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ねこのしっぽ

作者: たかさば

 やわらかくて、温かくて、モフモフで、たまにばちっとするけど…触らずにはいられない、毛にまみれた魅惑の生物。


 かわいらしい鳴き声で耳をくすぐり、人にはまず出せないグルグル音でささくれ立った心を癒してくれる、ただただその存在が麗しい生命体。


 とがった爪が突き刺さろうと、やけに攻撃的な舌でザリザリやられようと、甘噛みというレベルをはるかに超えてかじられようと…究極のぷにである肉球をちらつかされてしまえば、いつまでも押し続けてしまうこと必至。


 それは…、ねこ、ネコ、猫!!!


 ねこというものは、実にかわいい。

 猫というものは、本当に素晴らしい。

 ネコというものは、とにかく貴い。


 甘えっ子だったり、ツンデレだったり、しっかり者だったり、うっかりさんだったり、性格そのものもかわいらしいが…まずはその姿が大変に魅力的だ。

 ピコピコしたミミ、キラキラした目、撫でがいのあるつやつやした毛皮、時折攻撃的ではあるものの触らずにはおられないプクプクした肉球が備わっているオミアシ、ふにゃふにゃしたボディに、パタパタしっぽ。


 どこもかしこも愛おしいが…私はとりわけ、しっぽがお気に入りだ。


 しっぽは、言葉を話さぬ猫たちの感情がうかがい知れる、貴重な部分である。


 クールな顔をしていてもおっかなびっくりを隠せない、素直すぎるしっぽ。

 モノを言わずに不機嫌をさらけ出す、やけに迫力のあるしっぽ。

 二倍の太さに膨れ上がり、真の怒り/恐怖とはこういうものなのだと見せ付けてくるしっぽ。


 しっぽこそ、ねこが猫たるネコゆえの…猫ねこネコねこ…!!!


 ……一口にしっぽと言っても、色んなしっぽがある。


 長いの、短いの、丸いの、太いの、細いの。

 ごくごくたまにしっぽなしでおしり部分がプルプルなんてのもある。


 私は、すました猫が前足に尻尾を巻き付けている姿が特にお気に入りだ。


 まるでマフラーのように。

 まるで身を守っているかの如く。

 まるでこうあるのが正しい姿なのだと見せ付けんばかりに。


 おさまりが良いというか、きちんとしているというか。

 礼儀正しいというか、気品があるというか。


 尻尾を巻き付けずにぶらぶらさせている猫よりも、なんとなく出来の良さを感じるのだ。


 おそらく…うちの歴代の猫で一番しっかりしていた姐さんのイメージが強いのだろう。


 彼女は、派手にやらかしては怒られる猫を、いつもすました顔で見ていた。

 しっぽを前足に巻きつけて、微動だにせず。

 細い細いしっぽをピッタリと巻きつけて、たまにドスの効いた野太い声で鳴いて。


 たまに、イケメン猫も尻尾を巻き付けていた。

 一緒にゲームを楽しむ卓についたり、調理を手伝おうとしたり、無くしものを見つけてきたり、入浴にお供したり、大の字でぐうぐう寝ていたり、おおよそ猫らしくない変わり者の彼だったが、しっぽを巻きつけてこちらを見上げている時だけは…猫の風格のようなものが漂っていたのだ。


 年齢や性格、しっぽの長さの関係で、巻き付けることが叶わない猫もいるとは思う。

 丸っこい猫は老いてしまって寝ていることがほとんどだし、気の強い猫もずいぶん気弱になって丸まっている姿ばかり見るようになってしまったし、昔しっぽの先がちぎれた猫は物理的に巻き付けることはできない。


 だがしかし…、長くとも一向に巻き付けようとしない猫もいる。


 35センチを超える長すぎるしっぽを持つ黒猫は、いつもド派手にしっぽをブンブン振り回しては人間に遠慮なくぶつけてくるような礼儀知らずだ。

 そこそこ長いしっぽを持つ麗しい白サバ猫は、いつもしっぽの存在を忘れてただただ一心に人または猫に構ってもらおうと必死になっているような落ち着きとは無縁のかまってちゃんだ。


 うちにはもう、しっぽを巻き付ける猫は…いない。

 けれども、広い世の中には…しっぽを巻き付ける猫がたくさんいる。


 インターネットの普及した世界というのは、実にありがたいものだ。「しっぽ巻き座り」「しっぽマフラー」などのワードで検索すると、わんさか魅力的な画像が出てくるのである!!!


 この猫のしっぽはかなり長そうだ、この猫は姐さんの風格がある、この猫の巻き方は個性的だ、この猫は短いしっぽで頑張ってるな、この猫のしっぽのしましまは姐さんそっくりだ、この猫のしっぽの巻き方はイケメン猫寄りだ…、ついつい、時間を忘れて夢中になってしまうのも、致し方あるまい。


 手元で撫でてよし、遠目に見てよし、画像を探してよし、動画を見てよし、思い出にふけってよし。


 ねこというものは、実にかわいいものだ…。

 猫というものは、本当に素晴らしいものだ…。

 ネコというものは、とにかく貴いものなのだ…。


 ……なんだか永遠に続いてしまいそうだ。


 ‥‥タン、ドン、ゴツ!!

 ‥‥コツ、コツ、だん!!


 この音は…、しっぽの長い猫が不機嫌を撒き散らしている音だな。

 あの猫は人の部屋の前に来ては、しっぽを使ってはげしく自己主張をするのだ。


 ‥‥ドンっ!!

 ‥‥がっ!!

 

 この重量感のある音は、かまってちゃん猫がしっぽの長い猫にちょっかいを出してじゃれ合いが始まった音だな…。

 あの猫は自分が眠たい時以外は、常に人だったり猫だったりおもちゃだったり空気清浄機だったり掃除機だったりゴミバコだったり窓に張り付いてる虫だったりに手をのばしてはげしく好奇心を満たしにかかるのだ。


 やつらは、メシを食ってるときだけは仲良く大人しく並ぶ。

 …そろそろ、ご飯の時間にしたほうがよろしかろう。


 私は、パソコンのブラウザを閉じ。


 ピンと真上に向かって長いしっぽを立てる二匹の猫と共に、キッチンに向かったのだった。

 




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