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初期配置が「詰み」ゲー国家、合理主義で奴隷解放したら帝国軍を撃退した  作者: ニャルC


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第3話:水城の盾と、返還された鎖

第3話:水城の盾と、返還された鎖


 完成したばかりの南の拠点『水城』。  

俺は、商業連合の豪商たちを、縦横無尽に張り巡らされたクリーク(水路)へと案内していた。


「見ての通り、この水路は西の商業連合領に近いこの港から、我が国内を最短距離で貫通し、

東の帝国領付近までを一本の線で接続している。

いわば、大陸を横断する『水の高速道路』だ」


 豪商たちの目が色めき立つ。

「アグリ規格の小舟に積み替えれば、国内から帝国国境まで、一切の陸送なしで荷を運べる。

……ご希望とあらば、君たちの国内までクリークを拡張しよう。お代は勉強させてもらうよ」


 金と計算にしか興味のない豪商たちは、俺の傍らに控えるアイリスを品定めするように眺め、鼻で笑った。

「これはアグリ国王。まさか、連れてこられたのは『奴隷の通訳』ですか?

没落貴族を買い取って悦に浸るとは、随分とお幸せだ」


 嘲笑が広がる中、俺は表情一つ変えず、手元の帳簿に目を落としたまま口を開く。

「……君たちの言い回しなら、こう言えば通じるかな。

『赤字を垂れ流す貴族と、黒字をもたらす奴隷の比較』だ」


 ぴたりと、商人の笑いが止まる。

「我が国に無能な貴族は余っているが、有能な人材は不足している。

僕は無能な貴族より、有能な奴隷が欲しい。

君たちの抱える有能な奴隷を一人残らず交換トレードする用意があるが

……どうかな?」


 静まり返る室内。

俺はゆっくりと顔を上げ、冷徹な視線で商人たちを射抜いた。

彼らが最も信頼する「利益」という言語で、彼らの価値観を真っ向から肯定しつつ、同時に圧倒していた。


「……なるほど。陛下とは、良い商談ができそうだ」


 商人の態度が豹変したところで、俺は本題を切り出した。

この港の真背後に、巨大な保税倉庫群を建設する。

働くのは、僕が『買い直した』元奴隷たちだ。

だが、商人の一人が図面を指でなぞりながら、鋭い視線を向けてくる。


「……陛下。この倉庫群の配置、物流の効率化だけにしては妙ですな。

まるで、陸側からの進軍ルートを塞ぐ『防壁』のようだ。

もし帝国が攻めてきたら、我々の資産が盾にされる。

……そうお考えでは?」


 アイリスがわずかに息を呑む。

だが、俺はわざとらしく目を丸くした。

「――おや、心外だな。友好国の帝国が攻めてくる? まさか!

もし万が一、億が一にもそんな『不幸な事故』が起きるというのなら……」


 俺は胸の前で手を組み、敬虔な信徒のように目を閉じてみせた。


「……神に祈りましょう。彼らの進軍を阻むような、記録的な大雨をね」


 棒読みのセリフ。

物陰でこれを盗み聞きしていたボルドー伯の密偵は、主君へ

「新王は神頼みしか口にせぬ無能です」と報告した。

アイリスは必死に笑いを堪えて俯き、カシムは「本当に性格が悪い」と心の中で毒づく。


 だが、俺の背後では着々と「物理的な罠」が完成していた。

倉庫の屋根には商業連合のシンボルが巨大に描かれ、警備の傭兵団が警告旗を掲げる。

帝国軍の弓兵に告げるのだ。――『火矢一本が、君たちの国の経済的破滅を招くぞ』と。


■アイリスのバイアウト


 アグリ規格の水路が完成し、物流が活性化したことで、国にはかつてない富が流れ込んだ。

その夜、アイリスは執務室で、一つの小袋を俺の前に置いた。

「私の『自己買取金バイアウト』です。……陛下、これで私は自由ですか?」


 俺は黙って、彼女の首にある冷たい鉄の鎖を外した。ガラン、と音を立てて床に落ちる鎖。

「ああ、自由だ。……だが、ビジネスパートナーとしての契約更新は受け付けている」  

アイリスは自由になった首元をさすり、悪戯っぽく微笑んだ。

「……ええ。契約更新しないほど、私は愚かではありませんわ」



カシムが問う。

「なぜボルドー伯を捕らえないのですか」

ハルトは窓の外、ボルドー伯が帝国からの裏金で着飾らせた豪華な平城の方角を指差した。

「捕らえるには、証拠不十分だ。彼には『王は無能だ』という情報を帝国に送り続けてもらうよ。

帝国には油断してもらうために。それに城の維持費も、すべて帝国と伯持ちだ。

帝国軍が国境を越えた瞬間まで、あえて泳がせて「確実な反逆の証拠」を蓄積させておく。

彼は「敵を手引きした大罪人」となる」


一方、王都の平城では、ボルドー伯が帝国の特使に地図を広げていた。

「見なさい、新王は海側の水城に引きこもり、平原の平城は空っぽ同然だ。

ここを落とせば、若造は震えて許しを請うでしょう」


特使はうなずく。

「我が帝国の重装騎兵が平原を駆け抜ければ、一日で終わる仕事だ」  

彼らが共有している勝利条件は一つ。新王を屈服させ、再びアグリ国を帝国の属国に戻すこと。


彼らは知らない。王が作っているのは、チェス盤そのものを泥沼に変える「別のゲーム」だ。

「カシム。帝国軍が動くぞ。……準備を始めろ」

戦火が、迫っていた。


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