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撃沈。

煌びやかなシャンデリアに照らされた室内には、これ以上ないほど緊迫した空気が流れていました。

目の前に在るのはこの国の至高。

その存在に向けて、私は事実を告げました。


「私は女です」


全ての前提をひっくり返すそれに、国王陛下はおろか強面さんまでが固まっています。目を見開いたまま微動だにしないんですけど、あの、自分で言っといてなんですがそんなに驚く事なんでしょうか。


確かに私は男の恰好をしていますし彩香さんの婚約者を名乗ってからはそう見えるように仕草や行動を装ったりもしていました。けれど生まれてこの方男になりたいと思った事は無いですし女を捨てたわけでもありません。実は強面さん辺りにはバレてたんじゃないかと内心ドキドキしてたんですけど―――その反応を見る限り全っ然気付いてなかったわけですねそうですか信じられませんかオドロキですかちくしょうめ。


この分だと真面目さんやチャラ男もまるで気づいていない可能性大です。もしも会う機会があったら腹いせに一回投げ飛ばしておきましょうか。特にチャラ男は私の体術に興味津々だったようですしちょうどいいですね。その身を持って体験してもらいましょう。とっても楽しみです。


と、頭の中のやる事メモにでっかく書き込みをしていたら、固まっていた二人が帰ってきました。

背筋を伸ばして、次の言葉を待ちます。

恐らくは嘘を吐いた理由を問われる事でしょう。既に大まかな理由は告げてありますが、国王までも欺いた結果になってしまった今、それだけで済むとは思えません。

心してかかった私に、二人が口を開いたのはほぼ同時でした。



「おん、な…?」

「その、君がか?」





そ っ ち か よ !





喉元を通り過ぎてうっかり口からはみ出そうになった言葉をなんとか飲み下しました誰か褒めて下さい。

え、ちょ、待って下さいどんだけ衝撃受けてるんですか。立ち直れませんか?立ち直れないんですかまさかの事実に?

…これ以上会話を続けると私の方が立ち直れなくなりそうなので出来るだけ手短に済ませようと思います。


「はい」


こっくりと頷いた私に二人は改めて絶句しています。もう泣いていいですか。

どんよりと落ち込んだ私は海底二万マイルまでどっぷり沈んで浮上する気も失せました。フジツボにイソギンチャク、ついでにウルトラマンボヤ(海底生物)をくっつけて海底散歩と行きましょう。塩水が傷口に沁みますがいまさらどうって事ないですね。ちょっくらネモ船長でも探しましょうか。今なら友達になれる気がします。

いろんな意味で現実逃避を図った私に、強面さんがはっとした顔で言い繕ってきました。しかし方向が最悪です。


「あ、いや、そそその、すまなかった!君があまりにも勇ましく山賊を投げ飛ばして踏みつけたものだから、まさか女性だとは夢にも思わず…」

「馬鹿者!それはフォローではなくトドメだ!」


強面さんの失言に陛下の的確な突っ込みが突き刺さりました。しかし、遅い。しっかりばっちり聞こえましたよ。止めるんならもっと早く止めて下さい。しかも今トドメっていいましたよね。ご丁寧にどうもありがとうございます。…もう二人とも巨大イカにでも喰われてしまえ。


ささくれ立った心のまま不敬どころか反逆罪に問われそうな呪詛を口の中で呟いていたら、なにやら二人がすったもんだし始めました。一応小声のようですが、目の前なので全部聞こえてます残念。


「ほら見ろ!お前が変な事を言うからますます落ち込んでしまったではないか!」

「う…そ、それはそうかも知れませんが、陛下も気付かなかったではありませんか。常日頃から人を見る目には自信があるとか仰っておきながら情けない!」

「やかましい!初対面の私とお前を一緒にするな。もう少し近くで見ていたら絶対に分かった」

「陛下。言い訳は見苦しいですよ。潔く認めたらいかがですか」

「黙れ。何日も行動を共にしておきながら気付かなかった節穴め」

「いえ、本当はそこはかとなく薄っすらおかしいなと思っておりましたよ。もちろん」

「嘘を吐くな。減給するぞ貴様」


人の傷口にさらに遠慮なく塩を擦り込んでくれてる二人はずいぶんと仲が良いようです。ダイオウイカかもん。クラーケンでも構いません。このお茶目なおじ様達に鉄槌を!


というか陛下。さっきまでの威厳はどこに行ったんですか。緊迫した空気が霧散したのはもちろんですが、荘厳な輝きを放っていたはずの玉座までただのごってりとした座り心地の悪そうな椅子に見えるんですけど。


なおも子供じみた言い争いをやめない二人に、私と彩香さんは顔を見合わせました。そして目が合った瞬間心まで通じ合いました。


あの、なんかもうどーでもいいんでそろそろ本題に入りませんかー?




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