第二話:証明
八代礼奈は、佐々木幸子と名乗る女性に連れて行かれ、
小さめのアパートでコーヒーを啜っていた。
常識的に考えて、初めて会ったばかりの人間に付いていって、
しかも部屋の中に入ったりするはずは無いだろうが、礼奈は正に、
藁にもすがる思いだ。形振り構っていられないし、このままイジメが
続くようならば、どうなってしまっても構わないと考えている。
部屋の中には、既に一人の男性が居た。茶髪に染めて、男にしては
長い髪。それに眼鏡を掛けている。パッと見オタクだ。
だが、パソコンを凝視しつつ、キーボードをもの凄いスピードで叩き、
時折「フヒヒ」と笑う。その様は、どう見てもオタクだった。
「まあ、一応紹介するね。この気持ち悪いのは斉藤雄二。
これでも探偵兼ハッカーなんだよ」
「へえ」
礼奈はボケーッとしながら空返事をする。
未だに、今自分に置かれている状況を正確に認識していないのだ。
「あの、あたし、どうしてここに連れてこられたんですか?」
礼奈の問いに、幸子は何を今更といった感じで
「だから、あんたを助けてあげるんだってば。いじめっ子たちをゴシカァンと
言わせたいんでしょ?」
「まあ、一応そうなんですけど、その……どうやって?」
「超能力」
ぶほっ! と、いい歳してコーヒーを吐き出す礼奈。
真顔で超能力、などと言われたのがツボだったらしい。
それに驚いた幸子は、吸っていた煙草の煙を思いっ切り吐き出した。
「げほっ、げほ………うわ、汚いなあ。それにひどい。
私、ホントに超能力使えるんだからね?」
「あはははっ、すいません。でも、超能力って、それは………あははははは!」
テーブルをティッシュで拭きながら爆笑する礼奈。
そんな彼女を見て腹を立てたのか、幸子は立ち上がって言った。
「証明してあげるわ、着いてきなさい」
二人が向かった先は、商店街。
幸子は一つの店で酒とタバコを購入し、くじ引きを引くことになった。
ぐるぐる回して、球を一つ出すタイプのくじだ。
一等は金色の球で、賞品はのクロノグラフ機能付きの腕時計。
普通に買えば数万から数十万はするであろう、ブランド物。
そして幸子はそれを当ててみせる、と礼奈に言った。
「あれですか? あんな凄いの当たるわけないじゃないですか」
「まあ、見てなさい」
幸子はぐるぐると、回転式のくじ引き機を回し始める。
コロコロと球が出てくる。礼奈はやっぱり外れた、と思った。
五等の、黄色の球だと思った。ただのボールペンが当たったと思った。
しかし、店員は少し間を置いて叫んだ。「一等賞!」、と。
周りに居た客がどっと沸く。
幸子は涼しげに笑って、賞品を受け取る。
そしてそれを箱から取り出し、腕にはめてみると、周りの客から拍手が起こった。
高貴な腕時計に、幸子の高貴な顔立ちがとても合っていたからだ。
幸子は隣に居る礼奈に呟く。
「どう? 信じる気になった?」
「………ええ、まあ」
礼奈は唖然としていた。まさか予言通り当てるとは思わなかった。
だが、何故だか心の中の、ほんの一隅では当てると思っていた。
彼女は、佐々木幸子はどこか一般人とは違うオーラを纏っている。
礼奈は最初会った時からそう思っていた。