序章3話
氷の魔女と対峙しているカグツチとロスカ。
ロスカは安堵の表情を浮かべており、カグツチは強い表情で氷の魔女を睨みつけ警戒している。
カグツチの額からは血管が浮かび上がっており、拳の強く握りしめられている
王座の天井からは崩れた細かい塵がまだ落ちてきている。
外はすっかり暗くなり、城のに辛うじてついたシャンデリアだけが、城を照らしている。
「あ、あの人が皆を凍らせたの………。国の皆を……!魔剣を奪って………!」
震えた声でロスカは伝える
「まだ兵士いたんだ。ていうかカグツチ近くにいるじじゃん。嘘ついたの?」
呆れた笑いを浮かべ、氷の魔女はロスカを睨みつける。
(恐らく魔法での勝機はない。ここまでの氷漬けを可能とする魔法。炎で氷は溶けず、魔力も恐らく格が違う。)
氷の魔女は魔剣を触りながら、こちらを見ている。
(剣術なら………。いや、姫を狙う可能性もある。姫のそばを離れるわけにはいかない。)
険しい表情を浮かべる。
(…………この場での魔剣の奪取、魔法の解除まで至るのは難しい……………。…………国王………皆さん………申し訳ございません。)
歯を食いしばり辛い表情を浮かべ謝罪する。
(………姫だけは………必ず………)
焦りの表情を浮かべながら必死に思考を回転させる
(まずは城を出たい。玉座の入り口は一つ、その方向には氷の魔女。強行突破は危険が高い。)
玉座には王座の椅子とそこにつながるカーペットの一本道があり、その先に玉座の出口があるが、そこに氷の魔女が立っている。
考えている最中に氷の魔女はカグツチに魔剣を向ける
「とりあえずあなたも凍らせるわ。」
カグツチとロスカの下に魔法陣が出現する。
「なっ!?」
すぐさまカグツチは剣をしまい、左腕でロスカを抱きかかえてかわす。
次の瞬間人が一人入れるほどの大きな氷柱が下から現れる。
「はい!はい!」
考えるまもなく氷の魔女は下から魔法陣を氷柱を次々と生み出すが、辛うじてカグツチはロスカを抱えながら躱し続ける。
「まるでダンスを踊ってるみたいねぇ」
カグツチは躱しながら、空いている右手でポケットから樹の実を取り出し、氷の魔女へ投げる。
樹の実は空中で火の玉となり氷の魔女へ向かう。
その瞬間だけ魔法陣の生み出しが止まり、防御のために氷の壁を作り出し、火の玉を氷漬けにする。
炎は消えて、氷の中には燃えかかった樹の実が綺麗に残っている。
その隙をついて急いで出口へと向かうが、出口の方向に魔法陣を出され、あえなく後ろに下がる。
(樹の実も残り少ない)
カグツチは周りを見渡し、何かを探す。
周りにはシャンデリア、玉座、カーペットがあるくらいで、そこに氷漬けにされた兵士や国王が無造作に並んでいる。
(カーペット………)
何かに気づいたような、そして葛藤の表情を浮かべ、カグツチはカーペットの上に立ち止まり、抱えていたロスカをカーペットの横にそっと降ろす。
そして腰にかけていた剣を足元に置き、両手を上に上げる。
ロスカは不安そうな表情でカグツチを見つめる。
不自然な挙動に怪訝な表情を浮かべ氷の魔女も動きを止め、剣を下ろす。
「………降参だ。あなたには敵わない。氷の魔剣は持って帰っていい。姫は見逃していただけないか?」
氷の魔女はポカンとした表情を浮かべて、その後吹き出す。
「あなた兵士でしょ?国王様とかお国はいいの?」
「姫は見逃していただけないか?」
「………あなたを氷漬けにしていいな「構わない」」
食い気味な返しに驚く氷の魔女。
驚きの表情を浮かべたロスカの瞳に涙が滲み出る。
「駄目!絶対駄目!………そんなの嫌だよ………!………凍らせるなら私にして!」
「姫!?それはいけません!凍るなら私が!」
「………嫌………。絶対嫌だよ………」
涙をポロポロと流しながら首を横に振るロスカ。
「………どっちか一人だけ氷漬けにするから。話し合いなさい。決まらなかったらカグツチって方を氷漬けにする」
「………分かった」
ロスカの方へ振り向き、片膝をつけ、手をカーペットに乗せるカグツチ。
