始まり。
初投稿です。
こんにちはこんばんはおはようございます初めまして。朝倉透と申します。
名前からは読み取りにくいかと思いますが一応女です。職業は大学生。でした。
何故過去形なのかと申しますとある日突然うっかり異世界に落っこちたからです。
え?なにいきなり厨二発言かましてるんだって?
残念ながら事実です。妄想だったらどんなによかったことか。
私が落っこちた先は、なんていいましょうか、見渡す限り畑ばっかりの大変のどかな所でして。
…ええ、言ってみればド田舎です。
ここからなにか始まるなんてこれっぽっちも想像出来ない平和そのものな農村でした。
平和そのものとはいってもこういう閉塞的な場所では自分のような他所者は迫害されると相場が決まっています。
しかも私は幼少期から表情筋がほとんど仕事をしない残念な顔面の持ち主です。
小中学生の時の仇名は『蝋人形』。子供は時に残酷な生き物です。
他に行くところが無い以上迫害されても疎んじられても空気のごとき扱いだろうと耐えなければなりません。
異世界にいきなり放り出された私はわりと本気でそう思っていました。
しかし。
ここには私の女神がいました。
彼女の名前は本郷彩香。名前からお察しの通り私と同じ地球産の純日本人です。ここでの滞在歴は一年。
歳の事を言うと怒られますが私より二つ年上のお姉さんで、とっても美人で優しくて面倒見のいい素敵な人です。
そんな彼女によると、この世界では異世界人―――こちらでの呼び名は渡り人らしいですが、そんなに珍しくないそうです。
故に対策というか落ちてきた人の扱いも国の方針として決まっていて、理不尽に迫害される事はないと聞いて一安心。
某漫画や小説やアニメなんかで見るような黒眼黒髪いじめもないそうです。珍しい事には変わりないみたいですが。
まぁでもとりあえず(ここは村ですが)市民権は確保。となれば次は住まいと仕事です。
これも彩香さんが華麗に解決してくれました。
まずは住居。なんと彩香さんは初っ端から自分と一緒に住めばいいとオファーしてくれました。え、ちょ、いいんですかそんな誰もが夢見るパラダイス。
村中に生息している彩香さんファンに刺されますよね、私。
そもそもいくら同郷とはいえ、会って数日の人間抱え込んでいいんですか。駄目でしょう。
そう思って辞退しようとしました。
けれど私が口を開くより先、彼女は一度ゆっくりと瞬いて、そして悪戯っぽく微笑みました。
『この世界で渡り人はそれほど珍しくはないわ。それでも、同じ世界の同じ国から、なんて誰も聞いた事が無いのよ。ねぇ、これって運命だと思わない?』
その笑みの麗しい事といったら。
残念ながら私のこの貧困な語彙ではとても表現しきれませんが一言で言うならズキュンです。
見事一撃で撃ち抜かれました。そこから先はもう彩香さんしか見えません。彩香さんラブ。
そして仕事は、村長さんのお家で簡単な村政を手伝いながら雑務全般を預かる事になりました。
計算が得意な事が主な理由らしいです。
幼い頃から算盤をやっていた事が幸いしました暗算バッチ来い。芸は身を助くの典型ですね。
そうして始まった異世界生活ですが、やはりというかなんというか村の人達は遠巻きでした。
まぁ、そりゃそうですよね。ただでさえ得体の知れない輩が能面のようなツラで歩いてりゃ逃げたくもなります。
おまけに私は女であることを公言しているにもかかわらず身につけている物は男物。
サイズが無かったんでしょうがありませんね。元の世界でも若干高めだった身長はこちらでは長身の部類に入ります。動きやすいので別にこれで構わないんですが、あっさりとそれを受け入れた私はこの世界では変人でした。変態じゃないです。変人です。
まぁその辺は常識というか感性の違いなので仕方が無いと即刻諦めた私に対して、彩香さんは諦めませんでした。
私を認めさせるために、様々な画策をしてくだすったわけです。知りませんでした。敵を騙すにはまず味方から。さりげなさ過ぎて涙が出ます。心配したんですよ本当にっ!
しかしそのおかげで村の人達の態度は徐々に軟化していきました。彩香さんマジ女神。
今では道を歩けば声をかけられ、若い娘さん達がたまに差し入れしれしてくれます。
その際ずいぶんと熱のこもった視線を向けられている気がするんですが何故でしょう。
それを彩香さんに相談したら、「たまに見せるはにかむような控えめな笑顔に胸キュン」らしいです。
よく分かりませんが「若さ故の一種の熱病だから放っておきなさい」と言われて素直に頷きました。
人生の先輩の言葉はいつだって重いのです。相手が彩香さんならなおの事。
―――まぁそんなこんなで異世界生活はわりと順調です。
たまに元の世界を思い出して泣きそうになりましたけど。