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第61話 流石也

 走って走って。

 やがて山道が途切れ、沢に出る。目の前は尾去館(おさりだて)の切岸だ。

「よし、城に飛び込め!」

 兵たちと共に急ぎ大手に回る。大手門に兵たちと共に転がり込む。

 最後のひとりが門の内側に入ると同時に扉は閉められ、大きな閂が掛けられた。

「手傷を負った者は本丸で手当てしてもらえ! 動ける者は各物頭の指示のもと、配置につけ!」

 金浜は矢次早に指示を飛ばしていく。

「ここで安東勢を迎え撃ち、援軍を待つ! 石川様の援軍は川が収まればすぐにでも来る。それまでこの城を守り抜くぞ!」

 空を見上げる。太陽は中天――正午を過ぎてから少し下に下がっているようだ。敵襲の報が届いてからまだ二刻半しか経っていない。


 俺は馬に寄りかかって息を整える。さすがに、疲れた。

 そこへのしのしと金浜が近づいてくる。

「ご無事ですか」

「……ああ」

「仮にも城将が何をしておられるか」

 金浜の声は低い。これは本気で怒っている。

「あそこで貴方が死んだら、この戦にも負けていたのですぞ。軽率です」

「すまん、でもああでもしないと危なかった」

「無茶が過ぎます」

 金浜が俺の大袖をなぞり呆れたように言う。甲冑の大袖には、見事なまでの傷がついていた。兜にもついているだろう。

「すまん、次はやらない。やりたくない」

 本音で言う。金浜はため息で済ましてくれた。

「説教はまた後でじっくり懇切に行いましょう」

 ひい。

「今は城の防備を固めるほうが先決です。向こうが先手衆を立て直したらすぐ来るでしょう」

「……どれくらいやれたかな」

「先手衆はだいぶ討ち取れたと思います。ですが、一戦をするにはまだ十分の兵がいるでしょう」

「じゃあ、もうひと踏ん張りか」


 城の要所を固めながら敵が来るのをしばらく待ったが、安東氏はなかなかやってこなかった。立て直しをしているのだろう。

 だがやがて、自分たちが出てきた山道の出口から、今度は安東氏の軍勢が出てくる。

 少しは討ち果たしたはずだが、そうとは思えないほどの数の兵士が、湧水のように山から出てくる。遠目に見るそれは、まるで黒々とした蟻の群れのようにも見えた。

 やがて隊列を整えた安東勢は、尾去館に向かってどんどん近づいてきて、やがて館に取りついた。

「奴らを近づけるな、弓鉄砲衆は各自狙え!」

 城際に近づいてくる兵士たちに向かって、こちらもひきつけては弓鉄砲を射かける。数に勝る敵兵は大手門と搦手門に敵兵が蝟集して次々に取り掛かってくる。向こうも仕寄せるための竹束を前に出し、ひるまず前に近づいてくる。

 それからは、もう何も覚えていないほどの乱戦だった。


 こちらは弓鉄砲の投射武器を前面に出して、取り掛かってくる敵兵にひたすら撃ち続ける。前面に取り付いた敵は鑓で突き落す。切岸を転落していく敵。それでも攻め込んでくる敵兵。相手方からも飛んでくる矢と弾。倒れる敵と味方。

 銃に弾を詰めては、とにかく撃つ。周囲を見渡して手薄な部分や劣勢な部分を確認し、全体の指揮を執る金浜に報告し、遊撃の者を使いその穴を埋める。俺も数人の鉄砲衆を率いてそれらを撃退する役目を担った。ひたすらそれの繰り返し。

 安東側は人数を繰り出して強引に城を越えようとする。南部側が尾去館を攻めた時とほぼ同じだが、今回こちらには飛び道具が豊富にあることが違いになった。城攻めに使う竹束も、持ち手を狙って集中的に矢玉を飛ばし、さらに戦さ前にため込んでいた大岩を転がしてうち倒し、その隙を攻撃する。


