第59話 間隙
永禄五年四月十日
「我らは米代川を渡って花輪攻めに加わる」
三日ほど尾去館に滞在した後、高信は今後の方針を伝えた。
戦況は既に南部氏優位で推移している。花輪館と大里館はいまだに落ちないが、その他の端城は既に陥落し、あるいは降伏して臣従を誓っている。鹿角郡は遠からず南部氏の手に落ちるのは確定的なように見えた。
その最後の一押しのため、南部晴政の呼び出しにより、高信が転戦することになったのだ。
「では、自分も花輪へ?」
「いや、すまんが十郎は和徳殿と一緒にこの館でしばらく待機してもらいたい。花輪攻めにはまず大光寺勢を連れて行く」
と、高信は珍しく申し訳なさそうに言った。
「尾去の警備に兵を割かねばならん。安東の物見と思われる兵がちょろちょろ入ってきておる。それらに備えねばならん」
ここ数日、秋田の方向から少人数の偵察や襲撃と思しき行動――いわゆる草調儀というものだ――が決して回数は多くないが起きている。その都度撃退してはいるが、その為に山道沿いを警戒していた兵に少し被害が出ており、警備を強化したい所なのだ。その為、俺と金浜を城に置いて警備の兵をまとめさせる必要がある――と高信は判断した。
「弓鉄砲衆は特に籠城の時に力を発揮するから残す。それの統率をしばらくしてほしい。御家督から替えの兵を預かって尾去にそれを送り、入れ替わりにお前を花輪に呼ぶから安心せよ」
「? 承知しました」
安心せよ、とはどういうことだろう。内心首を傾げつつも俺は頷いた。
「秋田への山道の警備は厳しくせよ。お前、マタギの協力を得ただろう、より詳細に山道の確認をせよ。安東の連中が来ても進退が出来るよう備えるのだ」
「安東は、来ると思いますか?」
俺の問いに高信は渋面をする。
「『来ない可能性のほうが高い』、と晴政たちは思っている」
高信としては歯切れの悪い言い方だ。
安東が攻めてくるかはまだ予断を許さないが、その可能性は低くなった、というのが晴政らの判断だった、という。
安東と繋がる米代川左岸を早期に占領し要所を抑えたことで、既に安東氏が侵入しにくい状況が出来つつある。尾去館・松館など、安東の足掛かりになるような城が全て失われ、右岸の戦況も南部氏が優勢に進めている状況で、仮に安東が救援に兵を起こしても成功を期しがたい、というのがその判断だ。草調儀もあるとはいえ今のところ頻度は高くない。
「俺としてもその判断が間違いとは思っておらん。だが、尾去館や上山館の備えをおろそかにして良いとも思わん。兵を軽くすればつけいられる。だから兵を増やすことを条件にしておる」
警備の兵を増やすことで、安東が来ても対抗できるようにする。
そして秋田側が行動を起こす前に、花輪館を早期に落として戦さを終結させる。それが南部側の算段だった。
「なに、一日二日で交代の兵は来るよう手配しておる。安東が攻めてきても尾去から花輪までせいぜい一里程度、すぐに救援できよう」
尾去館から花輪館までは川を隔てるとはいえ距離がかなり近い。そのことも高信が花輪攻めを了承した理由だった。
高信はずいぶん珍しく、気遣うような態度で俺の肩を叩く。
「さっさとお前を花輪に呼べるようにする。花輪に行けば武功を上げる機会も出来よう。城代も大事なお役目だ、よろしく頼むぞ」
そこで俺はようやく高信が、『自分の武功を得る機会を数日でも奪ってしまった』と気にしていることに気づいた。
こうして俺は尾去館にまた数日籠ることとなり、高信率いる石川勢と大光寺勢は、ともに米代川を渡って花輪館に向かっていった。
石川勢の主力をぼんやりと見送った俺は、高信の様子を思い返していた。
「残念でしたね」
そう慰めるように言ってきたのは森宗弘宗だ。
「? 何がだ?」
「いえ、武功を上げる機会が遅くなりましょう。それで気落ちしているのかと思ったのですが」
「……俺、気落ちしているように見えたか?」
そんな様子が俺から出ていたのだろうか? あまり自覚がない。
「はい、常より覇気が無いように見えたのですが……」
弘宗の遠慮がちな言葉に、ふと考え込んでしまう。
残念、残念、なんだろうか……?
