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考察。

部屋に引き揚げる道すがら。チャラ男はここでもその馴れ馴れしさを存分に発揮して私に絡んできました。迷惑です。


「なぁ、お前勇者様を投げ飛ばしたんだって?そんなひょろっちい成りで、どうやったんだ?」

「…さあ。無我夢中でしたのでよく覚えていません」


とっとと話を切り上げたいがためにそんな返事をしましたが、実際あまり覚えていません。あれは完璧反射の類でした。普通に家の廊下を歩いている時に背後から祖母に竹刀を振り降ろされた時と同じ反応です。真面目に容赦のない祖母でした。一歩間違えばうっかり虐待です。実際受け切れずに病院送りになった事もありました。未熟者!と怒られましたが。


「…ふぅん。でも体術は使えるんだろ?だったらちょっと俺と手合わせしようぜ」

「申し訳ありませんが―――」

「別に言いつけたりしないって」

「そこは問題ではありません」

「だったらなにが駄目なんだよ。覚えてないんだったら見せてくれてもいいだろ」

「私の体術は人に見せびらかすものでも力を誇示するための物でもありません。お断りします」

「どうしても?」

「ええ」

「………つまんねーの」


ばっさり拒否った私にぼそりと呟く声が聞こえましたが、なんと言われようとお断りです。貴方のつまるつまらないなんて知ったこっちゃありません。余計な体力を使うなんて冗談じゃないです。ただでさえ馬車に揺られたせいで身体中ぎっしぎしだというのに。


ぶすくれたチャラ男をほっぽって、部屋の前で待機していた真面目さんに軽い挨拶をしてから部屋に入りました。ノック?もちろんしましたよ。返事はありませんでしたけどね。


何故なら―――部屋に入って、予想通りの光景に私はため息を落としました。


ベッドの上で彩香さんが行き倒れています。無理もありません。今日一日いろんな事があった上に慣れない馬車での強行軍。兵士さん達がいる手前表には出さずとも心身ともに疲れ切っていたに違いありません。


風邪を引いては大変なので起こさないようにそっと毛布をかけてから、自分のベッドに腰を降ろしました。その途端、宿に見合ったオンボロベッドが悲鳴をあげましたが、幸いにも彩香さんの安眠を妨げる程ではありませんでした。


ほっとして、窓の外を見ながら私はこれまでの事とこれからの事を考えました。


まず。このまま王都に到着したら間違いなくあの迷惑勇者がまたぞろ彩香さんにちょっかいかけてくる事でしょう。あれだけはっきり拒否されたにもかかわらずめげずに求婚してくるかもしれません。っていうかしてきますね。ちょううざいです。しかも今度はホームグラウンド。前回以上に強引な方法を用いてくる可能性があります。うざいです。大事な事なので二回言いました。


とにもかくにもあの野郎と彩香さんの結婚なんて断固阻止します。それが最重要項目であり最優先事項です。一ミリたりとも動きません。本人(この場合はもちろん彩香さんです)が望んでいるならともかく、そうでないなら完膚なきまでに叩き潰してやりましょう権力の横暴許すまじ。


一番大切な事はそれ一択で揺るぎませんが、心配事は他にもあります。


出頭命令所を突き付けられた時にはさすがに動揺してそこまで頭が回りませんでしたが―――現状について。


私の罪状は勇者様への暴言です。それは事実であり私自身も非を認めています。


けれど。


罪状はたかだか暴言。通常そういった小さないざこざは最寄りの都市の司法院で審議、判決、罪人が罪を償えばそれで終わりです。

まかり間違ってもこんな辺境まで遥々護送兵士を送りこんで王都に出頭させるなんて手順は踏みません。もちろん相手が勇者様だという事を考慮すれば有り得ないとは言い切れませんが―――どうも引っかかります。


「一体、王都になにがあるんでしょうねぇ…」


思わず漏れた独り言は、月灯りによって濃さを増した闇の中に吸い込まれました。

まぁ、どうせ王都に着けば否が応でも現実を突き付けられるんですから考えるだけ無駄でしょうけど。

そう結論付けて、私は音をたてないように気をつけてベッドに潜りこみました。


これぞザ・現実逃避。よい子は真似しちゃいけません。




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