 と、放物線を描いて何本もの矢が飛んでくる。その矢先は、風に赤くたなびいている。

「火矢です!」

 火矢は次々に城内に放り込まれ、数本は中にあった木蔵に降り注ぎ、ぶすぶすと煙を上げ始める。

「慌てるな、土と水もて消せ!」

 すぐさま数人の兵が木蔵に取り付き、燃える前に払う。

 弓鉄砲衆は火矢の放たれるあたりに集中して攻撃を行い、次の攻撃を食い止める。その間にも安東兵はどんどん取りついてくる。

 キリが無い。だが、まだ守り切れている。兵も動いている。銃弾も矢もまだ十分ある。この安東の勢いなら、まだいける。

(これなら、まだ数日はきっといける)


 唐突に、安東方から太鼓の音が響いた。その音を合図に、安東方が潮が引くように城から離れていく。

 ようやく第一波が終わったか……。

 行きつく暇もなく、すぐさま城の状況の確認や消耗した武具の点検などを指示するが、しばらくして金浜が寄ってきた。

「十郎様、安東方の動きがおかしいです」

 その言葉に城の柵際まで寄り、金浜、和徳殿と共に安東側の陣を遠望する。

 安東勢は城前に組んでいた陣を解かぬままながら、兵たちはまるで逆再生するかのように間道の出口へと吸い込まれていくのだ。

「……撤退、するのか」

 俺自身も信じがたいものを見るような声が出てしまった。撤退する。たった一度攻撃しただけで?

「罠やもしれませんぞ」

 和徳殿が厳しい顔のまま言う。

「何らかの事情があって撤収しているとしても、こんなに急いで撤収するのは不審です。拙者なら日が落ちるのを待って夜陰に乗じてひそかに引きまする」

 安東勢はまだ余裕があった。にもかかわらずこんな短い戦いだけで引くとは、罠を考えてもおかしくはない。

(どうする……)

「……ひとまず今のうちに被害の確認と次に備えて準備を。これで終わるとも思えない。安東の後背を攻めるにしろ、いったん休まねば兵が動かないだろう」

 無難な指示を提案し、金浜と和徳殿もそれには賛意する。いずれにしろこちらの疲労も大きい。多少なりとも一息つかなければ兵が持たない。


 警戒しながら安東勢の撤収をじっと監視する。

 動くべきではないか? 戦機を逃しているのではないか? その不安がぬぐえない。

 だが、こちらの兵もやはりずいぶんと消耗していた。戦死者も出ている。

 こんなに兵が疲労するなら、いっそ、待ち伏せなどせず全力で迎撃するべきではなかったか?

 余計なことばかり考える。

 その時、城外を見ていた報告が入った。

「上山館より伝令です!」

 上山館――大浦為信が警備しているはずの城だ。あちらで何かあったのだろうか。不安が膨らむ。

「安東が退いたから迂回すれば城には入れそうだな、案内してやれ」

「ははっ」

 しばらくして城にやってきた若い武士は、跪くと大声で報告する。

「我が主大浦弥四郎および五郎、安東勢の後陣を攻撃するため出陣しました!」

「なんと!」

 武士が言うところでは、当初は上山館に籠って迎撃する準備をしていたが、こちらからの連絡によって安東勢が全て尾去館に軍勢が向かった――こちらには来ないことを知った大浦為信は、迷わず出陣を命じたそうだ。

「我が主は安東勢が尾去に向かったとの報を聞き、その後ろを狙えると考え兵を動かしました」

 これで安東が急に引いた理由が明確になった。

 安東勢が通過しなかった上山方面の間道を通って、大浦為信の軍勢が安東勢の後ろを突いたのだ。


 戦さ前の報告によれば、安東も退路を断たれる危険を考えて部隊を山道においていたようだが、恐らくそれを攻撃し、安東勢の後ろを塞ごうとしているのだろう。

 なまなかな判断で出来ることではない。こちらが伝えた情報を元に、あちらも独自に、そして最善手を狙い動いたのだ。

「……さっすがぁ」

 思わず声が出てしまった。

 大浦為信。〝史実〟でも的確な戦術眼をもって敵の弱点と油断を察知し、最高のタイミングを見極めて相手を攻撃し、多くの勝利を収めてきた男だ。その実力は既に備わっている、ということだろう。

