第3話
目が覚めて時計を見ると、朝の七時だった。今日は学校が休みだから遅くまで寝ようと思ったのに。
今日僕はあの場所には行かない、と決めたけれど、僕が行かなかったら凛華先輩は困るよな、もしずっと待っていたらどうしよう、なんてことを考えてしまう。
とりあえず考えるのをやめて、喉が渇いたので一階のリビングへ向かった。リビングのドアを開けると、味噌汁の良い香りがして、僕の口の中に唾液がたまり、お腹の中が活発に動き出した。
キッチンに立っているお母さんが僕に気づいて、「真絃、お誕生日おめでとう」と言った。
そうか。今日は僕の誕生日だった。
「ありがとう」
「今日は真絃、夜何食べたい? ケーキは好きそうなの買ってくるね」
この歳になって、家族から誕生日を祝ってもらいたくないというか、何もしないでくれたほうが助かる。友達から祝ってもらうのは嬉しいけれど、家族から祝ってもらうと体の中心がざわざわするというか、くすぐられているような感覚になる。
どうせ、僕が何を言ってもお祝いするつもりだろうから、何も答えなかった。
冷蔵庫から麦茶の入ったピッチャーを取り出し、コップにお茶を注いで一気に飲み干した。
お母さんは、白ごはん、お味噌汁、ベーコンと目玉焼きがのったお皿を次々とテーブルに置いている。
「真絃、お母さんもう仕事に行くから朝ご飯食べてね。おばあちゃんが起きてきたら、朝ご飯と昼ご飯、冷蔵庫に入ってるって伝えてね」
「分かった。今日仕事、夕方まで?」
「あ……うん。今日は五時まで仕事」
「そっか。いってらっしゃい」
「いってきまーす!」
お母さんも大変だよな。仕事して、家事して、おばあちゃんの世話もして、疲れた顔ひとつ見せない。
おばあちゃんが二年前からここに住むようになって、お母さんの負担は増えただろうな。
おばあちゃんはお母さんに対して厳しくて、「優子さん。この肉じゃがの味が薄い。もう少し醤油をたしたほうが良いわ」とか、「こんな洗濯物の干し方じゃ乾きにくいわ」とか、家事に対して色々と口出ししている。
僕なら、うるさいなぁ、と苛立つと思うけれど、お母さんはヘラヘラしながら、「すみません。今度から気をつけますね〜」と苛立つ様子を見せない。
きっとこの今食べている味噌汁も、おばあちゃんが食べると、味が薄いとかいうんだろうな。全然味は薄くないのに。
「まーちゃん起きてたの? おはよう」
おばあちゃんが起きてきた。
僕もう高校生だから、そのまーちゃん呼びをやめてほしい、とは言えない。
「おはよう。朝ご飯、昼ご飯、冷蔵庫にあるらしいよ」
「はいはい。ありがとう」
おばあちゃんが鍋をのぞき、お味噌汁を器に入れて味見をしている。「ちょっと薄いかな」と言っている。やっぱりな。言うと思った。
「おばあちゃん。お味噌汁美味しかったから、勝手に味噌足したりしないでよ」
「え〜? 薄かったよ?」
「薄くない」
「まーちゃんがそこまで言うなら、おばあちゃん我慢して食べるよ」
息子と孫には甘いのか、お父さんと僕の言うことは素直に聞いてくれる。
僕が言わないと、おばあちゃんの好き勝手にされては困るし、お母さんが可哀想だ。
「ごちそうさまでした」
「まーちゃん今日出かけるの?」
「うーん。まだ分からない」




