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負け犬。

結果。

私の圧勝です。勝負と呼ぶのもおこがましいです。勇者様が四つ目だか五つ目だかに取り掛かる頃には私は全てのジャガイモを剥き終えていました。当然です。皮剥きは私の一番の得意種目。野営でちょこっと調理経験があるくらいで桂剥きだって楽勝の私に敵うとでも?一昨日きやがれ!


淡いクリーム色に輝くジャガイモを水につけ、やる事がすっかりなくなった私はいまだにジャガイモと格闘している勇者様を隣で頬杖付きながら観察してます。もちろん勇者様は気づいていません。

だいぶ今さらですがこうしてまじまじ見てみると、なるほど。勇者様は大変整った顔立ちをしてらっしゃいます。金の髪に碧の瞳。凛々しさを漂わせつつ厳しくなりすぎない顔に、均整のとれたしなやかな体は細マッチョ好きにはたまらない事でしょう。脱いだらすごいんですという昔懐かしのフレーズが聞こえてきそうです。例え勇者という肩書きがなくともその辺のちょっと面食いな娘さんなら余裕でほいほい出来るんじゃないですかね。…イケメン爆発しろ。


ちなみに、やや危なっかしい手つきながらも一生懸命丁寧にジャガイモを剥く勇者様は傍目にもいたって真剣です。もうむしろこれ決闘相手が私からジャガイモに変更になってますね。勇者に選ばれるだけあって根は素直な方なんでしょう―――あ、指切った。

それでも諦めずに剥き続ける勇者様の努力は涙を誘いますがいかんせん勝負はとっくに付いています。暇すぎるが故に漏れそうになる欠伸を噛み殺し、剥き終わったジャガイモの調理法を考える事にしました。


やっぱり定番はシチューでしょうか。じゃがバタも捨てがたいですね。この村は酪農も盛んで、乳製品は既に彩香さんが広めてくれていたので料理する際大変助かっています。勇者様が剥いて下さった分はマッシュポテトにして今日一日の鬱憤を晴らしましょう。ああ、ポテトサラダでもいいですね。どっちにしろ潰す事に変わりありませんし。彩香さんの好みで決定しましょうか。


などと考えていたら、勇者様のお仲間が終了を宣言しました。つーか勇者様をどついて終わらせました。きっと彼らも暇だったんでしょう。

私の鍋の山盛り剥き終わったジャガイモを見て、勇者様はあからさまにショックを受けていました。リアルなortです。初めて見ました。

…なんとなく、彩香さんへの求婚が失敗した事に対してではなく綺麗に剥かれたジャガイモに敗北感を覚えているように見えるんですが気のせいですか。

しかし、そうしてへこんでいたのも数拍です。

すぐに勇者様は体を起こしてこちらを睨みつけてきました。


「っこんなの、勝負として認められるか!」

「勝負方法の選択権を下さったのも、最終的に勝負をお受けになったのも貴方御自身ですよ」


予想通りいちゃもんつけてきた勇者様に正論を突きつけました。容赦?なにそれおいしいの。

あっさりばっさり返した私に、勇者様は一瞬だけ言葉に詰まり、けれど諦める事なくやんややんや言ってきました。往生際が悪いにも程があります。なによりうるさい。この騒音なんとかなりませんかね。

周りでお仲間が宥めているものの、まるで聞く耳持ちません。ああ鬱陶しい。静寂を愛する私になんたる仕打ちですか。

おまけに。


「こんな卑怯な男は貴女に相応しくありません!貴女は騙されているんです。どうか目を覚まして下さい!」


ついには彩香さんまで巻き込む始末。

男同士の勝負に女性を引っ張り出すなんて言語道断です。というか、ちゃっかり彩香さんに近づいてんじゃないですよ負け犬が。


―――思った事が、そのまま口に出てしまいました。


「なにを言っても負け犬の遠吠えにしか聞こえませんが」

「…っこの!」


その瞬間、全てがスローモーションに見えました。

すぐ傍で、彩香さんの悲鳴が聞こえます。それに重なるように、勇者様のお仲間の焦ったような制止の声。

けれど、何もかもが間に合いませんでした。

振り下ろされ、既に眼前に迫った白刃。



斬られる―――!



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