日本語で魔法が使える、この世界
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『焔よ』
魔法言語が大気中の魔力と反応を起こし、言霊に秘められた力を解放する。
すると即座に、俺の目の前には赤く燃える焔が顕現する。
それはしばらく空気中で燃焼し、やがて力を消費して消えていく。
これこそが、魔道書に記された魔術の一つ、『焔』。
『焔』は、火を意味する魔法言語を唱えることで任意の場所、モノ、対象に火を点ける魔術だ。
この魔術を用いるためには魔法言語を学び、解し、単語の意味を正確に読み取る理解力が必要不可欠である。
また、魔法言語は大気中に含まれた『魔力』と反応し、言霊に秘められた現象を解放することで『魔術』として顕現する。そのため、大気中の魔力を感じ取る能力も重要である。
個人差があるものの、ほとんどの人間は魔力を感じ取る素養を備えているのだという。
そもそも、人間もまた日常的に魔力の恩恵を受けていることも少なくない。作物のよく実る土、綺麗かつ水量の豊富な川、また日々口にする食物にも魔力は含まれているのだ。
そういう意味では、潜在的に『この世に生まれ落ちたすべたの人間』が魔術を操ることが可能なはずである。
だがそれでも、魔術師というのは俺の転生したこの国、『ハルケニア王国』でも数が少ない。
それはひとえに、魔法言語の修得が非常に困難であるためだ。
当然のことながら、魔法言語は日常で使う言葉とはまるっきり発音が違う。
魔法言語は、この世界で使われている言語と違い、母音がたった五つしかない。しかし基本となる『音』は五十を超え、それらすべてを正確に発音することができなければならない。
その発音の中には、我々が普段使っている言葉にはない音もある。
その上、別々のものを意味する言葉でも、発音や発声がまったく同じモノがある。
それらは文脈や言い回しによって微細に変化し、意味を変え、それこそ一連の文章の中でも千変万化する。
だから魔術師は非常に少ない。まず、一般的な教養も満足に得られない平民から出ることはない。
貴族などでも魔法言語の才があり、かつ魔術学院へ進んだ者ぐらいしかまともに魔術を行使することができない。
おまけに魔術学院の卒業率も五パーセントを切るという難関ぶりだ。年間百人が入学しても、卒業できるのは――つまり魔術師として認められるのは五人だけしかいないというわけだ。
実際、年間に入学する生徒数は百人を超えることなど滅多にないから、卒業できる人間はさらに少ない計算となる。
このハルケシア王国内においても、魔術師と王家に認められている人間は五十に満たない。
そして数が少ないからこそ、魔術師というだけで莫大な富と栄光、そして尊敬を一身に受けることができるのだ。
そういった存在であるからこそ、魔術師になるというのは非常に困難な道なのだ。
……もっとも、俺にはそれは当てはまらないが。
俺の名前はジェラルド。ハルケニア王国で近い将来、『宮廷筆頭魔術師』になる存在だ。
そんな俺のもうひとつの名は緒方和彦。これは前世の名前で、前世の俺は地球という星にある、日本という国で育ち、そして若干十九歳という若さで死んでしまった青年……だった。