序章1話
ここは氷の国クリオネッタ。
国全体で雪や氷が多く、氷河や雪山などの景観やそこに住む様々な動物など、美しい大自然に恵まれた氷の大国である。
クリオネッタ王国の中心には水色にきらめくまるで氷のような壮大な城が建っている。
その国の城下町を2名が歩いている
1人は青みがかった銀髪に青色の目の少女で、クリオネッタ王国第一王女ロスカ·クリオネッタ。
フードのついた水色のローブを身にまとっている
もう1人は赤髪赤目の少年で、クリオネッタ王国騎士団 王女直属護衛隊隊長 カグツチ·ホーテンシス。
水色の服に胴の部分には軽めの鎧を身にまとい、腰には小物が入る程度の布袋と剣を携えている
「姫。買い物でしたら、頼んでいただければ我々が行きます」
「私は買い物は自分の目でしたいの。カグツチが護衛にいるなら大丈夫」
「あ!ロスカ姫ー!」
小さな子供たちがロスカの周りに集まる。
「姫様何してるのー?」
「姫様!最近ねー魔法を覚えたんだ!」
ロスカとカグツチはあっという間に子供たちに囲まれる。
「すまない。姫は買い物中だからお話しはまた今度に」
「えー!?」
「ケチ!」
子供たちからの批判に少しバツが悪そうな表情をするカグツチ
「いいのよ。子供たちとお話しするからカグツチは少し待っててくれる?」
「やったー!」
「姫様大好き!」
子供たちは喜び一斉に色んなことを話し出す。
そんな子供たちの声を聖徳太子のように聞いて回答を返しているロスカ。
そんな子供たちと楽しそうに話しているロスカを遠目で見るカグツチ。
「あ!カグツチ!ちょうどよかった!ちょっと火貸してくれない?」
松明を持った主婦が主婦が声を掛ける。
「すみません。今は姫の護衛中ですので」
カグツチは姫から目を離さずに言葉を返す。
「いつも通り松明に火をつけてくれればいいからさ!」
困った表情を浮かべ若干の間ができる。
そして仕方ないかという表情を浮かべてカグツチは布袋から複数のクルミの樹の実を取り出し、手のひらに乗せる。
そして少しするとクルミが燃えてスイカほどの炎が上がる。
主婦は松明を手のひらに乗せて火を付ける。
「いつも助かるわ~。この国だと火の魔法を使える人は貴重だからねぇ。うちのジェラートあげるから姫と2人で食べて?」
「いえ。こういう物は頂けません」
「いいのよ!いつもお世話になってるし、うちのジェラートは先祖代々受け継がれてるから美味しいわよ!」
「フーシュさんのジェラートは絶品だから頂きましょう?」
ロスカが近づいてきて話す。
後ろではバイバイと子供たちが笑顔で手を振っている。
一通り買い物を終え、ジェラートを食べながら城下町を歩く2人。
2人は目の前の水色に輝く氷のような城へと向かっている。
時刻はすっかり夕暮れ時で辺りは一面オレンジ色に輝いている。
ロスカはうっすらと笑みを浮かべている
「やっぱりフーシュさんのジェラートは最高ね。味もそうだけど触感がたまらない!」
「そうですね。」
「フーシュさんちのメムスちゃん、5歳なのにもう魔法を使えるって言ってた。凄いね」
今日触れ合った子どもたちのことを楽しそうに語るロスカ。
「姫は民の皆さんが本当に大好きなのですね」
ロスカはフフッと微笑んで答える。
「うん。皆温かくていい人ばかりで、本当にこの国が大好き。カグツチも好き?」
カグツチも微笑み返す
「そうですね。本当にいい国だと思います。」
「私たち子供の頃からずっと一緒だよね。私は国王の娘で、カグツチは国一番の騎士であるハッセル様の息子でさ。カグツチは覚えてる?」
「?ロスカ姫が国王の娘であることは忘れておりません」
フフフと笑うロスカ。
「言葉足らずだった。ごめんね。初めて会った時のこと覚えてる?」
カグツチは苦笑いをして少しバツの悪そうな表情を浮かべる。
「初めて会った時、3歳くらいの頃かな?カグツチが私に対して敬語を使わなかったからハッセル様が注意して。敬語なんて別にいいのに。何だったら今も敬語じゃなくてもいいんだけどな」
「………滅相もないです。」
フフフと笑うロスカ。
「その後さ私に急に俺の彼女にしてやるって言って、それでハッセル様がもの凄く怒っちゃって。何て無礼な!って。私は全然いいのに。」
ガオーと恐怖を表現したジェスチャーで動物の真似をしながら話すロスカ。
「………記憶が定かではないです」
「その後カグツチは側近の騎士になってくれて、ずっと私のことを守ってくれて、街に行くときもパーティーに行くときもいつもついてきてくれて、今では私直属の護衛隊隊長様。街に行けばいつも優しい人たちが迎え入れてくれて、
こんな日常が変わらずにいつまでも続いてほしいな」
少しだけ憂鬱そうな表情を浮かべるロスカ。
「凄く昔、この国の魔剣が奪われそうになった事件があったでしょ?あの時は何とか守りきれたけど、その戦いでハッセル様は足を失って騎士を引退して、またこんなことにならないかが心配で」
カグツチは真面目な表情で伝える。
