと……数えるのも面倒くさいほど。


 いずれも一筋縄ではいかない魔物らしいが、中でもアイアンビーは群れを作るため厄介な魔物だという。冒険者の間では、中級以上の冒険者でも単独では戦わないほうがいいと言われているのだ。


 ただまあ、今の状況ではむしろ俺としては好都合。力を見せつけるチャンス以外の何物でもなかった。


「くっ、構えろ! 油断するな!」


 俺達に話しかけてきた偉そうなエルフが、そう言いながら弓に矢をつがえる。


 他の冒険者達も、各々剣や盾、弓を手に臨戦態勢に入っていた。


 だがまあ、俺とミィルにとってはそんなことは関係ない。俺は無手で、ミィルは剣だけ片手に、たった二人で魔物の群れへと歩み寄っていく。


「おい、お前達! 危ないぞ!」


 後ろからそんな声がかけられるが無視しておいた。だって、別に、これぐらいなら危なくない(・・・・・)から。


「何をしている! さっさとこちらへ戻ってこい、新入り!」


 あの偉そうなエルフの声。正直、うっとうしい。心配されるほどのことじゃないのに。


 だから口で言うよりも分かりやすくそのこと(・・・・)を説明するため、俺は魔物の群れに片手を向けると、


「『風よ。我が敵を斬り刻め』」


 呪文に魔力を適度に込めて口にする。


 不意に吹き荒れた風の刃によって、ボアベアも、巨大ムカデも、アイアンビーも、一匹だけ残していくつものパーツに解体された。


 空中を飛んでいたアイアンビーだった肉片や羽がバタバタと地面に落ち、巨大ムカデやボアベア達の欠片はその場で小さな山となる。


 そして、あえて仕留めずに一匹だけ残しておいたボアベアはというと。


「ふんなぁー!」


 と、ミィルが間の抜けた声と共に突き出した刃によって、喉を貫かれ絶命していた。


 俺がミィルに提示した、『付き合ってもいいという条件』というのは、『俺との模擬戦で一撃でも俺に攻撃を当てる』こと。


 その条件を達成するため、村では毎日のように俺に挑みかかってきていたミィルにとって、ボアベアのような鈍重な魔物を殺すぐらいなら簡単に急所を一撃で突くことができる。


 彼女は十分に、封印跡地(ダンジョン)での戦いで戦力に数えることができるだけの実力を持っているのだ。まあ、ガードナーさんとかと比べると、多分まだまだ未熟なんだろうけどな。


「さて、と。これで邪魔はいなくなったな。それじゃ、さっさと先にでも進みません?」


 ミィルがボアベアを仕留めたのを確認した俺は、後ろを振り返ってそう促した。


 だが、誰も動き出す様子がない。みな、唖然とした表情のまま、間抜けにも口をぽかんとあけていた。その中には、あの傲慢エルフの顔もあった。


 どうやら目の前で起こったことがまだ信じられないらしく、目を白黒させている。せっかくの美男子が、間抜けすぎる表情のせいで色々と台無しになっていた。

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