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今日も私は夢を見る

作者: らすく

「君で最後だ。」


 目に移るのは、おびえて後ずさる青年の姿。


「たっ……頼むっ!! 助けてくれっ。」


 涙を流して懇願してくるが、私の目には何も写らない。


「ここに居る以上。 君の運命は"死"あるのみだよ。」


 右手の刀を持ち上げ、左手で刃をなぞる。こびりついた血が、指でぬぐわれると鈍い銀色の光が現れる。


「ひっ……ひぃぃぃぃ」


 男は腰を抜かしたように地面に座り込むが、腕の力だけで少しでも遠くへ逃げようと這い出そうとする。


「鬼ごっこ? いいよ、付き合ってあげる。」


 深く笑みを浮かべ、ゆっくりとその後姿に近づいていく。男は必死に逃げようとするが、這うように歩く人間とゆっくりだが普通に歩く人間。逃げられるはずは無い。

 だが、最後の獲物だ。存分に恐怖を味わって貰おう。


 男の横に座り、一言だけ告げる。


「遅いよ?」

「ひっ……ひぃぃ」


 男は手をもつれさせ地面に転がった。そのまま立てなくなった男の股間から液体が流れ出す。


「ひっ……ひいっ……いやだっ……死ぬのは嫌だっ……」


 何を言ってるんだ? 自分は多くの人間を殺したというのに自分だけ死ぬのが嫌とか……殺される覚悟を持っていない人間が殺しをしてはいけないのに。

 だがまぁ、このぐらいでいいか……後は始末するだけだ。


「もう良いかな? さようなら。」


 軽く刀を横なぎにすると、音も無く男の首と胴体に一本の線が浮かび上がる。

 線に沿って男の首が後ろに転げ落ちると、あふれ出した鮮血が私を染める。

 甘美なまでにかぐわかしい匂いに包まれたまま、私は目を閉じる。



----



 "チチチチッチチチッチチチッ"


「ん……うっ……」


 目覚ましの音で意識が覚醒する。

 後5分だけ……そんな気持ちが頭の中をよぎるが、けだるい気持ちを抑え目覚ましに手を伸ばす。


 目覚ましのスイッチを押しアラームを止めると、上半身を起こし時計を見る。


 時刻は6時半。


 そのまま時計を眺める事約5分。やっと動き出す気力が沸いて来た。


「また……あの夢か。」


 幼い頃から繰り返し何度も何度も見た夢。夢の中の私は毎回違う相手を、何人も何人も切り殺し、その血をすすり続けていた。

 夢の中の私は自分の姿を見た記憶がない。だが判る、あれは私だと。

 手足の長さ、リーチは年々成長している。私が成長するに合わせ、夢の中の私も成長しているのは間違いないだろう。

 こんな事……誰にも相談できない。


 ずっと小さい頃、友達や母親に相談した事があるが、怖がられたり、いじめられてないか心配されたり……

 きっと相談するだけ無駄なんだろう。いつしか私はそんな事を思うようになっていた。


 気にする事をやめたからだろうか? 最近は夢を見る頻度が増えてきた。そのお陰か、人の血や自分の血を見て気分が悪くなると言う事は無いけど。毎晩うなされる報酬には釣り合わない気がする。


 そもそも刀など振り回した事の無い、ごく普通の女子高生である私があんな夢を見るのは何故なんだろう。


 容姿―10人並

 身長―普通

 運動神経―中の下

 成績―上の中

 彼氏―居ない暦=年齢


 うん・・・何所から見ても普通すぎて悲しくなる。余り深く考えると悲しくなってくるからもうやめよう……


 っと、いけない。そろそろ学校に行く準備しないと遅れてしまう。


 ベットから降りると、パジャマを脱ぎ、制服に着替える。

 ブレザータイプで、上下共に紺とブルーのストライプ柄。襟のリボンタイとプリーツスカートがとても可愛いお気に入りの制服だ。多少の改造が可能ってことで選んだ、背伸びをした進学校。

 いつもと同じく、家を出て学校へ向かおう。



----



 学校に着くと、周囲がざわついていた。

 どうしたんだろう?


「ねぇ、小百合どうしたの?」


 前の席の友人に話しかける。


「美月が職員室で聞いてきたんだけど、転校生が来るらしいのよ。」

「へぇ、そうなんだ?」


 美月とは、クラスに1人は居る情報通でいつも何所からか情報を聞きつけては皆に教えてくれる友人の1人だ。


「転校生って男の子? 女の子?」

「それがね、すっごい美人って噂なのよ」

「なるほど、通りで男子が浮き足立ってるのね?」

「そうそう。でも美月が言うには何か訳有りなんだって」

「訳有り?」

「そう、なんでも夢見る女の子を探しに来たって言ってるんだって」


 小百合の言葉に心臓がドキンと跳ね上がる。


「へぇ、そうなんだ?」


 動揺を隠して普段どおりの口調を装って話しを続ける。


「夢見る少女って、どこのメンヘラを探してるのか? って話しだよね」

「あはは、そうだね」


 小百合にまだ夢の事を話した覚えはない。それにその転校生が探しているのが私だと決まっているわけでもない。

 なのに胸の鼓動が今だ止まらないのは何故なんだろう……


「ねぇ、凄い汗だよ? 大丈夫?」


 いつの間にか汗をかいていたらしい、小百合が心配してくれている。


「あ……うん、大丈夫。

 ちょっと走ってきたから汗かいちゃったのかもしれないね。すこし顔を流してくるね」

「うん……体調悪いならすぐに言いなよ? 保健室ぐらいならついて行って上げるから」

「ん、ありがと。

 ちょっと言って来るね」


 小百合に断ってトイレに向かう。その間も動悸は続いている。

 落ち着け私。何も転校生が本当に夢を見る少女を探している訳じゃない。もし本当だとしても私じゃないかもしれない……

 

 そう考えながらトイレにつくと、鏡に映った自分の顔を見て驚く。

 顔色が真っ青で額には脂汗が浮いていた。確かにこれは心配されるレベルだった。


 トイレに他の人が居ないことを確認し、鏡に右手をつく。

 

「シタワイサナキツチオ」


 昔お母さんに習ったおまじないを唱える。

 じっと鏡を見つめていると、不思議と気持ちが落ち着いてきた。


「ふぅ……」


 軽くため息を吐いて額の汗をふき取ると、幾分か顔色がよくなった気がする。


 "キーンコーンカーンコーン"


 そんな事をしていると予鈴が鳴り響いた。

 いけない、HRが始まってしまう。


 私は小走りに自分の教室へ戻っていくと、教室の前に1人の少女と担当の教師が立っていた。

 私は教師に会釈をして教室に入ろうとしたが、何かひっかかり顔を上げる。


 そこには少女の顔があり、目が合ってしまった。

 まるで夜の闇のように真っ暗な瞳に吸い込まれそうになり、じっと見つめ合ってしまった。



 この出会いが後の私の運命を左右し、私を悪夢の中へと引きずり込むと知ったのはもっとずっと先の話だった。

 毎月おなじみ木下秋さんと憂木冷くんとみやさんの企画に乗っからせて貰いました。

 少々短いかな? と思いましたが、丁度気持ち悪い終わりになりそうだったのでこの辺で切らせていただきました。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれっ?ここで終わりって……。 続きが気になります。
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