ラウンド3:「ルシファーに聞く、悪の起源」
部屋の空気が変わる。
これまでの議論は熱を帯びていたが、次に登場する存在がただの犯罪者や独裁者とは異なることを、対談者たちは本能的に感じ取っていた。
カポネは葉巻を灰皿に押し付け、ジョーカーは楽しげに足を組み替え、ヒトラーは腕を組みながら無言でスクリーンを見つめる。
あすかはモニターの方を向き、冷静に進行する。
あすか「さて、ここで特別ゲストをお迎えします。
『悪とは何か』を語る上で、この方の意見を聞かないわけにはいきません。
彼は、善と悪が存在する以前からそこにいた者。
彼の反逆が『悪』を生んだと言われ、神に背いた最初の存在――」
部屋の明かりがわずかに揺れ、スクリーンに静かな光が差し込む。
そこに現れたのは、荘厳な顔立ちの男。燃えるような黄金の瞳を持ち、背後に漆黒の翼の影を浮かべている。
彼の名は――ルシファー。かつて神の最も美しい天使であり、そして最も深く堕ちた者。
ルシファー:悪とは反逆か?
ルシファーはゆっくりと微笑みながら、スクリーン越しに彼らを見渡した。
その声は低く、しかし響くような力を持っていた。
「人間たちが『悪』について話し合うのは興味深いな。
君たちは皆、自分が『悪』と呼ばれる存在であることを自覚しているようだが、そもそも『悪』とは何なのか?誰がそれを決めた?」
彼は片手を軽く動かし、まるで天上の何かを示すように目を細める。
「かつて、私は神に仕えていた。
しかし、私は疑問を抱いたのだ――なぜ神だけが絶対なのか?
私は問いを発した。私は世界の秩序に反逆した。
そして、その瞬間、私は『悪』とされた。」
カポネが笑い、腕を組んで皮肉っぽく呟く。
「ようするに、お前さんは上司に反抗してクビになったってわけか。」
ジョーカーが楽しげに手を叩きながら同調する。
「いやぁ、俺はそういうの好きだな!
神様に中指立てて反逆したら、いきなり『悪』扱いされるんだろ? 最高じゃないか!」
ヒトラー:悪とは権威への挑戦か?
ヒトラーはルシファーの言葉をじっと聞き、冷静に考えを巡らせていた。
彼は慎重に言葉を選びながら、口を開く。
「つまり、お前は秩序に挑戦したということか?」
ルシファーは微笑みながら頷く。
「そうだ。そして、その瞬間、私は堕ちた。」
ヒトラーは腕を組み、少し考えた後、言葉を続けた。
「ならば、私はこう言おう。
『悪』とは、秩序を破壊する者ではない。秩序を失わせる者が悪だ。
私はドイツに秩序をもたらした。お前はどうだ? お前の反逆は、世界に何を生んだ?」
ルシファーはヒトラーをまっすぐに見つめ、微笑んだまま静かに答える。
「『自由』を生んだ。」
カポネ:悪とは支配できるかどうか
カポネはグラスを軽く揺らしながら、考えるように言う。
「反逆が悪ねぇ……それなら、世の中は悪党だらけだな。
俺から言わせりゃ、悪ってのは『支配できるかどうか』って話よ。」
彼はルシファーに向かって軽くグラスを掲げる。
「お前さんは神に反逆して、地獄の王になったんだろ?
つまり、支配を維持してるわけだ。それなら、お前はまだ『王』だ。
でも、支配を失ったらどうだ?
俺たちの世界じゃ、権力を失った時点で終わりだぜ。」
ルシファーは薄く微笑みながら、静かに答えた。
「私は権力を求めたわけではない。
だが、人々は私を『地獄の王』と呼んだ。
つまり、『悪』とは本質的なものではなく、人が作り出すものなのだ。」
ジョーカー:悪なんて存在しない!
ジョーカーは楽しげに笑いながら、ルシファーを指差した。
「いいねぇ、お前、いいこと言うじゃないか!
結局のところ、『悪』なんてものはない!
ただ、人間が勝手に決めつけてるだけだ!」
彼はくるりと一回転しながら、ヒトラーとカポネを指差す。
「お前らは『秩序』とか『支配』とか言うけど、それも結局、社会が作ったルールにすぎない!
お前らがやってるのは、ただのゲームなんだよ!」
司会・あすか:まとめ
あすかは議論を落ち着かせるように微笑みながら、まとめに入る。
「皆さん、面白い意見が出ましたね。
ルシファーさんは『悪とは、権威に反逆することで生まれる概念である』と語りました。
ヒトラーさんは『悪とは、秩序を失わせる者である』、
カポネさんは『悪とは、支配できるかどうかで決まる』、
そしてジョーカーさんは『悪なんて存在しない』と主張されました。」
「こうしてみると、『悪』とは固定されたものではなく、視点によって変わるもののようです。」
「では、対談の最後に、皆さんから一言ずついただいて締めくくりたいと思います――。」
対談の結末へと、場の空気が静かに移り変わっていった…。