表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独の魔女は物語を紡ぐ~第三皇子と追放された令嬢~  作者: 嘉神かろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/32

第24話 独りの日々

 町を歩いていると、妙に男女の二人組が目についた。その二人が楽しげに笑っていると、アリアの足は重くなる。彼らが不快なわけではない。迫害する側だとは思っていても、何の意味もなく彼らの不幸を願いはしない。

 

 たまらず逸らした視線の先に金髪の男性がいれば、それも目で追ってしまう。実害という意味ではこちらの方が問題だ。

 怪訝な目を返されて終わるなら良いが、何を勘違いしたのか、脈ありと見て声をかけてくる輩もいた。そういった相手は、不快でしかない。ただ、幸い、空色の瞳を氷に変えてすげなく断るだけで食い下がられることはなかった。


 仲介所に着いてすぐ、依頼書の張り出されている掲示板へ向かう。時間的には最も混み合ってもおかしくない時間帯だが、傭兵の姿は疎らで、読み上げ係の青年が退屈そうに欠伸をしていた。受付の人間など、カウンターに背を向けて同僚と談笑している。その理由をアリアはなんとなく察してしまった。


 別の原因があることを願って依頼書に目を通すが、期待はできない。

 ――ああ、やっぱり……。仲介料がこれじゃあね。


 ここの仲介料はセスと拠点にしていた町の三倍近くあった。相場に比べても倍以上ある。これでは傭兵はすぐに他の町に移ってしまう。

 今いる町も森沿いにあるから、当然、魔物増加の影響を受けているはずなのに。これで問題は無かったのだろうかとアリアは首を捻ってしまう。町を一つ挟んだだけの距離しかないのだから、あのタイタンオーガやサマエルスネークがここに来ていた可能性も十分にあった。そうなれば、この町は滅んでいたのだろう。


「他に仲介所か掲示板がないか探してみ――」


 自分は、誰に言っているのか。読み上げ係の青年が不審げに見てくる。それを無視して、アリアはその仲介所を後にした。


 彼女は町をいくらか回った後、けっきょく最初の仲介所に戻ってきた。他が無かったのだ。よくよく考えれば、この仲介所があの仲介料でやっていけている以上、競争相手がいないのは自然な話であった。

 仕方なく、少しでも割りの良いものを探す。幸運なこと、と言って良いのかは分からないが、彼女の記憶している限りと掲示板に残っている依頼はほとんど変わらない。

 ――魔物討伐にしておこうかしら。薬草があったらそれも売りましょう。


 衛兵詰所が依頼主となっていたから治安維持のための依頼だろう。報酬は特別良いわけではないが、素材がそのまま自分のものになることを思えば、悪くないという判断だった。


 森に入ってしばらく。気がつけば、昼の時間はとうに過ぎていた。木々の並ぶ内にいるせいで影の短くなるのに気がつけなかったらしい。彼女が森の浅い部分に戻ってそれを知ったときには、空の赤く染まるのも遠くないような時間だった。

 ――なんだか、いつもより疲れた気がするわね。


 強敵には出会っておらず、ほとんど全て出会い頭の魔術で一撃で終わる程度だったはずなのに、妙だ。アリアは首を傾げながら町に戻る。何にせよ、依頼は完了したのだから報告しに行かなければならない。


 いつもよりずっと疲れた理由に彼女が気がついたのは、魔物の素材と薬草を換金したときだった。いつもの感覚と同じくらいの量を持ち帰ったはずなのに、普段の半分ほどしか稼げなかったのだ。


 それはそうだ。今、アリアは一人なのだから。持ち帰られる量は単純に半分。稼ぎが少なくなるのは当然で、完全に彼女の落ち度だ。


 とはいえ必要な経費もいくらかは減っている。問題は特にない。

 それなのに、彼女の心は不思議と深く沈んだ。稼ぎが少なかったことが原因、と言うのは無理があるほどに、深く沈んだ。


 アリアが薬草や魔物の素材の換金を済ませた頃には、西の空はすっかり茜色に染まっていた。町中も同じ色になっていて、すれ違う人の顔も区別がつかない。寂しさを覚えるような光景だが、今の彼女には、むしろ心安まるものだ。

 暗くなった胸の内すら夕日色に染められると、今度は違うものが訴えかけてくる。お腹の辺りからくるそれに従って、彼女は宿に併設された酒場に足を踏み入れた。


 端の方の席に座り、品書きを睨む。しばらくそうしてしまっていたのだろう。いつまでも注文しようとしない彼女に業を煮やしたらしい給仕の娘がやってきた。

 ――ああ、そうよね。私しかいないんだから、私が注文しないと……。


 とりあえず気になっていた三品ばかりを注文する。ここ数日は、どうにも調子がでなかった。


 アリアの頼んだのは、魔物肉を骨ごと煮込んだスープと家畜の乳を発酵させたものを乗せて焼いたパン、それから森で採れる果実の盛り合わせだ。スープには練り物も入っていて、体力の必要な傭兵や旅人にも嬉しい。

 しかしそれはつまり、お腹にたまるということ。小食の彼女では、なかなか食べきれない。元は王族とはいえ、村暮らしと一人旅の期間が長い彼女の感覚だと残してしまうのは憚られる。どうにか食べきろうと、少しずつ手を進めていた。

 ――セスと一緒の時と同じ感覚で頼んでしまったわね……。


 原因を思い浮かべながら、苦痛になるつつある食事を続ける。まだ酒場の内は酒を飲む客達で盛り上がっているし、ちらほら空いた席もあるから迷惑客にはなっていないのが幸いなところか。


「ねえ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