「カグツチ………。………私嫌だよ。カグツチを犠牲にしてまで生きたくない」
涙をポロポロと流して、必死に首を振る。
氷の魔女はそんな様子をニヤニヤと見ている。
そんな姿を見てカグツチは優しく微笑む。
「姫。」
そして手のひらに力を込めると、カーペット全体に一瞬で炎が付き、氷の魔女の足元にも炎が現れる。
「え!?あっつ!!!」
氷の魔女は驚き地団駄を踏んでいる。
カグツチはすぐさま床においた剣を納める。
そしてロスカの手を引っ張り、出口へと走る。
「この!」
氷の魔女は魔剣をカーペットに向けるとカーペットが一瞬にして凍る。
そして氷の魔女が走るカグツチとロスカに視線と魔剣を向ける。
カグツチは何かを上に投げたような挙動をしていた。
そして氷の魔女の頭上には複数の樹の実が迫ってきていた。
まるで雨のように火の玉が氷の魔女を襲う。
氷の魔女はかまくらのような氷のドームで火の玉を防ぐ。
氷のドームには燃えかかった樹の実が入る形となっている。
半透明な氷のドームに閉じ込められる形となった氷の魔女はすぐさまドームを解除しようとする。
しかし今玉座の出口に差し掛かったところのカグツチが再度頭上に樹の実を投げる。
半透明な氷のドームの頭上とその周りに、炎の海が出来上がる。
「ちょ!これじゃ出られない!」
ふと玉座の出口を見ると、すでにカグツチたちの姿はそこにはなかった。
カグツチ達は急いで城の内部を走り、エントランス前の階段まで到着する。
急いで階段を駆け下り、城の出口へと向かう
「爺さんのところまで走ります!」
ロスカはまだ目に涙を浮かべている。
「樹の実のストックを使い切りましたが、30分は足止め出来るはずです」
開けっ放しになっている城の出口から外へと出る。
「走らせてしまいすみません。もし疲れたら言ってください。
「………うん。ありがとう。さっきは取り乱してごめんなさい」
「いえ」
2人は町中を走る。
いつもの馴染みのある町中はところどころ氷漬けにされている、人々や建物でまるで別世界のような変わりようだ。
そんな変わりきった街並みを見て、ロスカは震えており、繋いだ手からカグツチにも震えが伝わる。
「姫?大丈夫ですか?」
「………うん。ありがとう」
「大丈夫です。姫は必ず守りますから」
「………ありがとう。………ごめんなさい」
「………?」
「………本当にごめんなさい。………今はどうすることも出来ず………」
「………姫に責任はありません。私の無力さが原因です。いつか必ず助けます。今は逃げることを優先しましょう」
「………うん。………私達で必ず………!」
「はい。お任せください。ずっとお支えします。」
少しだけ不安そうな表情が緩み、僅かに微笑むロスカ。
「………ありがとう。カグツチはずっと傍にいてくれる?」
「はい。必ず。お守りします。」
「………ありがとう。私カグツチとならどんなことでも乗り越えられる気がする」
背後の城の方角より轟音が響く。
2人が振り向くとそこには、とても大きな氷柱が玉座の部屋を貫いている。
そして氷は解除され、建物に大穴が空いている。
大穴から氷の魔女がこちらを覗く。
そして杖を跨いで猛スピードでカグツチ達へと飛行してくる。
「まさか部屋ごと!?………姫!ここは自分が食い止めます!」
カグツチは周りを見渡すが、辺りには燃えそうなものは一切ない。
しかしロスカの返答の暇もなく、複数の氷の矢が2人を襲う。
カグツチはロスカに覆いかぶさり、その矢を一身に受ける。
すぐに氷の矢は溶けて消えたが、鎧には穴が空き、背中から少しの鮮血が滴り落ちる。
「………え?」
ロスカは状況を理解しきれずに困惑をしている。
カグツチは少しだけフラつきながらと振り向くとそこには氷の魔女がいた。
「よくも騙してくれたわね」
憎たらしい小動物をみるような目でニヤニヤしながら2人を睨みつける。
「姫………。早く………」
ヨロヨロと腰の剣を抜き、氷の魔女へと斬りかかる。
