求婚。
こんにちはこんばんはおはようございます二度目まして。朝倉透と申します。
異世界での生活が始まって三ヶ月。ようやく環境にも慣れてきて、村の人達との関係も良好。
なにより大好きな彩香さんが傍にいてくれるおかげで、懐郷の念も少しは薄れて―――はいませんが、なんとか堪える事が出来ます。
完璧精神安定剤です。申し訳ないとは思いますが手放すなんて出来ません。絶対に。
なのに。
大変です。大事件です。彩香さんが求婚されました。
しかも―――。
相手はなんと、この世界の勇者様です!
ええとですね。あまり詳しくはないので自信はありませんがこの世界は多分中世ヨーロッパ風の世界観だと思われます。そこに魔法やらエルフやら精霊やら、果ては魔族だ魔王だ勇者だとファンタジック全開の要素がぶっこまれています。
とはいえ、私が来た時にはすでに魔王は倒され、世界に平和が戻っていました。さらに言うならここはそんな世界の命運なんちゃらとはまるで関わりの無い田舎の農村。特に説明する必要もないと思ってうっちゃってたわけですが。
ここでまさかの勇者様登場、後、彩香さんに求婚。
が っ で む !
あまりのショックに打ち震える私の横で、村人たちが興奮気味に話しあってます。
それによると、私がこの世界に来る数か月前くらいでしょうか、まだ討伐中であった勇者様御一行がこの村に滞在した事があったそうです。その時勇者様が彩香さんに一目惚れ。村を発つ際、勇者様はこう言ったそうです。
『必ず魔王を倒して貴女を迎えに来ます。待っていて下さい』
最っ低ですね。今から魔王を倒しに行くこの世界の唯一無二にんな事言われて断れるわけないじゃないですか。
究極のパワハラです。訴えますよ。
とはいえそこはさすがに彩香さんです。勇者様の無茶な要求も必殺日本人的曖昧な表現で華麗にかわしたそうです素敵すぎます惚れ直しました。
『御武運をお祈りしています』
その一言で勇者様の告白を退け、しかもその場限りの冗談だろうとあっさり流して振り返りもしなかった彩香さんですが、あろうことか勇者様は本気でした。
まぁ、そうですよね。冗談なんかで彩香さんに求婚紛いなんてしやがったら今度こそ私が鉄槌下します。どっちにしろムカつくんじゃねーかという突っ込みはノーサンキューです。知ってます。
とにかく。無事魔王を倒した勇者様は今日こうして宣言通り数人の取り巻きと共に彩香さんを迎えに来ました。
大迷惑です。全くちらりともカケラも来るなんて思ってなかった彩香さんは真っ青になりました。
そして現在。必死になって勇者様の求婚を断ろうとしているのですが、これがなかなかうまくいきません。
なにせ、勇者様が全然話を聞いてないからです。彩香さんの拒絶の言葉を全部照れ隠しだと思っています。うっぜ…ゲフン。おめでたいですね。
多分、勇者様は自分の求婚を断る女性がいるだなんて思ってもいないんでしょう。
まぁ、勇者様ですからね。たいていの女性は狂喜乱舞するだろうって事は認めます。しかし世の中、権力なんて面倒くさいと思う女性も少なからずいるわけですよ。私と彩香さんがそのクチです。
苦戦している彩香さんにどうにかして助け船を出したいところですが、変に口出しして邪魔になったら元も子もありません。
ぎりぎりしながら成り行きを見守っていると、突然彩香さんが声を張り上げました。
「…っ困ります!私には婚約者がいるんです!」
え?うそ嘘そんなの聞いてませんよ一体どこのどいつですか私の大事な彩香さんにコナなんぞ掛けやがった野郎はっ!?
勇者様の求婚なんぞより千倍ショックなその発言に私が呆然としていると、彩香さんがこちらを振り向いて駆けよってきました。
そして。
「この人です!」
………へ?