「大丈夫です。王国騎士団は精鋭揃いです。
それに姫のことは何があっても私が絶対に守ります。指一本触れさせません」
そんなカグツチをみてロスカは少し表情を緩める。
「うん。………ありがとう。」
カグツチは話題を変える。
「そういえば今日はなぜ毛糸を買ったのですか?」
ちょっと困った表情を見せるロスカ。
「………内緒」
少し照れたように見えるような意地悪げな笑みを浮かべる。
カグツチも少しだけ照れたような表情を浮かべる。
そのようなやり取りをしている間に二人の目の前にはまるで氷のように美しい、水色にきらめく城の前に到着した。
「ロスカ様。おかえりなさいませ」
大きな扉には数名の兵士がおり、敬礼をしてロスカを迎え入れる。
ロスカは微笑んで会釈を、カグツチも会釈をしながら城の中へと入る。
城のエントランスに入ると、目の前に一人の兵士が立っている。
「姫様おかえりなさいませ」
ロスカをメイドが迎え入れる。
「それでは姫、ハッセル爺さんの様子を見たらすぐに戻ります。」
「うん。ハッセル様によろしくね」
ロスカは手を振ってカグツチを見送る。
そしてロスカはメイドと共に城の奥へと向かっていく。
その姿を見てすぐにカグツチも振り返って城を後にした。
カグツチは街の少し外れの森の中を歩く。
既に日も落ちかけているのと、森の中が相まって足元が見えなくなるくらいには暗くなっている。
カグツチは自身の手に炎を灯した状態で森の中を歩く。
この先にはカグツチの実家がある。
カグツチの父、ハッセル·ホーテンシスは国一番の騎士であったが、5年前の氷の魔剣の防衛戦において左足を失う大怪我を負い、騎士を引退した。
以来街の離れにある自宅にてご隠居生活を送っている。
カグツチは普段は城の中に常駐しているが、毎日ハッセルの様子を見に帰ってきている。
10分程度歩くとやがてハッセルが住む小さな小屋へと到着する。
窓からはオレンジ色の光が見える。
炎を消しドアを開けるカグツチ。
「爺さん、ただいま」
「ああ」
髪の毛が雪原のごとく白く、胸元ほどまで伸びる長いヒゲを生やした三白眼の紳士、ハッセルが椅子に座っている
ハッセルの左足には義足がはめ込まれている。
「あらカグツチ。おかえりなさい」
「ラムチさん。何でここに?」
老婆がキッチンにおり、鍋をかきまぜながら愛想よく迎え入れる。
ラムチはかつてクリオネッタ王国のメイド長で最近引退し、今は城下町にてご隠居生活を送っている。
「メイド長を引退してから暇なのよ。」
ハッセルは不機嫌そうな表情を浮かべる
「老人介護で暇つぶし。」
ハッセルを横目で見て嘲笑するような表情で言い放つ。
カグツチは吹き出し、ハッセルはそんな二人を細い目で睨みつける。
「お前も婆さんだろうが」
「フフ。ちょうど出来上がるところだから食べていきなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
鍋とパンをハッセルが座るテーブルへと運ぶ。
鍋の中にはシチューが入っており、皿に取り分け、3人は食卓を囲みシチューとパンを食べる。
「カグツチ。もうすぐお前の16歳の誕生日だな」
「そうだね」
「お前を拾ってからもう16年。」
ハッセルは俯く。
「………この国で捨てられていたお前を拾ってからもうそんなに立つか今や姫の護衛隊隊長とはよく育ったものだ」
「爺さんが育ててくれたおかげだよ。ありがとう」
「………俺は何もしていない。一重にお前の努力のおかげだ。」
「あっ。照れてる」
水を差すラムチをハッセルが睨みつける。
「思えば騎士になりたいと言い出したのが小さい頃でお前はずっと努力をし続けてきていたな。
寝ても起きても魔法と剣の訓練に明け暮れ、たゆまぬ努力を続け今はこの国で唯一の火の魔法使いであり、姫の護衛部隊隊長だ。本当に成長したな。」
ウンウンと頷くラムチ。
「ありがとう。まだまだ、俺は弱いけど、いつかは爺さんみたいなこの国一番の騎士になるよ。姫のことは何があっても守り抜く」
「そうか………」
ハッセルは少しだけ憂鬱そうな表情を浮かべる。
「カグツチは本当にロスカ姫のことが大好きなのね」
カグツチは少しだけ頬を赤くする
「………あくまでもお前と姫は王と従者の関係だ。そこは忘れるなよ。叶わぬ想いは辛くなる」
「………分かってる。そもそも姫にとって俺はただの従者の一人だし。」
ラムチは少し悲しそうな表情を浮かべる。
「………ここから先、姫は「ちょっと、あん」
次の瞬間街の方角からパキィンという、何かが凍ったような高音が響く。
「………た?」
ハッセルとカグツチは立ち上がり、ラムチは驚いた表情を浮かべ呟く。
「街の方からか?一体何が………?………まさか!」
同時にドアを開ける音が室内に響く。
「おい!カグツチ!」
その声も聞かずに、炎を手に灯し颯爽と走り抜ける。
カグツチは森の闇の中に消えていき、ハッセルから見えていた炎の明かりも段々と遠く小さくなっていった。




