驚愕。
王宮に到着したところでさすがに拘束されると思ってましたが、予想に反して自由なままです。いいんでしょうか。いや、暴れたりしませんけどね?
ボロ馬車から降りた私と彩香さんを強面さんが先導します。真面目さんとチャラ男はここでお別れのようです。付いてきません。私はぺこりと頭を下げて挨拶をしてから、彩香さんと一緒に城の内部に足を踏み入れました。
石造りの白い宮殿は日の光を反射してキラキラと輝き、こんな時でなければ見惚れるほどに美しく繊細な装飾があちこちに施されています。天井には宗教画のようなものが色鮮やかに広がり、ここはまだ城の端っこの方だというのに田舎者二名はすでに圧倒されっぱなしです。
「…ねぇ、アーサー」
「なんですか?」
特に会話を禁止されたりはしなかったので、彩香さんが小声で私に話しかけてきました。その声は緊張からか少し硬めです。気持ちは分かります。
「その、本当にこんな事になっちゃって…」
「あーや」
謝ろうとする彩香さんをいつもより柔らかい声を心掛けて遮りました。
「なにがあっても二人一緒なんでしょう?大丈夫ですよ。私はアーヤと一緒なら、なにがあっても乗り越えられます」
「…うん」
ぎゅっと手を握ると、彩香さんがほんの少しだけはにかみました。こんなところで私の理性を試さないで下さい。がちで萌え転がりそうなんですけど。前方でうぉっほんとか咳ばらいが聞こえてもお構いなしに顔面崩壊なんですけど。
「………君達は、現状を分かっているのか」
苦々しい強面さんの呟きに、私は心外だとばかりにメンチをきりました。なんですか。知ってますよ。執行カウントダウンがどんどん数字を減らしてるって事くらい。だからこそ残りわずかな彩香さんとのラブラブ時間を邪魔しないで下さい。罪人の烙印が押されたらいくら私でも勝手に落ち込みますからどうぞお構いなく。
それから延々歩かされてついでにいうと階も変わってやってきたのはやけに立派な扉の前。
…なんぞ嫌な予感がします。最近当たるんですよねこの手の予感って。全然嬉しくないですけど。
表情を強張らせた彩香さんの手前決して表には出しませんが、どうにもこうにもこの向こうに厄介事が待ち受けている気がしてなりません。私の罪人へのグレードアップだけでは終わらないなにかがそこにある。そんな気がすごくします。
かといって逃げられるわけではもちろんありません。強面さんがノックの後に良く響く声で言いました。
「渡り人、アーサー。並びにアーヤ・ホンゴウを連れて参りました」
「入れ」
中から聞こえたのは中年男性のものと思われる低く威厳のある声でした。
司法院の長でしょうか。罪状が勇者様への暴言とあらばそのくらいのビップの登場もおかしくないのかもしれません。背筋を伸ばして開かれる扉を凝視します。
そして、絶句しました。
部屋の奥、遥か遠い赤絨毯の向こうの一段高くなった場所に、遠目でも分かる豪奢な椅子がありました。そして、そこに座っている、男の人の頭上に在るものに私の視線は釘づけになりました。
「…どうした、早く来ないか」
「っは」
強面さんが恭しく頭を下げ、そしていまだ呆然とする私達を引きずるように歩かせました。
「…陛下を待たせてはいけない」
そんな耳打ちを容赦なく叩きこみながら。
―――まさかの国王陛下の登場です。