「はっ、大浦の小せがれが」

 和徳がいらだたしげに舌打ちする。そういえば大浦と和徳はあまり仲が良くないんだったか。


 俺はまだ撤退を続ける安東勢を眺める。時間が無い。端的に問う。

「こちらから打って出られるか?」

 俺は聞く。

「夕暮れまでまだ時間がある。ここを突けば安東を確実に追い返せるか?」

「……我が手勢は大丈夫ですぞ。ただ、日暮前までです。それ以上は兵が疲れ切り、かえって危険でしょう」

 そう言ったのは和徳殿だ。伏勢に籠城戦と、彼の郎党が一番走り回っている。その疲労は無視できない。

「私も夜になるまでの戦働きには反対です。弓・鉄砲衆は城を守るには良いですが、相手を追い散らす役目としては弱い。山道の追撃となれば、今度はこちらに大きな被害が出ましょう」

 金浜が続ける。

「……分かった。だが、まだ残っている城前の連中はさすがに追い散らさねばならんと思う。安東が間違いなく引いたらこちらも深追いをせず戻る。どうだろう?」

「そうですな、良かろうと思います」

「それから大浦勢がどうなっているか、急ぎ物見を放とう。大浦勢がもし劣勢になっている時は無理しても助けを出さねばならん」

「それでよろしゅうございます」

「行くぞ!」

「いえ、十郎様は城にてお待ちください」

 そう言われてうっとなる。さすがにこれ以上前に出るのは駄目か。

「それよりも、兵たちに指示を」

「分かった」


 俺は安東勢から目を離さない兵達に向けて大声で怒鳴る。

「者ども、安東が引くぞ! 奴らの後ろを大浦殿が襲った! 今ここで攻めれば奴らは袋の鼠だ。もうひと踏ん張り頼む!」

 檄と共に歓声が上がる。士気は悪くない。

 城門を開けて、出陣する。

 まだ撤退を続ける兵たちを守るために留まる安東勢に向かい、今度はこちらが仕寄せる立場で弓鉄砲を放つ。それに応じるように安東側も弓鉄砲を放ってくる。

 殿を務めているだけあって、なかなか粘り腰だが、集中して打ち込まれる弓鉄砲に、さすがに崩れる。

 追撃を始める。安東勢はまだだいぶ引いているようだが、まだ兵が残っている。

 そうして城の周りの兵を追い払い、討ち取り、山道の奥まで入り安東勢を追うが、安東勢の撤収は迅速だった。

「これ以上の深追いは無用。ぐずぐずしていると夜が来る、引くぞ」

 金浜の言葉をもって追撃は打ち切られ、我々は撤収することになった。

 間道から戻ってくる味方を見ながら空を見上げれば、そろそろ空が群青色に変わろうとしていた。

(終わった)

 長くもないはずの一日が、こんなにも長く感じた。そして、今更に手が震えてきた。

 初陣の一日が、こうして終わった。




 本来、安東氏による鹿角侵攻は安東が動員できる全力をもって行う予定だった。


 下国(しもくに)安東の本宗家を中核に据え、それに加えて下国安東氏に従属する(みなと)安東氏や、比内浅利(ひないあさり)氏、阿仁(あに)嘉成(かなり)氏、蝦夷地の蠣崎(かきざき)氏、由利赤尾津の小介川(こすけがわ)氏などなど、安東氏が動員出来うる国人衆すべてを呼び寄せ、大軍をもって一気呵成に侵攻し鹿角を占領することを、安東愛季は企図していた。

 だが、安東氏と鹿角衆の内通が露見し、南部氏が逆に兵を起こして大軍でもって鹿角衆を圧するに至って、安東氏はその方策を採る前に対応を迫られることになった。


 これら遠隔地にいる国人衆を動員をするには当然それなりの時間が必要になる。今から出兵の約束を取り付け兵を呼び寄せるまでに、鹿角での戦が終了してしまう。しかも国人のうち、蠣崎氏は家督相続者が死去してその継承のために動けない状態であったし、鹿角と隣り合わせの比内浅利氏の当主・浅利則祐(あさりのりすけ)は鹿角への出兵自体を「失敗すれば自領を危険に晒しかねない」として反対しており、軍勢として頼りにならない時機だった。


