告白。
勇者様への暴言という一見どうでもいい罪状で王都にまで連れてこられて彩香さんと一緒に王宮のわりと奥の方までやってきたら謁見の間で国王陛下がお待ちでした。
WHAT?
頭の中は大根嵐。あ、間違えました大混乱。大根の嵐ってなんでしょう。当たったら痛そうですね。
そんな感じでちっとも混乱が収まる事なく王様の前まで歩ききってしまった私は、強面さんに促される前に片膝をついて頭を垂れました。ほとんどイメージだけで行動してます。彩香さんも両膝をついて胸の前で両手を組み、そして頭を下げました。実際の作法など知りません。そして間違っていても文句は受け付けません。不作法者として裁くなら勝手に裁いて下さい。っ誰か最初に教えとけよ!?
「面を上げよ」
お決まりの台詞にカチコチに固まった体を根性で動かしました。改めて視界に入れた国王陛下はゴージャスな王冠を頭上に戴いた厳格そうな方でした。金色の髪が緩やかに波打ち、アッシュグレーの瞳は理知的ですがどこか冷たい印象を相手に与えます。
そんな人が、無表情でこちらを見降ろしています。ちょう怖いです。そしてさっきまですぐ傍にいたはずの強面さんはいつの間にか陛下の横に移動しています。瞬間移動が出来るならあんなに延々歩かせる事なかったじゃないですか、馬鹿ぁ!
内心は半泣きですが表情筋は今日もまるきり仕事をしません。傍目無表情同士で睨み合ってるように見えます。怖いです。助けてアンパ〇マン!
子供の頃のヒーローだったあんパンに助けを求めていたら、横で彩香さんがそおーっと顔を上げる気配がしました。っは、いけません私には彩香さんを守るという使命が!
腹に力を込め直し、じっと見つめてくる視線を受け止めました。こうなったら覚悟を決めましょう。
なにを言われても動じないよう心の中で般若心境を唱えていたら、王様がゆったりと口を開きました。
「そう緊張しなくてもいい」
すげぇ無理ですその要求。いきなり国のトップに面通しされてビビらない馬鹿がどこにいますか。そんなの勇者様くらいでしょう。私は違います。彩香さんも同意見なのか、視界の端でぎゅうっと両手に力を込めたのが見えました。可哀想に、あんなに握りしめたら爪が喰い込んでしまいます。
発言を許されてはいないので、黙ったままじっと王の言葉を待っている私に、強面さんがほんの僅かにほっとしたように見えました。…心配してくれてるんでしょうか。そうだといいんですけど。
「さて」
短く呟いた国王陛下に、どくり、と心臓が音を立てました。
「君がアーサーだな」
「はい」
「勇者に暴言を吐いたというのは本当か」
「はい」
「ほう?罪を認めると言うのか」
「はい」
淀みなく応える私に、国王陛下がほんの僅かに目を細めます。
「ひと言の言い訳もなく?」
「言い訳もなにも、暴言に関しては私に非があります」
「状況の説明くらいはしてくれるだろう?」
言われて、私は迷いました。今ここで問題になっているのは、私の勇者様への暴言です。けれど、状況の説明をするとなれば、必然的に私は彩香さんの婚約者です。が、それは事実ではありません。私は女です。それを隠してあとで問題になったりしないでしょうか。偽証罪とか。
もちろん裁かれる時にきちんと申告しようと思ってはいたんですけど、彩香さんにもその旨伝えてあるんですけど、相手が王様となると必要とする勇気が段違いです。えっと、そのまま極刑とか、ないですよね?
「どうした?」
決断を迫る声に私は腹を決めました。
「…それを説明する前に、私は陛下にお伝えするべき事があります」
静かな声で言った私に、彩香さんが弾かれたようにこちらに顔を向けました。
「なんだ」
「まず、私がこちらのアーヤ・ホンゴウ嬢の婚約者とされている件ですが、それは事実ではありません」
「…どういう事だ」
国王の低くなった声に併せて、強面さんの厳しい視線が突き刺さります。うん、嘘ついててごめんなさい。あとでちゃんと説明して謝るので、今はこちらに集中させて下さい。まぁ、あとがあれば、の話ですけど。
私は真正面から国王陛下の視線を受けとめ、そして言いました。
「婚約者というのは、私が彼女と離れたくない為にでっち上げたでたらめです」
「ちがっ…」
声を上げようとする彩香さんを遮って、私ははっきりと告げました。
「私は女です」