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ラエムシティ 罪と業に染まった街  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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22/35

真琴とナタリー、囚われの身となる

 真琴とナタリーは、手錠をかけられ大型のバンに乗せられた。

 ふたりとも両手の自由を奪われた上、左右にチンピラが座っている。ナタリーひとりなら、どうにか逃げ出せたかもしれない。しかし、今は真琴を人質に取られているのと同じ状況だ。下手な動きは出来なかった。

 車は、地下駐車場で停まる。そこから、ビルの内部へと入っていった。そう、剛田の隠れ家である。

 皆はビルに入り、通路を歩いていった。だが、途中で剛田は立ち止まる。


「今から本部に連絡を入れる。ちょっと、ここで待っとけや。念のため、女たちの身体検査しておけ」


 そう言うと、ひとり駐車場へと出ていった。


 残されたのは、真琴とナタリー、それに五人の男たちだ。年齢は若く、みな二十代前半であろう。髪型や服装はまちまちで、街のチンピラという雰囲気だ。剛田と比べると、明らかに見劣りする。

 そんなチンピラのひとりが、何を思ったか真琴らに近づいていく。長髪でタンクトップを着ており、肩のところにタトゥーが彫られていた。


「おい、お前ら壁に両手をつけ」


 真琴とナタリーは、仕方なく言われた通りにする。と、長髪はニヤリと笑った。


「いやあ、こういうの一度やってみたかったんだよ。でも、まだ甘いんだよな。もっと両足を開け。あとな、ケツをこっちに突き出すんだよ」


 真琴は顔をしかめながらも、言われた通りにした。ナタリーも同じである。

 すると、長髪はいやらしい表情でふたりの肢体をなめ回すように見つめる。

 やがて、その口から声が漏れ出てきた。


「へへへ……こいつの体、たまんねえなあ。AVに出れば、すんげぇ稼げるぜ」


 ひとり言のようだが、その場にいる者全員にはっきりと聞こえていた。

 皆、顔をしかめて佐々木と真琴の体を交互に見つめた。

 

「おい佐々木、やめとけよ。下手なことしたら、俺ら剛田さんに殺されっぞ」


 別のチンピラが不安そうに言った。もっとも、その声は震えている。この男もまた、欲望と戦っているのは明白だった。

 そして、佐々木と呼ばれた男は欲望を隠そうともしていなかった。


「何言ってんだよ。身体検査しとけって言ったのは剛田さんだぜ。俺は、言われた通りにするだけだよ」


 今にもヨダレを垂らさんばかりの表情で言いながら、真琴の体を撫で始めた。その手つきは、どう見ても身体検査のそれではない。真琴は表情を歪めながらも、抵抗せずに相手のなすがままになっている。

 しかし、時間が経つにつれ真琴の態度にも変化が生じた。腰をくねらせ、形のいい尻が揺れる。それに伴い、大きな乳房も震えた。口からは、時おり悩ましげな声が漏れる。

 横にいるナタリーはというと、じっと下を向いている。だが、その瞳には危険な色が浮かんでいた。何かを待っている、そんな表情である。もっとも、その場にいる者たちは誰も気付いていない。全員、真琴の体に釘付けになっていた。

 やがて、何を思ったか真琴は振り向いた。その目はトロンとしており、半開きの唇からは舌が覗いている。佐々木を誘っているようにしか見えない。

 そんな姿を見せられ、ついに佐々木も理性を保てなくなったらしい。突然、とんでもないことを叫んだのだ──


「俺、もう我慢できねえよ!」


 直後、真琴のホットパンツに手をかける。だが、そこで声を発した者がいた。


「おいコラ、てめえ今何しようとした?」


 剛田である。いつの間にか、足音も立てずに戻ってきていたのだ。その後ろには、スーツ姿の根川もいる。剛田の片腕とも言うべき男だ。

 同時に、ナタリーは微かに表情を歪める。逃げ出せる千載一遇のチャンスだった。男たちの注意を真琴に惹きつけ、隙を見て全員を叩きのめす……このチンピラたちならば、手錠をかけられていても可能だった。

