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異世界の魔法言語がどう見ても日本語だった件  作者: トラ子猫
第二章:冒険者編(少年編)
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プロローグ:路地裏の少女

冒険者編始まります。

今後も楽しんでいただけるよう精一杯頑張りますのでどうぞお付き合い下さい。

「っう、く」


 冒険者街ゼト。それはダナディーン大陸南部に広がるハルケニア王国の中でも、東部に位置するラウド領内に存在している。


 冒険者街というものは夜も眠らない街として有名だ。事実、月も星々も天空高く煌めく時間になろうというのに、街の、とりわけ繁華街と歓楽街に位置する地域は今も松明やランプの光に溢れている。


 光に交えて聞こえてくるのは、荒くれ者として知られる冒険者達の胴間声。枯れたような物々しい笑い声が、あるいは怒鳴り声が、松明によって夜の闇を切り裂かれた空間に響き渡る。


 通りでは娼婦が盛んに男を誘う。酒の匂いが喧騒に入り混じり、誰も彼もが宴に歓喜の声を上げ強い酒の入ったジョッキを傾ける。


 別段珍しい光景ではない。この街に限らず、王国内に存在する四つの冒険者街でも毎晩が同じような大騒ぎだ。


 だが、いくら冒険者街といえど、光の差す場所があれば当然ながら影もまた生まれる。路地を一つ曲がれば、そこには表通りの陽気さとは裏腹に、うらぶれた空間が現れる。


 ――その女は、涙していた。


「ちく、しょう……う、うぅっ、く」


 嘆きの色が張り付いた顔は暗く落ち窪んでいるかのようだった。瞳から生気は失われ、絶望の影がちらついている。


 背格好は十四か、十五か。うら若き乙女といった風貌は、薄汚れた路地裏に似つかわしいものではなかった。


 しかし、彼女のまとう雰囲気はまさしく光から嫌われた、心を暗闇に囚われた者特有の陰鬱さに溢れ返っており。


「ぅっ、ぅぅう、く、ぁああぅ」


 膝を立て、背中を路地裏の壁にあずけて座り込む少女は、涙に汚れた顔を隠すようにして両膝の間に頭を埋める。微かに差し込む松明の光に照らされた地面に、涙がポタポタと垂れるのを、彼女は空っぽな心で見つめていた。


 頭を占めるのは一つの疑問だった。


(どうして。どうして……?)


 まとっている服はいい加減ボロい。もう何日もこの街の中をさまよっていた。夜風が一迅路地裏を吹き抜ければ、思わず震えてしまうほどに、生地も粗雑で薄かった。外套を買うだけの手持ちもない。少女はほとんど一文無しなのだ。懐の残されているのは、心もとない小銭が数枚きりだった。


 他に少女が持っているモノはといえば、『アレ』ぐらいのものだろうか。記憶に残る、頼りがいのある背中。広くて大きくて憧れだった背中を持つあの人と、ある約束を交わした時にその証にと譲り受けたアレ(・・)


 でも。


(ごめん……ごめんなさい。約束を、守れなかった。絶対に守ると誓ったのに、それをわたしは、果たせなかった……)


 裾のほつれてしまった服の胸元を強く握りしめる。いい加減夜気が体に障る時間帯にも関わらず、頼りない薄布の下に感じるのは、少女の在り方でもあったモノ(・・)


 しかしその在り方も失われてしまった。あの人と交わした約束を反故にすると同時に、心がボロボロになったのと同じ時、砕けて散って消えてしまった。


 それでも少女の、空っぽになった心の片隅では、未だにある願いが燻り続けている。その火種はまだまだ小さく、そして儚い。


 けれど。


「守らなきゃ……まだ、守れる、はずなんだから。あの約束を……」


 けれど――確かにそれは、希望は、願いは、燃えている。それを示すかのように、少女は胸元を一際強く握りしめる。


 手のひらは、確かにアレ(・・)の感触を感じ取っていた……。

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