第30話
「今、親子鑑定の結果待ちなんだ」
学校から駅へ向かう途中で、湊に報告した。
「え? お父さんに言ったのか?」
そう言って湊が立ち止まった。
「凛華先輩のお父さんにね」
「は? マジで!?」
湊が目を見開いている。
「一か八かで家に行ってみたら、先輩のお父さんがいたんだ。だからお願いした」
「お前本当、行動力すごいって。普通行けないって」
僕達は歩道のど真ん中で足を止めて邪魔になりそうだったので、湊の腕を引っ張って歩道の端に移動した。こんな所で立ち話になるとは思わなかった。こんな話をこんな所で。
僕達の前を何人も通り過ぎていく。この中に先輩がいなかったらいいのだけれど。
「湊が親子鑑定のことを調べてくれたから、また背中押してくれたから行けたんだ」
「俺は別に提案しただけだよ。結果はいつ?」
「検査キット送ってから約二週間後」
「はぁ。俺今日からドキドキして眠れないわ」
湊が胸に手を置き、天を仰いでいる。
僕も天を仰いで、ふぅ、と息を吐いた。
「湊がドキドキしてどうするんだよ。あ、それより、あの二人を別れさせる計画を立てようと思って……。湊、協力してくれない?」
「あのさぁ」と言って、湊が僕の目をじっと見てくる。
「な、何?」
僕は耐えきれず目を逸らす。
「これ以上関わるなって言いたいけど、行動力がすごいお前には無理だよな……」
「う、うん……」
「何であの浮気してる二人を別れさせるんだ? 普通に考えてみろ。浮気をやめさせることができたとしても、浮気をするやつはまた絶対浮気をする。そんなやつと付き合い続ける凛華先輩が幸せになれると思うか?」
「だって、凛華先輩は彼氏のことが好きだろ? 別れてないってことはこれからも付き合っていきたいってことだろ? だから、先輩が浮気に気づく前に、あの二人を別れさせることができたら、先輩は傷つかない」
「別れさせることができたとしても、浮気をしていた事実は消せない。後々浮気のことを知って先輩は傷つく。彼氏が浮気を繰り返して、先輩がいつかは浮気に気づいて傷つく。どっちにしろ傷つくと思う」
「そんなの分からないじゃないか。今回で浮気をやめるかもしれない」
「うん。分からないよ。でもさ、一回でも浮気したやつと凛華先輩が付き合うのを真絃は何も思わないの? 最低なやつと付き合ってること、何も思わないのかよ」
「思うよ。こんなやつとさっさと別れたほうがいい。凛華先輩を大切にしてくれる人は他にいる。凛華先輩は幸せになるべきなんだ」
「それが答えなんじゃない?」
「え? 凛華先輩が彼氏と別れる? 僕が別れさせる?」
「本当は何もしないのが一番。凛華先輩と彼氏の問題なんだから。でも、真絃は何もしないのは無理だし、そうするしかないだろ」
「でもどうやって?」
「それは自分で考えろよ」
「どうやったって先輩が傷つくじゃないか。悲しい思いはさせたくないんだよ……」
泣いている凛華先輩の姿が頭の中に浮かんできた。胸が締め付けられて痛い。胸元に手を置いてギュッと服を掴んだ。先輩を泣かせたくない。
「どっちみち傷つくんだよ。凛華先輩なら大丈夫。親の不倫で傷ついたけど、今はちゃんと笑ってるだろ? それに、同じ傷を負ってる真絃がいるんだ。大丈夫だろ」
胸元の服を掴んだ手をしばらく離すことができなかった。先輩が傷つくと思うと、胸が苦しくて仕方なかった。
親子鑑定の結果が出るまでの間、僕は考えた。凛華先輩が幸せになる一番良い方法を。その間は凛華先輩には会わないようにした。学校の廊下で会ってしまっても、軽く会釈をしてその場からすぐ立ち去った。どんな態度でどんな話をすればいいのか分からないから。
時々先輩と彼氏が一緒に帰っている後ろ姿を見かけた。僕はすぐに目を逸らして歩くスピードを落とした。何人もの人が僕を追い越していった。こいつ何でこんなに歩くの遅いんだ、ときっと思われていたかもしれない。ゆっくり歩きすぎて邪魔になっていると思ったけれど、絶対に二人には追いつきたくなかった。
一日一日過ぎるのがとても長く感じた。朝起きて、電車に乗り、授業を受け、家に帰って、洗濯や掃除、料理をする。いつもと同じことをしているのに、時間が過ぎるのが遅かった。考えながら料理をしていると、いつもより品数が多くなっていた。ただ単に僕の料理の腕が上がっただけなのかもしれないけれど。
寝る前には先輩からのメッセージを何度も見た。
『こちらこそありがとう。真絃が友達になってくれて、今も友達でいてくれて私は幸せです』
目を瞑り、幸せそうに笑っている先輩を思い浮かべた。
先輩が傷つかない方法はないのかもしれない。傷ついたとしても、また絶対笑える日が来る。
そう信じるしかない。
親子鑑定のキットを送ってから約二週間後、親子鑑定の結果が届いた、と先輩のお父さんから連絡が来た。




