表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕達は愛を信じられない、でも、  作者: 七瀬乃
僕の秘密の計画

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/34

第32話

 先輩が浮気のことを知っている?


 どうして浮気のことを知っていて、浮気するやつとまだ付き合っているんだ。


 先輩、どうして……


「いつから知ってたんですか……」

れんと付き合って一ヶ月経ったころかな……なんか怪しかったからスマホ見たら浮気してた。真絃こそ、よく知ってるね。浮気のこと」


 先輩が床を見下すように見ている。


「僕はたまたま浮気しているのを見かけたんです。先輩の彼氏が最低なことしているのを知って、先輩のことが心配で……今日先輩を傷つける覚悟で話したんですけど、すでに知っていた……どうして付き合ってるんですか? 何で浮気するようなやつと付き合えるんですか!」


 つい強い口調になってしまった。

 先輩は表情を変えない。

 

「だって、誰と付き合ったって一緒でしょ? みんな当たり前のように浮気や不倫をするんだよ? ……知ってた? 私の母親も不倫してたの。しかも、母親のほうが先に不倫してたらしい。ダブル不倫なんて笑っちゃったよ。私の家族は最初から壊れてた。あの時の私バカだったなぁ。家族を取り戻すために色々頑張っちゃって、無駄な時間だった。あーあ、世の中浮気や不倫が当たり前なんだよね。だから私は誰でもいいの、どうでもいいの」


 知らなかった。まさか先輩のお母さんまで不倫をしていたなんて。あの頃の先輩がどんな気持ちだったのか考えただけで胸が痛い。先輩の心はまだ癒えてなかったんだ。ずっと苦しんでいるんだ。



「先輩……どうでもいいって言ってるのに、何で泣いてるんですか?」


 先輩の目から涙がとめどなく流れていた。涙を流して、苦しそうに笑いながら僕を見た。先輩の瞳を見ると、色がないように見えた。何もかも希望を捨てたような目をしていた。


「泣いてないよ」

「泣いてるじゃないですか! どうでもいいとか強がって、どうでもよくないから泣いてるんでしょ!」

「どうでもいいの! ……何で真絃も泣いてるの?」

 自分の目の下に触れると濡れていた。目から涙が次々に出る。涙を止めようとしても止まらない。

「泣いてないです」

「泣いてるじゃん……」

「先輩が……苦しかったり悲しかったりすると、僕も苦しいし、悲しいんですよ。先輩には笑って幸せになってほしいんですよ……」

「幸せになってほしいとか言わないでよ。幸せになれないよ。私も浮気してる人のこと悪く言える立場じゃないから」

「……どういうことですか?」

「蓮から何回も告白されて、好きじゃないけど付き合った。付き合ってみたら蓮のことを好きになれるかもって思ったの。でも好きになれなかった。私は……蓮と付き合いながら違う人を想ってた。これ、浮気と一緒でしょ?」


 高校の時の僕と一緒だ。付き合いながら凛華先輩のことを想っていた。

 

 先輩の目が赤い。涙を止めてあげたい。


「先輩。僕、高校生の時、付き合ってた人がいたんです。その人と手を繋ぎながら僕も別の人を想っていたんです。僕もこれは浮気だ、と思った。でも違う。心の中で想ってるだけで、裏切るような行為はしていない。僕達の親や、先輩の彼氏は裏切る行為をしたんです。先輩は裏切る行為をしてない。だから浮気とは違う。違う人を想っているなら彼氏と別れてください。今すぐ別れたら大丈夫。浮気じゃない。正当化してるだけかもしれない。でも浮気じゃないと僕は思ってます」


 先輩は僕が貸したタオルで顔を覆って泣いている。

 僕は先輩に向かって手を伸ばしたが、その手を止めた。

 今は触れるべきではない。


「先輩、もうどうでもいいとか思えないでしょ?」

 先輩が大きく頷いた。

 僕は話し続ける。

「彼氏と別れて、先輩の想ってる人に気持ちを伝えたらいいんですよ。幸せになってくださいよ」

「無理……」

「何で無理なんですか」

「だって、祝福されない。嫌な思いをする人が必ずいる」

「どういうことですか?」

「それは言えない。ごめん、言えない。それに私は自分も人も信じられない。自分もいつか誰かを裏切る行為をしたらどうしようって思う。それに、人は絶対裏切る。信じられない。信じて裏切られて傷つきたくない」

「まず、先輩は絶対に人を裏切ったりしない」

「何でそんなに言い切れるの?」

「先輩も僕も親の不倫で傷ついてきたんです。辛い思いをしてきたんです。こんな辛い思いを人にさせますか? 先輩も僕も絶対に人を傷つけない。裏切ったりしない。人が信じられないのは……仕方ない。だって僕達は傷ついてきたんだから、信じろって言われたほうが無理なんです。僕達はこの先、一途な愛なんて信じられないと思う。でも、自分のことだけは信じませんか?」

「自分のことだけ?」

「自分は絶対に人を裏切ったりしないし、自分だけは人を一途に愛するって。人のことも、自分のことも裏切らないと信じるんです」


 先輩はもう何も答えてくれなかった。ただ泣いていた。僕もずっと泣いていた。別の部屋から聞こえる歌を聞きながら泣いた。


 僕が言えることはもうない。あとは先輩がどうするかだ。先輩がどんな選択をしようと僕は受け止める。


 僕は徐々に涙の量が減ってきた。先輩はまだ肩を振るわせながら泣いている。先輩の涙の蛇口が壊れてしまったのかもしれない。止めようとして蛇口をひねってもひねっても涙が止まらないんだ。


 「もう帰る」と先輩は泣きながら震える声で言った。


 会計を済ませて、カラオケ店を出ると、まだ小雨が降っていた。


「送って帰ります」と僕は言った。

 でも先輩は、「ごめん。一人になりたい」と言って走っていった。

 僕は追いかけず、雨に打たれる先輩の背中を見つめた。先輩の姿が見えなくなって僕も雨の中に飛び込んだ。上を向いて雨を浴びる。泣きすぎて熱を持った瞼が雨で冷やされていく。涙で失った水分が補給されていく気がする。


 先輩。どうか苦しまない選択を。幸せになる選択を。


 僕は前を向いて歩き出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