 次善の策として、すぐさま動員できる下国安東氏の被官を動員するしかないが、そうなると今度は南部氏との兵力差が立ちはだかった。

 すぐさま動員出来る兵数は二千程度。これではたとえ安東方の鹿角衆を合わせても南部側の諸勢に対抗するに足りない。さらに言えば、安東と鹿角を繋いでいた尾去越中守の尾去館と松館越前守の松館、この両城は初戦で陥落し、残る内通した鹿角勢との連絡は断たれてしまった。そうなれば鹿角衆と連携して対抗することも出来なくなり、安東にとって不利な情勢が出来てしまった。


 このまま鹿角衆を見捨てることも検討された。だが、反対論を唱えたのが、鹿角衆の取次を担い、計略の中心として動いてきた大高筑前(おおたかちくぜん)だった。

「ここで鹿角衆を見捨てたら、安東氏は信を裏切り、頼むに足りぬ輩と思われます。そうなれば後々足元の国人たちにも悪い影響が広がりましょう」

 何も行動をとらなければ、鹿角衆からの信頼を安東は失う。そしてそれは、廻り回って今安東に従う国人たちにも波及しかねない。

『いざという時に助けてくれないのではないか』

 大勢力の庇護を求める小領主からそのような疑念を抱かれるのは、小領主の離反を招きかねない致命的な綻びになりかねないのだ。


 大高筑前は少ない兵力で最大限の効果を発揮させるためにひとつの提案をした。それが尾去館の奪還だった。

 尾去館は間道を通じて秋田(比内)と繋がっており、ここを回復させられれば、米代川の左岸に拠点が出来、郡の北と南に主に分かれる南部氏を再び分断することが出来る。そこから対岸の花輪氏などとの連絡も復活して、鹿角郡の中央部を抑えたままの鹿角勢と繋がることが出来れば、逆転の目も出る。より北にある上山館の奪取も検討されたが、尾去館よりもより強固であると考えられること、大里など対岸の親安東側の鹿角勢と繋がる渡し場とより近く、少ない兵力をさらに分ける危険を考え、尾去館に絞る形での襲撃となった。


 成算が高い作戦ではない。無理を重ねているのは事実だ。作戦が成功したとしても、国人たちを動員するのが遅れれば結局は失敗の可能性もある。だが、状況を放っておいたら失敗すらできなくなり、鹿角は完全に安東の手から零れ落ちる。

 安東氏は軍勢の通過を渋る浅利氏の許可を何とか取り付け、急ぎ軍勢を進軍させた。既に軍北の大湯氏が南部晴政の元に参陣して南部方に下り、柴内氏が討ち取られて花輪館が包囲される状況となっており、これ以上の猶予はなかった。

 安東勢は峠から山道に入り、そこを監視していた南部勢を襲撃して狼煙を上げる間もなく一人残らず討ち取って鹿角への侵入を成功させた。

 だが、細い道を二千を超える兵が進むとなると隊列も伸びるし渋滞も起こる。それでも安東勢は比較的遅滞なく軍勢を前に進ませることが出来たほうだろう。


 南部側が侵入に気付いた様子もない。気づいたとしてもすぐに対応できるほどの兵がいる可能性は少なく、さらに昨日の雨で川向いにある南部の主力はこちら側に動けないという推測だった。侵入してから数名の物見が帰ってこなかったが、物見自体は鹿角に南部が侵攻してから常に行っていることであり、それが討ち取られるのもよくあることであった。

