決闘。
前回のあらすじ。
勇者様に求婚された彩香さんに偽婚約者を演じてくれと頼まれ決行したら勇者様に決闘を申し込まれました。まる。
「彼女をかけて決闘を申し込む!」
高らかな宣言に、辺りは静まり返りました。
勇者様の取り巻き…失礼。お連れ様達も驚いたように彼の後頭部を凝視しています。
まぁそりゃそうですよね。天下の勇者様がどこをどう見ても一般人の私に喧嘩吹っ掛けたわけですから。
しかしそんな外聞など、頭に血が上った勇者様には関係ないのでしょう。
ただひたすらに、私を恋の障害として排除しようとしています。上等。
「待って、そんなの…」
抗議しようとする彩香さんを手で制して、私は勇者様を真っ直ぐ見つめます。視線を逸らす事などしません。
「…勝負の方法は私が決めさせて頂いても?」
実質決闘を受けたも同然のその言葉に、勇者様は目を細めました。
「ふん。そのくらいのハンデはいいだろう」
言いましたね?言質取りましたよ?しかも大勢の村人+貴方の取り巻きの前で。
内心でほくそ笑みながら、しかしそんな事はおくびにも出さず、私はしっかりと頷きました。
さぁ、それでは勝負を始めましょうか。
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「………って、ちょっと待てぇえええぇえぇええ!」
「なにか?」
しれっと返す私に即座に勇者様が噛みついてきました。
「なにか?じゃない!なんだこれは!」
「ですから、『決闘』でしょう?」
私達の目の前には大ぶりのジャガイモがバケツに山盛り。包丁とまな板。そして椅子。
剥いた皮をためるバケツと、剥き終わったジャガイモを入れるための空の鍋。
どう考えても準備万端です。なにをそんなに興奮してらっしゃるんでしょう。血圧あがりますよ。
「これのどこが決闘だ!?」
「勝負の方法を決めてもいいと言ったのは貴方でしょう?」
「だからってこんなのが勝負だと認められるわけないだろうっ!」
「でしたら戦わずして負けを認めますか?私はそれで構いませんが」
さらりと言い放てば、勇者様がほんの僅かに言葉に詰まりました。
「他の方法を…」
もごもごと口を動かす勇者様に、私はやれやれとため息を吐き、最大限の譲歩を見せる事にしました。
「でしたら、放牧されている羊集めに変更しましょう」
「なんっでそーなる!?」
力一杯吠える勇者様に、私はなにをいまさらと呆れ果てました。
決闘方法をこちらに任せた時点で不利は分かっていたはずです。
それをいざとなったらあーだこーだと。非常に男らしくありません。勇者としては最低です。
そんな私のびみょーな視線に気づいたのでしょうか。勇者様が気まり悪げに顔を逸らしました。
「………分かった、これでいい」
「そうですか」
あっさり流してとっとと準備に取り掛かった私に、勇者様がびっしぃ!と音がしそうなほど勢いよく指を突き付けてきました。お行儀悪いです。相手が勇者様じゃなかったらその指反対に折り曲げてます。子供が真似したらどうしてくれるんですか。
そんな私の心情は露知らず、勇者様は自分で首を絞めました。
「これでも討伐中は野宿して自炊したんだ!舐めてかかると痛い目見るぞ」
「それは、お手柔らかに」