付添い人。
大人しく出頭に応じた私は、身の回りを整理する時間を与えられました。
とはいえ、この世界に来てまだ三ヶ月。それ程荷物はありません。数日分の着替えと生活雑貨と常備薬、それから大切な物をいくつか鞄に詰め込めば、それで準備は完了です。
さほど時間をかけたつもりはありませんでしたが、外に出るとそこには騒ぎを聞きつけたらしい村人たちが集まっていました。
誰もみな心配そうにこちらを見て、数人は悔しそうに唇を噛みしめています。もしかしたら、私が荷物をまとめている間に兵士さんにかけ合ってくれたのかもしれません。
私は彼らに頭を下げ、そして用意されている馬車に向かって歩き出しました。
「…一人、付添い人を連れていくことが許可されているが」
「必要ありません」
すれ違いざま強面の兵士さんにそう言われましたが、一瞥もくれないまま却下しました。
少しずつですが、私を受け入れてくれた村です。お世話になった人達です。これ以上の迷惑はかけられません。
そうして粗末な馬車に乗り込もうとした瞬間でした。
「待って!」
後ろから、大好きな声に呼びとめられました。
驚いて振り返ると、そこには小さな荷物を手にした彩香さんが肩で息をしながら立っていました。遅れて、村長さんが隣に並びます。彼の静かな視線を目にした瞬間、私は背筋に冷たいものが流れるのを感じました。
「私が一緒に行きます。付添い人は私です」
「アーヤ!」
しっかりと宣言した彼女を諌めるために声を上げましたが、その表情は動きません。
本気で待って下さい一体なにを考えてるんですか。彩香さんがのこのこ王都に行ったりしたら、それこそ相手の思う壷です。鴨ネギです。なんとか思いとどまらせようと私が足を踏み出したところで。
「許可する。付添い人は馬車へ」
兵士さんの、無情な声が重く響きました。
「っ待って下さい!」
そちらに言い捨て、そして大股に彼女に近寄り、説得のために手を伸ばそうとした瞬間。
バシッ!
伸ばした手を、振り払われました。
あまりのショックで呆然とする私を余所に、彩香さんはさっさと馬車に乗り込んでしまいました。そんな私を一瞥して、村長さんがゆっくりと言葉を紡ぎます。
「…そして、この二人の後見は私が務めます。彼らは渡り人ではありますが、この村の発展に多大な貢献をしてくれました。すでに村民としての登録も済んでいます。よろしいですね?」
「………正式に登録が済んでいるのなら、問題ない」
頭が混乱していて、ろくに考えがまとまりません。後見?なんですかそれは。村民登録の話も聞いてません。そんなのは全部、一つ所に三年以上の滞在を経てようやく得られる物じゃないんですか。なんでそんな、もしも私がこのまま罪に問われれば、村長さん以下、この村にだって類が及ぶかもしれないのに…。
「アーサー」
「は、い…」
ゆるゆると顔を上げた私に、村長さんが微笑みました。
「また今度、是非ともあのマフィンという菓子を作って欲しい。―――行っておいで」
「…っ行って、きます」
ここが、この世界での私の帰る場所だと、はっきりと示されて。
震える声で返事をして、私は深々と頭を下げました。