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襲撃。

翌日、再び王都に向かってごとごと進み始めたわけなんですが。彩香さんが揺られ過ぎてお尻が痛いと言うので自分の荷物をありったけ広げてクッションにしました。それと、窓は錆ついて開かなくなってたんですが、地道に蝶番を磨き上げてなんとかかんとかこじ開けました。それだけでもだいぶ解放感が違います。


ほのぼの二人で窓の外を眺めていたら、チャラ男が馬に乗ったまま話しかけてきました。


「このボロ馬車だと、揺れて大変だろ。そっちのお嬢さんだけだったら俺が一緒に乗せてやるけど?」

「あら、お気遣いありがとうございます。けど、この中も意外と快適なんですよ。アーサーが私のために敷物を用意してくれましたから。それになにより、アーサーの側に居られた方が私も嬉しいですし。どうぞご心配なく」


にこやかに対応する彩香さんの言葉は非常に滑らかですが副音声は『うぜぇんだよこのチャラ男が』ってとこでしょうか。

というかこのチャラ男は罪人予備軍の私に本当によくじゃれついてきます。彩香さんに声をかけるのも私の反応を窺う為じゃないかと穿った見方をし始めたんですけどどうですかね。

まぁこれは私の願望が多分に含まれた見解ですが。これ以上大切な彩香さんに悪い虫がつくとか冗談じゃありません駆除する身にもなって下さい。


そもそもなんで強面さんは注意しないんですかね。若造の勝手を許すようなタイプには見えないんですが。真面目さんはなんとなく見て見ぬふりというかあまり関わらないようにしているっぽいですし。一体なんだっていうんでしょう。

じっとその人を見つめていると、相手は肩をすくめて窓から離れて行きました。



*****



昼頃になって馬車が山賊に襲われました。こんな見るからにお金にならない護送車襲うなんてなに考えてるんですかね明らかにミスチョイスです。しかも無駄に数が多い。そんな大人数割くほどの獲物ですか兵士さんなんて三人しかいないんですけど!?


心の中で絶叫しながら彩香さんと自分の身を守るために私も馬車から飛び降りて参戦しました。誓い?もちろん覚えています。なので私はあくまで後方支援に徹しました。兵士さん達が取り零した山賊をばっさばっさと…するわけありませんが受け流して手刀食らわせて昏倒させるくらいは出来ます。

向かってくる山賊を捌きながらこの時ほど大人しくしていて良かったと思った事はありません。もしも拘束されていようもんならその時点で死亡フラグ立ってましたよマジで冗談じゃありません。


そして意外というかなんというか、チャラ男は非常に強かったです。馬上の人というアドバンテージを存分に活かしてほとんどの山賊を蹴散らしてくれました。こう言っちゃなんですけどあんまり期待してなかっただけに驚きもひとしおです。チャラ男とかいってごめんなさいでし…。


「ねぇねぇお嬢さん、俺の雄姿に惚れちゃった?」


さっそく彩香さんにちょっかいかけてんじゃないですよこのチャラ男が!




山賊を追っ払ってしばらくすると、なにやら馬車の走行音に混じって口論のようなものが聞こえてきました。なにを言ってるかまでは分かりませんが気になって窓を開けると、ちょうどよく強面さんが並走していました。


「どうしたんですか?」

「…それが、…さっきの襲撃で御者役が負傷したんだが、」

「ええ!?大丈夫なの?」


驚きのあまり窓から身を乗り出した彩香さんを後ろから支えながら、続きを促すように視線を向けると、強面さんは困ったように馬車の前方を見やりました。


「命に別条はない。だが、御者役がこれ以上遅れを出すわけにはいかないと手当てに応じないんだ。それをいま説得して…」

「なんですって!?」

「馬車を止めて下さい」


強面さんの声を遮った私達の台詞はほぼ同時でした。強面さんはぱちくりしています。


「馬車を、止めるように言って下さい。でなければ、このまま飛び降ります」


はっきりとした脅しを含ませて言い放つと、強面さんは一瞬だけ目を瞠り、けれどそのまま前方に馬を進ませました。


ほどなくして。


がたり、と音を立てて止まった馬車から飛び降りた私と彩香さんの行動は迅速でした。


彩香さんは馬車の前方に向かって走り、私は強面さんに付いてくるよう言い捨てて道端の林にダッシュしました。後ろから慌てたような声が聞こえてきましたが知ったこっちゃありません。

そのまま林の中をずんずん進み、お目当ての薬草を収穫して再びダッシュです。


戻った先では彩香さんが最低限の処置を終わらせて、二人を叱り飛ばしていました。うん、まあ予想通りです。

あんぐりと口を開ける強面さんを余所に、私も怒れる彩香さんの足元に座って無言で薬草をごりごりしました。地味に怖かったと思います。


そんなこんなで手当ては終わりましたが腕に矢を受けた真面目さんはどう考えても手綱を操る事は出来ません。馬に乗る事も然り。と、いうわけで問答無用で馬車に詰め込みました。身分がどうとか喚いてましたがだからなんですか。怪我人は怪我人です。一気に身分制度の枠から外れたはみ出し者です。そもそも私も彩香さんも身分制度という観念が非常に薄いので効果はありません。諦めろ。


代わって御者役に強面さん。車外警備は引き続きチャラ男。そして私は―――まさかの徒歩です。しょうがないですよね馬になんて乗れませんから。空いてしまった馬の轡を持ってはいどーどーです。

必死に歩きましたがそれでもかなりペースが落ちて、その日の夜は野宿になりました。


一応用意されていた調理道具にわずかな食材でスープを作り、皆で一緒に焚火を囲みました。


「…うまい」

「それは良かった」


驚いたように目を丸くする真面目さん。


「美味しいわ、アーサー」

「ありがとうございます」


いつも通り麗しい笑みで素敵に褒めて下さる彩香さん。


「あれだけの食材でよく作れたな」

「その辺に生えていた野草も放りこんであります」


心底感心したというように零した強面さんに事実をぶっちゃけると、チャラ男がぶっふぅっと吹き出しました。汚いですね。


「雑草かよ!?」

「野草です。食用になるものがたくさんあるんですよ。知らないんですか」

「いや、俺達の野営なんてその辺でとっ捕まえた野生動物をそのまま焼くか煮込むくらいのモンだし…」

「どんだけ偏った食事してるんですか」


ワイルドにも程がある食事内容に思わず物申すと、料理出来る奴なんかいないんだからしょーがねーだろ、と返ってきました。しょうがなくないです。戦闘要員しかいない隊なんてどうかしてます。食事以前にそこが偏り過ぎてるでしょう。いろんな人材をバランスよく配置して初めて強い隊が出来上がるんです。料理すらできない隊なんてすぐにへばって自滅するに決まってるじゃないですか。隊の編成の見直しを要求します。




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