序章4話
氷の魔女が消えてから数刻。
辺りはすっかりと暗くなっている。
ふだんであれば人々の声など、この時間でもある程度聞こえるクリオネッタ王国は静寂と暗闇に包まれている。
仰向けで打ちひしがれ、倒れたままのカグツチ。
その傍らにいる光を失ったロスカ。
カグツチの表情は絶望に染まりきっていた。
そして自分の傍らに落ちている剣に目を向ける。
精一杯の力を振り絞り、剣を手に取ったカグツチは、ゆっくりと剣を上に上げ、刃を自分自身に向ける。
そして剣を自分の腹に向けて降ろす。
すると何かによってその手が強く抑えられる。
「おい!何してる!?」
カグツチの頭上には、ハッセルがいた。
そしてかなり焦りの混じった表情でカグツチを見ている。
その後ろには馬車と目に涙を浮かべて困惑の表情を浮かべたラムチもいる。
「………爺さん………?」
「何があった?」
「………離してくれ。………腹を切る」
「!?まずは状況を説明しろ!敵襲か?姫はどうしたんだ!?」
カグツチはハッセルを振り払おうとする
「離してくれ………。姫を守れなかった。腹を切る」
ハッセルはカグツチから剣を取り上げ、後ろに投げ捨てる。
「落ち着け!まずは状況を説明しろ!」
カグツチは震えながら話す。
「………姫が………魔剣に………。………俺を庇って………!」
大粒の涙がポロポロと流れ落ちる。
「………爺さん。死なせてくれ」
「魔剣はどうなった?」
涙を流しながら、無気力な声でカグツチは答える
「………盗まれた。………氷の魔法を使う魔女に。死なせてくれ」
「国の皆が凍らされてるのは、………氷の魔女とやらの仕業か?」
「………そうだと思う。………国王も、皆凍らされてた。………死なせてくれ」
「そうか………。………一旦家に戻ろう。状況の整理だ」
そう言ってハッセルはカグツチを抱き抱え、投げ捨てた剣を拾う。
「あ!姫は私が!」
ラムチがロスカの元へ駆け寄り、ロスカを抱きかかえる。
「すまないな」
そしてラムチ、ロスカ、カグツチの3名は馬車の荷台乗り、ハッセルが馬に乗って城下町を駆け抜けていった。
ハッセルの自宅
ロスカ、ハッセル、ラムチの3名はテーブルを囲み、カグツチはベッドに横たわっている。
「………姫がこんな状況だと言うのに………。俺は………」
「………今の状況を整理すると、氷の魔女により、
城と城下町の者たちは王を含め氷漬け。氷漬けはカグツチの火の魔法でも解除不能。魔剣は奪われ、姫も何かしらの攻撃を受け、意思疎通が不能ということか。」
ラムチは虚空を眺めるロスカを心配そうに見つめる。
「一体姫様はどういう状態なのかしら?」
「………しかし魔剣なしで王国をほぼ壊滅させるとは。こんな強大な魔法を持ったやつは聞いたことがない。」
「10年前魔剣を盗んだ奴らよりも?脚凍らされて切断せざるをえなかったんでしよ?」
ラムチはハッセルの左足の義足に目線を向ける。
ハッセルも自身の義足を見つめる。
「………使える魔法は遺伝子やその本人の素質によって決まると言われている。そして誰もが気づかないだけで必ず魔法を使えるとも言われている。ただ一人に使える魔法は1つだ。だから年を取るにつれ、自分の魔法を知っていき精錬させていくのが騎士の常。実際に自身の魔法に何も気付かずに生涯を終えるものも少なくない。クリオネッタ王国の者は物を氷の魔法に適性を持っているものが多いが………。あそこまでの強大な氷魔法は見たことがない。それに加えて魔剣を手に入れているとは。相当厳しい状況だな」
ハッセルは腕を組む。
カグツチは震える声を紡ぎ出す。
「………解除は出来ないって言ってた………。魔剣の魔法は………俺のせいで………。」
「………魔剣も魔法も人が作り出したものだ。同じ人間である俺たちに解除できない道理はない。」
「………え?」
「私よく分かってないんだけど、魔剣ってそもそも何なの?」
「魔剣については未だ分からないことが多々あるが………。
氷、水、風、雷、土、毒、木、光、闇、火を模した10本の強大な魔剣。
それぞれが強大な力を持ち、1本でも一国を滅ぼせるほどの力を持っていると言われている。
1000年前、各国同士の戦争が止まなかった際に、何者かが魔剣を生み出し、各国に送ったそうだ。
その魔剣の強大な力を前に各国が停戦協定を結び、平和な世になったというのが歴史、と言われている。
今魔剣については各国がそれぞれ保持している。
誰かが使っていたり、厳重に封印していたり様々だろう。
わが国の場合は国王が利用していた。
………10年前、氷の魔剣の強奪をくわだてるの者がおり、私が撃退したが、」
「………魔剣の能力は?解除は?解除は出来るの?」
「氷の魔剣ニヴラムはあらゆるものを凍りつかせる力を持っている………という言い伝えだ。
恐らく姫は何かしらを凍りつかせられているのだろう。解除方法は現状は分からない」
「………そんな。」
落ち込み顔を下げるが、カグツチは1つ思いつき顔を上げる。
「………火の魔剣………。火の魔剣は!?火ならきっと氷を溶かせる」
「恐らく可能性はあるだろう。」
「なら今すぐ…うっ!」
カグツチはベッドから立ち上がろうとするが、ダメージでよろけて倒れてしまう。
「落ち着け。」
「火の魔剣はどこに?」
「………火の魔剣の場所は………不明だ。」
「じゃあ火の魔剣を今すぐ探しに行く!」
「待て。今の状態では無謀だ。」
「でも」
「加えて今城と城下町には誰もいない。この状態をずっと放置しておくつもりか?」
ハッセルは鋭い眼光でカグツチを見つめる。
カグツチはその顔を見て生唾を飲む。
「休んだ後、体が動くようになったら、
まずは同盟を結んでいるチューン王国に救援要請と魔剣が奪われたことの情報共有をしてくること。
次にチューン王国内で魔法解除や魔剣の情報を探れ。
もしかすると姫や他の者たちにかかった魔法を解除できる者がいるかもしれん。
今は救援要請が最優先だ。
カグツチ、ロスカ姫、ラムチの3人でチューン王国に向かってくれ。
ここから3日もあればチューン王国の城下町に到着するだろう」
カグツチは少し困惑した表情を浮かべ、ラムチはポカンとした表情を浮かべる
「ちょいちょい。私は姫のお世話係?」
「そうだ」
「なるほど。了解!って何で姫も」
「あとは魔法の解除が可能な場合、その場で実施できるからだ」
「なるほどね」
合点がいった仕草を見せるラムチ
「ちょっと待って。爺さんは一緒に来ないの?」
「今のこの状態で誰かは国に残っておいたほうがいいだろう。俺が残る。カグツチ、姫の護衛はお前に任せるぞ。」
「………俺は」
「お前は姫直属の護衛隊隊長だ。姫を守る義務がある。姫を元に戻すことと守り切ることがお前の義務だ。」
カグツチは声を振り絞る。
「………分かった。今度こそ絶対に守り切る………。」
ハッセルはフッと微笑み、表情を緩める。
「今日はゆっくり休め。体を休め、万全な状態に戻すことが姫のためだ」
「………分かった」
カグツチはゆっくりと目を瞑る。
そしてロスカとの今日のやり取りを頭の中で思い出す。
(姫。自分が必ず)
そしてカグツチの意識はなくなった。