 真琴もまた、それはわかっていたはずだ。その上で、あえて演技をしていたのだ。しかし、剛田が来てしまっては手遅れである。

 佐々木はというと、彼らの存在に気付いた瞬間にパッと真琴から離れる。しかし、あまりにも遅すぎた。


「誰がこんなことしろと言った?」


 恐ろしい表情で詰めていく剛田に、佐々木は慌ててかぶりを振る。


「ち、違いますよ! 俺はただ、身体検査をしようとしただけです!」


「じゃあ、てめえのベルトが外れてるのはどういうわけだ? てめえのズボンを脱ぐのが、今どきの身体検査のやり方なのか?」


 言いながら、剛田は近づいていく。そう、佐々木のベルトは外れ、ズボンはずり下がっていたのである。何をしようとしていたかは、一目瞭然だ。

 こうなると、もはや身体検査という言い訳は使えない。佐々木はズボンを上げペルトを締め直し、怯えた表情で後ずさる。

 だが、それ以上のことは出来なかった。剛田と目を合わせた途端に、彼の動きはピタリと止まる。蛇に睨まれた蛙のように、その場で硬直してしまったのだ。

 剛田の方は、すたすた歩いていく。両者の距離は詰まっていき、手を伸ばせば届く間合いにまで接近した。

 他の者たちは、何をするでもなく突っ立っている。間近で見る剛田の迫力に、完全に呑まれているのだ。動くことはおろか、喋ることも出来ない。

 そんな者たちには目もくれず、剛田は佐々木だけを睨みつけている。

 一瞬の間を置き、無造作に拳を振った──


「ぶぐぅ!」


 奇妙な声と共に、佐々木は吹っ飛んでいった。剛田のパンチを、まともに顔面に受けたのだ。しかし、剛田はこの程度で終わらせるほど甘い男ではない。佐々木の襟首を掴み、片手で引き上げる。


「も、もう許してください……」


 涙を流しながら、佐々木は許しを乞うた。その鼻は潰れており、前歯も数本へし折れていた。鼻と口からは血液がダラダラと流れており、垂れ流し状態となっている。

 そんな佐々木を、剛田は片手で放り投げる。続いて、根川の方を向いた。


「根川、こいつはクビだ」


 言った後、再び佐々木の方に顔を近づけていく。


「てめえは、二度と俺の前に面だすな。もう一度、その面を見かけたら殺すぞ。わかったな?」


「わかりました!」


 返事をした瞬間、佐々木の口から血が飛んだ。剛田のスーツに飛び散る。

 佐々木の表情は、さらに歪んだ。体はガタガタ震え出す。しかし、剛田は気に留める風もなく冷静に言葉を続ける。


「わかったなら、今すぐ俺の視界から消えろ」


 途端に、佐々木は勢いよく立ち上がった。凄まじい速さで逃げていく。

 剛田は、フウと溜息を吐いた。


「本当に、使えねえ奴ばっかりだな」


「すみませんでした」


 剛田の呟きに答えたのは根川であった。深々と頭を下げる。と、他の者たちもようやく動けるようになったらしい。全員が頭を下げる。


「止められなくて、すみませんでした!」


 続いて、根川も再び頭を下げる。


「申し訳ありません。自分の指導が甘かったせいです」


「根川、お前のせいじゃねえよ。今、本隊の連中は出払ってるから仕方ねえ」


 剛田は、冷めた口調で答えた。実のところ、こうなることを彼は予想済みだった。

 先ほどの佐々木というチンピラは、かつて強制わいせつや強姦で逮捕された経歴のある男だ。最初から、使う気などない。

 そういう男を、あえて真琴とナタリーのそばに置いた……何が起きるかは、バカでもわかるだろう。

 佐々木が手を出しそうになったら、他のチンピラたちはどうするか? そう、部下として使えるかどうかのテストも兼ねていたのだ。

 剛田の望むような人材ならば、佐々木をブン殴ってでも止める。その程度のことすら出来ないような人間など、最初(はな)から必要ではない。

 果たせるかな、ここにいるチンピラたちは、その程度のことすら出来ない人間ばかりだった。それどころか、一緒になって真琴に襲いかかりそうな空気を発していたのだ。

 つまり、こいつら全員が失格である。剛田は、残りのチンピラたちの顔を見回した。

 ややあって、口を開く。

 

「お前ら全員、ここで帰れ。今日の分の日当ほくれてやる。だがな、お前らに仕事を頼むことはもうない。さっさと、俺の視界から消えろ」







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