1話「君と出会って物語が始まる」
はじめまして、ご覧いただきありがとうございます!
これは、とある“ちょっと普通な女の子”と、まぶしすぎる7人のアイドルたちが織りなす、少し不器用な物語です。
第1話では、出会いのきっかけとなる出来事が描かれます。
まだ何も始まっていない、でも何かが始まりそうな──そんな一歩目です。
ゆっくり読んでいただけたら嬉しいです!
「この世界に、こんなきれいな景色があるなんて――」
何度でも思い出して、胸が熱くなる。
あの時見た景色を、私は一生忘れることはないと思う。
この物語は、あの景色に出会う3か月前から始まる。
週末にはライブやフェスでにぎわう公園の一角にある、野外音楽堂。
平日はストリートピアノとして自由に使えると知ったのは、先週のことだった。
5月の早朝。
森に囲まれたその公園は、少し肌寒くて澄んだ空気に包まれていた。
今日は、高校に入って初めてのテスト初日。
化学と数学――どちらも苦手で、不安をかき消すようにピアノに向かう。
思い思いのフレーズを指先に任せて奏でていた。
ふと、遠くから子供の泣き声が聞こえてくる。
一人の声が、いつの間にか何人もの声に変わっていく。
どうやら幼稚園のお散歩中に、誰かが転んじゃったみたい。
……なかなか泣き止まない。
先生の声も、少し不安そうに聞こえた。
――お散歩といえば、あの曲でしょ。
テレビはあまり観ない私でも知ってる、有名なアニメ映画のあの曲。
少しテンポを上げて、軽快に弾いてみる。
気づいてくれるかな……?
泣き声が、少しずつ減っていく。
代わりに、ぽつぽつと歌声が混ざりはじめて――やがて大合唱に。
フルコーラスを弾き終わる頃には、歌声は遠ざかっていった。
……よかった。
楽しいお散歩の、お手伝いができたかもしれない。
「うん、私には――誰かの人生の、ほんの少しのBGMになるくらいが、ちょうどいいのかも」
それで、十分幸せ。
私なんかが主役になろうなんて、そもそも間違いだったんだ。
「ふぅ……いい感じに頭、冴えてきたかも!」
ストリートピアノって、初めてだったけど、こんなに開放感あるんだ。
来たときよりも軽い足取りで、私は学校へと向かった。
……なんだか、テスト、頑張れそうな気がする。
*
音楽堂でピアノを弾いてから、一週間。
今日は先週のテスト返却日。
苦手だった化学も数学も、思いのほかできてて――そのテンションのまま、また来てしまった。
誰もいないのを確認して、そっとピアノに手を伸ばす。
何を弾こうかな……そう考えていたそのとき。
「なぁ! あんた!!!」
突然、誰かに声をかけられた。
驚いて顔を上げると、そこには黒いパーカーにサングラスの男の人が立っていた。
フードの隙間から見える髪は、金髪っぽい。
え……私に言ってるの?
戸惑って動けずにいると、彼は私の隣まで歩いてきて、ピアノに手を置いて言った。
「なぁ、あんた。オレらに曲、書いてくんね?」
……え?
「人違いじゃないですか?」と、思わず口にする。
彼は即座に首を振った。
「人違いじゃないって! あんたがいいんだって!」
……やばい。完全に変な人だ……!
「ご、ごめんなさいっ……知らない人と話すなって言われてるんで……!」
慌ててカバンを持って、背を向ける。
「おい!待っ……!」
何か言ってたけど、聞かないふりして公園を走り抜けた。
*
いつも通りの授業、いつも通りの放課後。
でも、今朝の出来事がずっと頭から離れない。
……あれ、通報した方がよかったんじゃ……
そんなことを考えながら学校を出ると、背後から聞き覚えのある声が。
「みーっけ!!」
振り向くと、そこには――今朝の彼が、また立っていた。
「やっぱりこの学校だったんだ。偏差値、けっこう高いんじゃねここ?」
「えっ、なにそれ。なんで知ってるの……まさか……ストーカー……!?」
「ち、ちげーよ! この辺、何回か来てるから制服見たことあっただけだっつーの!」
彼はそう言うと、フードとサングラスを外した。
「オレ、スターライトパレードのセナ。知らない?」
スターライト……パレード?
なんか、聞いたことあるような……ないような……
「知らない人とは話せないんだろ? これで話してくれんだろ?」
え、どういう意味――
「もしかして、本当にわかんない? もうデビューして3年なんだけどな……」
「芸能人、なんですか……?」
「まじかーーーー!!」
彼は頭を抱えて、しゃがみ込んでしまった。
「ご、ごめんなさい。私、あまりテレビとか観なくて……」
「いや、うん!オレがまだまだってだけだよな…」
立ち上がった彼は、勢いよく私に顔を近づけて、まっすぐに言った。
「なぁ、あんたのピアノ聴いて、オレたちの曲を作ってほしいと思った! 代表曲になるようなやつを!!」
まっすぐな目と、まっすぐな言葉。
私の心臓が、うるさいくらいに鳴ってるのが自分でもわかった。
……改めて見ると、あまりテレビを観ない私でもわかるくらいの、イケメンなんでは…?
あぁぁ…イケメンにときめいてる場合じゃない…
「……いつ私のピアノを聴いたのか、わからないけど……無理です。
そんな経験、ないし。私は……ちょっとピアノが弾けるだけです……」
これが、私の本音。
彼の言葉は、嬉しかった。けど――
私は、そっと目を伏せて、ぎゅっと瞳を閉じた。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
セナ君の勢いに振り回されつつ、少しずつ距離が近づいていく感じ…
ちょっと胸がざわつくような気持ち、伝わったでしょうか?
よかったら、引き続きお付き合いください。
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次回、第2話は【7月12日(土)夜】に更新予定です!
ぜひまた覗きに来てくださいね!