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出頭命令。

皆さんどうもこんにちは。つい先日"勘違い勇者の突撃・迷惑求婚劇!"に巻き込まれた朝倉透です。

あれから数日が経ちましたが村の人達はいまだ私と彩香さんの関係を誤解したままです。

お隣のヘーデルさんなんて「はっはっは、照れるな照れるな。お前も立派に男だったって事だな!」とか抜かしてるんですけどとりあえずどこもかしこも間違いだらけです。いつの間に私の性別は転換されたんですか。

とはいえ、いちいちムキになって否定していてもキリがありません。どうせ事実は変えようがないんですから放っておくに限ります。そう結論づけて、私も彩香さんも特に行動を起こしませんでした。



―――今思えば大正解でしたね。



目の前の状況にため息を吐きつつ、そう胸中で一人ごちました。

私の後ろではあの刃傷沙汰の時と同じく、彩香さんが真っ青な顔で震えています。

それというのも。


「渡り人、アーサーだな。城への出頭命令が出ている。一緒に来てもらおう」


威圧的に言い放った強面の兵士さんの後ろにはさらに二人の兵士さん。ただの一般市民に大袈裟な、と思いましたがそういえば私、勇者様を投げ飛ばしてましたね。

ぎゅっと服の裾を握る彩香さんを気にしながら、私は落ち着いた声で尋ねました。


「…罪状は」

「勇者様に対する暴言だ」


っち、そうきましたか。暴力沙汰とか言うなら先に斬りかかって来たのはあちらです。十分正当防衛が成り立ちますし、主張できます。

しかしあの暴言は私の唯一の失敗でしたそれが刃傷沙汰に繋がった事から考えてもまずかったのは間違いありません。

そこを正確に突いてくるなんてなかなかの策士が背後にいると見ました。少なくともあの熱血単純勇者様にそこまでの事が出来るとは思えません。

私はもう一つため息を零しました。それにびくりと反応した彩香さんが、私の服をつかんだまま後ろから身を乗り出して反論しようとします。


「だってあれは勇者様が…!」

「いいえ、アーヤ。彼らが問題にしているのは私の不敬発言であって勇者様を投げ飛ばした事ではありません。正当防衛は認められてもそれ以前の無礼は見過ごせないということですよ。当然だと思います。勇者様はこの世界においての唯一無二。魔王を倒して下さった方への敬意を忘れた私に非があります。庇ってくれるのは嬉しいですが、私は自らの非を認められない愚か者にはなりたくありません。だから、放して下さい」

「嫌よ!」

「アーヤ」

「嫌よ!だって貴女を巻き込んだのは私なのに…私のせいなのに、貴女だけ行かせるなんて…!」

「アーヤ、それは違います」

「っ私も行くわ!」

「アーヤ!」


まさかの発言にさすがに大きな声がでました。

彼らは彩香さんに対してなにも言及していません。当然です。彩香さんはあの場でなにもしていない。罪に問う事はおろか連れて行く事すら出来ないはずです。それをわざわざ、あのクソったれがいる王都になんて行ってやる必要はないんです。

しかし彩香さんはなおも言い募りました。


「私も行って、王様に話を聞いてもらうの。正当防衛を認めて下さったのなら、きっと分かって下さるわ。もし失敗しても―――」

「駄目ですよ」


続く言葉を遮り、私は彼女に向き直りました。不安に揺れる瞳を覗き込み、ゆっくりと言葉を紡ぎます。


「私のために自分を犠牲にするなど、あってはなりません。貴女の犠牲の上に成り立つ日常など、私はいらない。だから、私の無罪放免を条件に、勇者様からの求婚を受けようなんて考えるのは絶対にやめて下さい」

「な、んで…」

「分かりますよ、アーヤが私のために考える事くらい」


そっと頬に手を添えると、彼女の瞳が分かりやすく動揺しました。そこに映っている私は、自分でもびっくりするほど穏やかな笑みを浮かべています。ああ、こんな顔も出来たんですね、私。

そのまま、ぎゅっと彩香さんを抱きしめました。


「今までありがとうございました。貴女がいたから、私はこの世界で生きてこられたんです。貴女の笑顔に救われて、貴女の優しさに縋っていました。だから今度は、私に貴女を守らせて下さい。―――どうか、幸せに」


たくさんの感謝と、願いと、祈りを込めて。

そしてゆっくりと彩香さんから離れた私は、決然と顔を上げて兵士さん達に向き直りました。


「出頭します」



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