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7話「届けた音と約束」

……自分の曲を聴いてもらうって、こういうことなんだ。


ラブレターを読まれるのと、似てるのかもしれない。

コンコン、と控えめなノック音。


八神さんがこのフロアは全部貸し切りって言ってたけど…


「オレ」


ライブで喉が枯れたのか、昼間より少し掠れたセナ君の声が聞こえる。


「速攻でホテル戻ったって聞いてさ。……少し、歩かね?」


夜になっても蒸し暑さが残るけれど、

中庭にある人工の滝や小川が、ほんのり涼しい風を運んでくる。


相変わらず、ライブの思い出を一気に話すセナ君。


……ほんとにこの人、ライブが好きなんだなぁ。

というか、これ私だけが聞いてていいのかな。

ファンの人が聞いたら、たぶん泣いて喜ぶやつだよね……?


なんて、すっかり私もスターライトパレードのファンになってる。


……なんだろう。

今なら、泣けちゃうくらい“いい曲”が書ける気がする。


「♪~~~♬~~」


ふいに、セナ君が鼻歌を口ずさむ。


「今の……何の曲?」

「んー? スターライトパレードのきょくー」

「え? ソロ曲含めて全部聴いたつもりなんだけど……?」

「いや、どの曲ってわけじゃなくてさ」

「……それなのに、スターライトパレードの曲なの?」

「だって、オレらのための曲をオレらが歌ったら、それもうスターライトパレードの曲じゃね?」


その一言を聞いた瞬間――

セナ君が月明かりに照らされる姿が、すごく遠くて、でも近くて。


……視界が一気に、広がった気がした。


「ごめん!! 帰らなきゃ!!!」

「は? 帰る!?」

「ピアノ弾きたい!! 今すぐ!! ……ああっ、電車無理だよね!? タクシー!!」

「おい!?」

「ごめん!! 明日も……行きたいけど、来れないかも!!」


ホテルの玄関に飛び出して、タクシーに滑り込む。

……頭の中が、音でいっぱいだ。


スマホの録音アプリを開いて、大きく深呼吸。

頭に響くメロディーを、そっと口ずさむ。


楽譜通りじゃない音を作るのって、怖い。

でも、自分の中の音を形にするって、こんなに自由なんだ。


あんなに難しく考えていたのに、今は違う。


正しい音じゃなくて、伝えたい音を選べばいい。

1音足すたびに、彼らの顔が浮かぶ。


クラシックじゃない。

“綺麗”じゃなくて、“伝わる”音が作りたい。


それが、私の曲。



LINEの着信音が鳴る。

昨日と同じ時間。やっぱり、セナ君だった。


『今日こねーの?』

「ごめん、本っっ当に観たいんだけど……!」

『あと4時間で本番でさ』

「え!? 昨日より早いんだね」

『今日は撤収作業あるからな』


行きたい気持ちは本物。

今から向かっても全然間に合う。

でも――


迷っている私に、セナ君がひと言。


『……期待していんだよな?』


もし以前の私だったら、きっとうまく答えられなかった。


でも、今の私は違う。


「もちろん!!

10……ううん、6日後の土曜日! 聴いてくれる!?」


『待ってっから』


ぶっきらぼうな一言。

だけど、ものすごく甘くて優しいトーンに聞こえて。

……顔が、耳まで真っ赤になった。


スマホを抱えたまま、膝をぎゅっと抱きしめる。



約束の、6日後―――


スターライトパレードが所属する会社に呼ばれた私は、

会議室に通された。


テーブルに置かれた私のスマホ。

全員の視線が、そこに集まっている。


「かけます!」


意を決して、再生ボタンを押す。


部屋に流れるのは、明るくて軽快な曲。


ピアノしか使えなかったけど、曲調はちゃんと伝わるはず――!


「うわー! これめっちゃ踊れそうやし、ファンも好きそうやん!」

「ライブ映えしそうだよな!」

「ボク、カラオケで歌いたいやつ~!」

「そうなの!みんなのライブを観てね、コール&レスポンスが楽しくって!」

「モニターにコーレス出してあげたら、ファンも乗ってきやすいかもな」


みんなが、思い思いの感想を口にしてくれる。

嬉しくて、ちょっと泣きそう。


……でも、セナ君だけが違ってた。


会議室の端でずっと俯いて、手を口に当てたまま、何も言わない。


空気が変わったのは、みんなの感想がひと通り出終わった頃。


セナ君が、ゆっくり顔を上げた。


「なぁ。……オレは、“代表曲”が欲しいって言ったんだけど!!??」

「ちょ、セナ……!」


椿さんが止めようとする、その瞬間。


私のスマホから、2曲目のイントロが流れ始めた。


……空気が、変わった。


セナ君が思わず立ち上がって、目を見開いた。


「……なに、これ」



息を呑む。


初めて、“伝えたい”と思って作った曲。

理論じゃない。

顔を思い浮かべながら、選んだ音。


「えっと……私、最近CD買ってなくて……

確かA面とB面って、2曲あるんだよね?」


驚いた顔で見つめるメンバーたち。


「3日で書き上げちゃって。せっかくだし、2曲作ってみたの」


信さんが、ふっと頷く。


「……さっきのがB面。これはA面だな。完全に」


椿さんが腕を組み、口元を緩める。


「セーナ、代表曲がなんだって?」


セナ君を見ると、真っ赤な顔で目を逸らしていた。


「う、うるせーな!! 八神さん!! レコーディング!!

すぐ手配してよ!!」


メンバー全員が、思わず笑い出す。


「待て待て、ピアノ原曲だけだろ。まずはアレンジと作詞の手配が先だって」

「ところで奏ちゃん、これって……何をイメージして作ったの?」


正面に座っていた怜央さんが、身を乗り出して聞いてくる。


改めて聞かれるとなんだか気恥ずかしくて、たどたどしく答える。


「えっと……みんなのことです。

みんなは、私たちにとって“星”みたいな存在だから。

だから、ずっと、私たちが見上げたら――

いつでも輝く“星”でいてください」


「……なにそれ……

なんかずるい……こういうの……」

「あれ? 遊里君、泣いちゃった?」

「ち、ちがうし!! 泣いてないし!!バカ!バカ蓮!!」



レコーディングにはいろんな準備があるらしく、

八神さんと楽曲買取の契約を後日交わすことになった。


私は、音源を渡して会議室を後にする。


心が、ふわふわしてた。

あまりにも嬉しくて。


……自分の曲を聴いてもらうって、こういうことなんだ。

ラブレターを読まれるのと、似てるのかもしれない。

なんて、ラブレターなんて書いたこと無いんだけど。


恥ずかしいけど、見てほしくて。

怖かったけど、みんなの反応が嬉しくて。

……とんでもないご褒美をもらっちゃったみたい。


どうしよう、叫びたいくらい嬉しい。


「奏!」


背中から呼ばれ、振り返ると――

会議室から出てきたセナ君が、そこにいた。


「完成したら、一番に聴かせるから」

「……うん! 待ってる!」

「約束な」


セナ君は、小指を立ててみせると、また会議室へ戻っていった。


――名前。呼ばれた。


初めて、名前で。


私はその場に、へにゃっと座り込んでしまった。

エレベーターを乗り損ねたことにも、気づかないまま。

最後まで読んでいただきありがとうございました!


ついに完成した曲。

みなさんはどんな曲だと思いますか?

イメージした曲があったら是非教えてください!


もし少しでも気になってもらえたら、フォローやお気に入りしていただけると励みになります。

次回が最終話になります。【7月26日(土)夜】に更新予定です!


ぜひまた覗きに来てくださいね!

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