しかし大きな氷塊が顔に直撃し、鼻血とともに後ろへとふっ飛ばされる。
フラフラと立ち上がり再度向かっていくカグツチ。
今度は腹に大きな氷塊が直撃したが、一瞬立ち止まり、すぐにまた向かう。
やがて剣も落としてしまうが、それでも拳一つで立ち向かう。
ロスカは立ちすくみそんなカグツチを呆然と眺めている。
そして無数の氷塊がカグツチの腕や肩、足などを撃ち抜き、やがて拳を振り上げることも難しくなるが
なおも立って向かおうとする。
「面倒くさ」
カグツチは氷の魔女の眼前まで迫るが、手と足を氷漬けにされ、後ろへと蹴飛ばされる。
仰向けに倒れるカグツチ。
もはやカグツチには動く力は残されていなかった。
「………頼む。………姫は見逃してくれ」
か細い声で伝える。
「はいはい。お望み通りあなたを氷漬けにするわよ。」
仰向けに倒れたカグツチに氷の魔剣を向ける。
「うーん。ただの氷漬けだとちょっと風情がないし、趣向を変えようかしら」
邪悪な笑みを浮かべる。
カグツチに出来ることは、自分が氷漬けにされた後、ロスカの安全を願うことだけであった。
「じゃあまたね。カグツチ」
氷の魔剣から何やら水色の光線のようなものが、カグツチへ向かう。
しかしそれはカグツチに届く前に、何かに当たる
それはカグツチのを庇うロスカであった。
氷の魔女は驚きの表情を見せ、カグツチは状況を理解できずに呆然とする。
「………え?」
当たった直後、ロスカは涙と笑顔を浮かべ口を開く。
「カグツチ。だい」
しかしその言葉が紡ぎ終わる前に、大きな光がロスカを包み込む。
やがて光は収まり、そこにはロスカが立っていた。
「………姫?」
しかしその後すぐに膝立ちの状態でうなだれるロスカ。
その目には光が存在していない。
まるで何も感じていない空っぽの人形のようだ。
「あら。ロスカにかかっちゃった」
「姫?大丈夫ですか?姫?」
しかしロスカは何も答えない。
ただそこに光を失いうなだれている。
「え………?そんな………?姫………?」
明らかに様子のおかしい、何も反応がないロスカを見てカグツチから汗と涙が噴き出る。
そんなカグツチを気にせずうーんと悩む仕草を見せる氷の魔女。
「まぁこれはこれでいっか。良かったわねカグツチ。じゃあまたね。………あ、そうだ」
何かを思い出した氷の魔女は魔剣をカグツチに向ける。
「これだとご飯食べれなくなっちゃうね。そら」
氷の魔女は魔法を解除し、カグツチの手と足の氷が溶ける。
そして氷の魔女は杖に跨り、浮遊する。
「ま………待って」
細い声を聞き取り、振り向く氷の魔女。
「姫に何を………」
「私は何もしてない。ロスカがあなたを庇ったんでしょ?」
「…………どんな魔法を………いや………お願いします…姫を…もとに戻してください…俺のことは…どうしたって…いい…だから…」
カグツチは仰向けの状態でボロボロの状態で、か細い声で懇願する。
浮遊状態でカグツチを見下し、哀れみの表情を浮かべる氷の魔女
「ふーん。………あ!」
氷の魔女は少し考えた後に小悪魔じみた笑みを浮かべて口を開く。
「………実はねぇ。この魔剣も私の魔法もぉ~解除出来ないのよねぇ~。一方通行なの」
「あ…あ?」
一度浮遊を解除し、ぐいっとカグツチに顔を近づける
「あなたも絶望を味わって」
「ま、待って」
「バイバイ!またね」
氷の魔女は杖にまたがりゆっくりと北東に飛び去っていく。
飛び去る氷の魔女を動けない体で見つめることしか出来ないカグツチ。
ふとロスカに視線を向ける
「あ、あぁ……」
カグツチの脳裏に今日のやり取りがよぎる。
(姫のことは何があっても私が絶対に守ります。指一本触れさせません)
(うん。………ありがとう。)
脳裏には微笑んだ姫の姿が、そして目の前には物言わぬ人形となり目から光を失った姫が呆然と座り込んでいる。
「あああああああああああああああ!」
カグツチは空を仰ぎ、涙を流し、絶叫する。
自分の無力さを叫ぶ。
クリオネッタ城下町に悲痛な叫びがこだました




