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誓い。

勇者様に暴言を吐いたせいでお城から出頭命令が出て現在護送の兵士さんにドナドナされてますアーサーこと朝倉透です。

粗末な馬車の中にはそんな私の付添い人を申し出てくれた彩香さんがいます。対面です。しかし出発してから一度もこちらを見てはくれません。その上空気はぴりぴりしています。明らかに怒っています。正直言って針の筵です。


「あ、の…彩香さん?」


恐る恐る話しかけてみますが、彼女はそっぽを向いたままです。へこみました。無視されるなんて初めてです。もう立ち直れないかもしれません。

そのまま地にめり込むように落ち込んでいる私に、彩香さんが小さくため息を吐きました。


「私がなんで怒ってるか、分かる?」


静かな声ですが、それが余計に彼女の怒りの深さを示しているようで、私は必死に考えました。けれどさっぱり分かりません。なにがどうしてこうなったんでしょう。というかそもそも、あまりの衝撃にすっぽり頭から抜け落ちてましたが彩香さんが付添い人な事自体問題だと思うんですが。今からでも村に戻ってもらう事って出来ないんでしょうか。

―――と、そこまで考えたところで。


「…全然分かってないってわけね」


地を這うように低い彩香さんの声に、私はびくっと肩を竦ませました。え、なにこれなんですかちょう怖い馬車内の温度が十度ほど下がった気がするんですが気のせいですか。

若干涙目で彩香さんを見ると、彼女は―――酷く、傷ついた顔をしていました。


「―――…彩香、さ」


ただの呼び掛けでしかないそれを、彩香さんの言葉が遮りました。


「私が怒ってるのは貴女が勝手に全部一人で決めて、決めつけて、そのまま前に進もうとしたからよ」


静かでありながら苛烈な怒りがこめられたそれに、私は成す術もなく固まっていました。


「守る?ふざけないで。そんな事望んでないわ。貴女は私が巻き込んだのよ。その結果起こった事は、私にも責任があるの。もしもこのまま貴女が罪に問われたら、私は一生後悔するわ。気にしないなんて、出来るはずないじゃない。それなのに貴女は、全部一人で引っ被って私には戦う機会すら与えてくれなかった。貴女は私から自分を切り捨てようとしたのかもしれないけど、それは違うわ。私を切り捨てたのは貴女の方よ」


冷たい言葉の羅列は、私が彼女に与えた苦痛そのものでした。愕然として彼女を見つめる私に、彩香さんはついに声を震わせました。


「…っそれに、貴女一人が私を支えにしてたみたいに言った事にも腹が立ったわ。この世界に来て一年間、私がどれだけ寂しかったと思ってるの?家族も友達も、元の世界の事を知る人すらいない世界で、やっと出会えた日本人なのに。渡り人はそういうものだ、なんて常識、知らないわ。だって貴女はここにいるじゃない。手を伸ばせば届くのに、諦められるわけないでしょう?私だって貴女を支えにしてたのに、一方的に手を放そうとしないでよ!」


悲痛な叫びでした。それは私の知らない寂しさ。彩香さんがずっと苛まれていた孤独。もう一度その孤独に叩きこもうとした私は、なんて残酷な人間でしょう。どれほどの恐怖を彼女に与えてしまったのか、考えるだけで眩暈がしそうです。

彩香さんは一つ息をついて整えて、そして真っ直ぐに私の目を見て言いました。


「さっき私は貴女の手を振り払ったけど、それと同じ事を貴女は私にしたの。無自覚にね。すごく、悲しかったわ。もう二度としないで。―――それでお相子にしましょ?」


淡く微笑んで差し出された手を、私はぎゅっと握りしめました。そのまま自分の額に押し当てて、首を振ります。

お相子だなんてとんでもありません。明らかに私の方が彩香さんを傷つけています。そう簡単に許せる事ではないはずです。どうしたら彼女を安心させてあげられるでしょう。傷ついた心を癒すために―――私はなにをしたらいいですか?


「彩香さん」


正解かどうかは分かりません。けれど一つの答えを携えて、私はしっかりと彼女の瞳を見つめました。


「これから先、なにがあろうと貴女の側を離れません。命を粗末にする事も、貴女を理由に無謀をする事もしないと誓います。…私と一緒に、王都に来て頂けませんか?」

「喜んで」


そのやり取りがまるで本物の恋人同士のようで、私達はほとんど同時に笑みを零しました。



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