エピローグ:「悪とは何か?」
対談が終盤に差し掛かると、部屋の雰囲気は少し落ち着きを取り戻していた。
あすかは、対談者たちがそれぞれの視点から「悪」について語り尽くしたことを感じ取りながら、静かにグラスの水を一口含んだ。
スクリーンに映るルシファーの姿は依然として荘厳で、しかしどこか達観したような表情を浮かべていた。
司会・あすか:総括
あすかは微笑みを浮かべながら、話をまとめ始める。
「皆さん、本日は興味深い議論をありがとうございました。
それぞれが異なる立場から『悪とは何か』を考えましたが、今、私たちが共有できる結論を出すとすれば――
『悪は、力、恐怖、反逆、混沌、支配――どれか一つで定義されるものではない』
ということではないでしょうか?」
カポネがウイスキーを飲みながら頷く。
「悪ってのは、結局のところ、時と場合によって変わるってことかねぇ。
俺にとっちゃ、悪は『支配できるかどうか』だったが、確かに、それだけじゃ説明しきれねぇな。」
ヒトラーは深く考えるように視線を落とし、それから静かに言葉を発した。
「国家を作るには秩序が必要だ。そして秩序を維持するために、恐怖や力が用いられることは避けられない。
だが、私の支配が『悪』と呼ばれるならば、それは歴史による評価にすぎない。
結局、『悪』とは、勝者が敗者に貼るレッテルなのではないか?」
ジョーカーはその言葉を聞くと、急に高らかに笑い始めた。
「アッハハハ! ついに分かってきたじゃないか、総統閣下!
そう、『悪』なんてのはただの言葉だよ! みんな、自分に都合のいいように『悪』を定義して、利用してるだけなんだ!」
彼はくるりと回りながら、続ける。
「みんな、勝手に『これは悪だ、これは善だ』なんて言うが、そんなの所詮、作られたルールなんだよ!
俺が混沌を広めると人は怖がるけど、本当はみんな、それを楽しんでるんだぜ!」
彼の言葉に、カポネは肩をすくめながら苦笑する。
「まぁ、お前さんの言うことも一理あるがな。
ただ、俺の経験から言わせてもらうと、『悪』ってのは誰が上に立つかで決まるんだ。
支配する側が『善』になり、支配される側が『悪』になる。
それが世の中の仕組みってもんよ。」
ルシファーはその言葉を聞きながら、ゆっくりと頷いた。
ルシファー:悪は存在するのか?
スクリーンの中のルシファーは、少し微笑を浮かべながら、静かに語り始めた。
「結局のところ、『悪』は人間が作り出した概念にすぎない。
『神の意志に従わない者』が私であり、『社会のルールに従わない者』が君たちだ。
どちらも、ある秩序の中では悪とされるが、別の視点から見れば、それは単なる『違い』にすぎない。」
彼はスクリーン越しにジョーカーを見つめる。
「ジョーカー、お前の言うことは正しい。
悪とは絶対的なものではなく、見る者の立場によって変わる。」
次に、ヒトラーを見つめる。
「そしてヒトラー、お前の言う通り、勝者が『善』を定義するのもまた事実だ。
だが、善と悪が決められた瞬間に、それは固定されるのではないか?」
最後にカポネを見て、軽く微笑む。
「カポネ、お前の理論も正しい。
人は恐怖と支配によって動かされるが、それは手段にすぎない。
『悪』が何であるかは、その時々の社会が決めるのだ。」
司会・あすか:結論と締めくくり
あすかは、議論がまとまりつつあるのを感じながら、静かに微笑んだ。
「つまり――
悪とは、秩序と反逆の間に存在し、視点によってその意味を変えるものだということですね。」
彼女はゆっくりと、対談者たちに目を向けた。
「ヒトラーさん、あなたの考えでは『秩序を壊す者が悪』でした。
カポネさん、あなたは『悪とは支配される側の呼び名にすぎない』と語りました。
ジョーカーさん、あなたは『悪は人間が勝手に作り出した幻想』だと言いました。
そしてルシファーさん、あなたは『悪は絶対ではなく、視点によって決まる』と結論づけました。」
あすかは少し間を置き、優しく微笑む。
「こうしてみると、悪は決して単純なものではありません。
むしろ、それぞれの時代、社会、個人の価値観によって変わるものなのかもしれませんね。」
対談者たちはそれぞれ考え込むように沈黙した。
カポネはグラスの底を見つめ、ヒトラーは静かに瞑目し、ジョーカーはニヤニヤと笑いながら指を鳴らす。
そしてルシファーは、スクリーンの向こうでただ静かに微笑んでいた。
「では、最後に皆さんから一言ずついただいて、対談を締めくくりたいと思います。」
対談者たちの最後の言葉
ヒトラー:(静かに)
「悪は、勝者の定義にすぎない。」
カポネ:(苦笑して)
「悪ってのは、結局、誰が上に立つかって話よ。」
ジョーカー:(大笑いしながら)
「悪なんてものはない! あるのは、混沌だけさ!」
ルシファー:(穏やかに)
「善と悪は、いつの時代も揺れ動くものだ。」
司会・あすか:締めの言葉
あすかは深く頷き、静かに言葉を結んだ。
「ありがとうございました。
『悪とは何か』――
その答えを決めるのは、歴史であり、社会であり、そして私たち自身なのかもしれません。」
こうして、対談の幕は静かに下ろされた。