 ただ、急いだがゆえに先手衆と後ろの部隊の距離が少々開いてしまったのは致し方ない失敗だった。

 それが失態に繋がった。

 安東側の先鋒が尾去館に着く寸前、少しだけ高まった丘の上から待ち伏せを受けたのだ。


 警戒をしていなかったわけではなかったが、物見からの情報が不足する中で急いで進まねばならなかったために警戒がおろそかになったのは否めない。

 南部方は鉄砲と弓矢を雨あられと降らせてきた。特に鉄砲の数はこちらの持つ数に匹敵するのではないかと思うほど多くの数が揃えられており、その集中砲火に先鋒が打ち崩され、さらに潜んでいた伏勢が襲い掛かるに至って、一気に戦列は崩れた。


 先鋒は散々に打ち崩され、さらに後ろの部隊とは距離があり、それを助けるのに手間取ってしまった。

 南部勢は目に見える兵をあらかた破ると、深追いをせずさっと後退を始めた。道には撒菱を大量に撒き、山道沿いの木々を切り倒して道を通れなくする周到さだ。何とか食らいつこうと追撃した騎馬武者も、伏勢の矢玉と鑓に打ち倒された。見事な采配ぶりに安東勢は完敗した。

 これで、残る安東勢は面目をかけて戦わなければならなくなった。残る安東勢は、被害の大きい先手を山道の分岐を押さえる警固衆と合流するよう指示し、引き退く南部勢を遅ればせながら追いかけた。尾去館の前に着く頃には南部勢は館に戻り防備を固めていたが、まだまだ城攻めをする兵は十分いたし、南部側の兵力はその実、それほど多くはないことをこの時には見破っていた。

 安東勢は大手門と搦手門の二方向から一斉に攻め込んだ。短い時間であったが、安東勢は数の優位をもって押し攻めた。南部勢も必死に防戦をしていたが、これを続けていればすぐにでも落せるかもしれない。

 だが、その目論見も、崩れた。


 山道を押さえていた警固衆が、別の南部勢に襲撃され交戦中との早馬が届いたのだ。

 先手を待ち伏せして迎撃し、さらに別働隊を分けて後背を襲う――あまりにも手際の良い(てだて)(作戦)に、安東勢は南部側に侵入を察知されていたのだと否応なく気づかざるを得なかった。無論安東勢とて南部勢が別の山道を遡って攻撃してくる可能性を考えて、山道の分岐点に相当数の警固衆を置いたのだが、攻撃してきた南部勢は見事な采配で安東勢を攻撃し、また破れて弱っていた先手衆が後退した先で再び襲われてさんざんに打ち破られたことも安東側にとっては不運だった(実際のところ、南部側も示し合わせた作戦というわけではなく、現地指揮官たちが各々で勝手に動いた結果であったが)


 この報を聞いた瞬間、安東勢は撤退を決断した。ここで戦いを続けて退路を断たれては、小城ひとつを確保できたとしても安東勢は全滅する。山道の状況はまだ分からないが、たとえ南部側が山道を占拠していたとしても今この数ならばまだ押し返せる。

 安東勢は殿をおいて一斉に撤収にかかった。南部勢も追撃を仕掛けたが、あくまで小勢の悲しみ、殿を討ち破るので精いっぱいだった。

 山道の警固衆を襲撃した南部勢は、戻ってくる安東勢を察知すると素早く撤収した。だが、安東勢に喜びはなかった。

 すでに暗い山道を、安東勢は追撃を恐れながら戻っていった。下国安東氏は負けたのだ。



 南部側が安東勢を撃退したことは、すぐさま鹿角中に伝えられた。敵味方問わずだ。

 特にいまだ抵抗する花輪城や大里城には、わざわざ安東の侍の首と討ち捨てられた旗印が城前に運ばれ、安東勢がさんざんに討ち破られしっぽを巻いて逃げかえったことが喧伝された。

 安東の後詰めは来ない。これほど明確な証拠も無かっただろう。



 安東軍撃退の二日後、花輪伯耆守親行は降伏。花輪城は開城した。



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― 新着の感想 ―
おおう 慶信さんの布石が間接的に詰めの一手に繋がりましたね まあ南部さんも安東の来援は考えていただろうけど雨のせいで危うく抜かれるところを防いだということかな
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