一緒に残ったのは和徳殿には改めて挨拶した。
「数日ですが、改めてよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、まあ、次の戦さまでの骨休めと思いましょう」
和徳殿は友好的にそう言った。
「とはいえ、この勢いでは南部が勝つでしょうなぁ。我らが行く前に花輪や大里が落ちてしまえば、武功も上げられぬ。もったいないことです」
暢気にそう言う。
そうか、ここまで素早い展開だと、自分が参戦するまでもなく戦いが終わる可能性もあるのか、と和徳殿の言葉で気付いてしまった。
そうなると結局武功は上げられずじまいになる、ということだ。
武功を上げなければいけない立場なのに、初陣で武功を上げられない。いや、初陣でそうそう武功を上げる方がそもそもおかしいのか。
だが、結果を出さないといけない立場なのだと言われているし、自覚もある、つもりだ。
(焦ったほうがいいんだろうけど……)
どうにも焦りは湧かなかった。まだ初陣で、どうやって武功を上げてみせればいいのか、イメージが出来ていないからかもしれない。
尾去館の攻防を思い出す。あの戦場に、無理をしてでも飛び込んだ方がよかったかもしれない。それが思い浮かばなかった時点で、自分は武士に向いてないのだろうと思ってしまう。
「何、武功など時の運でございます、いずれあげられますよ」
考え込んでしまったこちらをどう解釈したのか、和徳殿が慰めるように言う。彼も気遣いの出来る方だ。
それにしても、そう言う和徳殿は武功に頓着しているようには見えない。
「和徳殿は武功を上げられぬかもしれないというのに落ち着いておりますな」
「これは我ら和徳衆の戦さではないゆえ」
和徳殿はそう言って笑った。
「私としては、鹿角などで武功を上げる必要はないのですよ」
そのドライさにちょっと目を丸くすると、おっと、と和徳殿はしーっ、と一本指を立てた。
「今言ったこと、石川殿には秘密にしてくだされ。聞かれたらお叱りを受けてしまうやもしれませんからな」
コミカルなその振る舞いに、俺はつい微笑んでしまった。
そうだな、あげるべき場所で武功を上げればいい。まだ初陣だ、そこまで心配することじゃない。
俺はそう思うことにした。
永禄五年(一五六二)四月十四日
高信が花輪へ向かった翌日、大雨が降った。梅雨前だというのにこれほどの雨が降るのは珍しいほどの量の雨が、三日続いた。
米代川がにわかに増水し、渡し船が流されるほどの激流となった。
「これは替えの兵が来るのはもう少し先になりますね」
四日目、雨が止んで川を見てきた金浜が心配そうに言う。米代川は茶色く溢れんばかりにその水の量を増している。いや、一部はすでに境を超えて田植え直前の圃場に流れ込み、丹精込めて代掻きしたであろう田に泥水と土と石をまき散らしている。
嫌な光景だ。
思い出すのは三年前、石川城の目の前の平川が大荒れした時の、あの景色だ。
「これでは右岸との連絡すら難儀ですね」
弘宗が苦々しく言う。普段なら各所に渡し船があり右岸に移動できるのだが、この分では不可能だろう。
「毛馬内のほうへ大回りして連絡できないだろうか」
「毛馬内の手前で米代川にぶつかります、どのみち難しいでしょうね」
「ああそっか、仕方ないな。じゃあ城普請だけでもしっかり進めておこう」
この状況では外での作業も難儀するだろう。無理はせず、今やれることを進めておこう。この雨なら相手側の草調儀も低調になる……と思いたい。
城中を見回り、雨で崩れた切岸の確認などをしている時に、その報が彼からもたらされた。
「佐多六と名乗る猟師がこちらに参っております」
「すぐにこちらに通せ」
佐多六は早足で庭に現れ、跪いて深く頭を垂れた。肩で息をしている。獣の皮を陣羽織のように羽織った姿は、一瞬熊が現れたかのように見えた。
一目で分かるほど、彼の姿は泥と草木で汚れていた。それを気にすることも出来ないほどに彼が急いでいた証拠だった。
「いかがした」
「安東の兵がこちらに向かっている。数は……千は下らない、もしかしたら二千を超えるかもしれない。こちらに到着するまでおそらく一刻半」
「なに!?」
金浜が驚きの声をあげる。
すっと、頭から血の気が引いたのが分かった。
来た。安東が。
「山越え道から沢沿いの小道を伝って、こちらに近づいてきています。小道の出口は幾つかに分かれていますが、この尾去館に直接繋がっている道があります」
「安東の連中、早すぎる。まだ南部勢が鹿角入りして十日しか経っていないんだぞ」
金浜がうめく。安東が兵を起こすにしても、十日程度で軍勢を差し向けるのはかなり早い。
「この前教えてもらった道だな。そこを監視していた南部勢はどうした?」
「遠目に安東と戦う者がおりました。いずれ、狼煙も上げれず突破されたのかと」
伝令を出す間もなく襲撃を受けて安東勢にやられたか。監視が機能しなかったのだろう。
「おそらく相手方に我らのことは感づかれていないと思います」
俺は深呼吸する。
安東の襲来――いや、これ自体は想定されていたことだ。肝心の物見が機能しなかったのは痛すぎるが、仕方ない。
そういうイレギュラーやミスはよく起こることだ。起こったらそれにどう対応するか、の方が大切だ。田んぼで病害虫が出てしまった時も、原因を探すよりもまずは対策を考えなければならないのと同じだ。
「佐多六、申し訳ないがもう一仕事してもらうぞ。――確認の斥候に佐多六を添えて急ぎ出せ。それからすぐさま親父殿と一戸様、それから周辺の館に入った衆に伝令を出して安東来襲の報と助力を請う」
「承知しました」
「確かこの間道には分かれ道があったと言っていたな」
「はい、一方はこの尾去に、もう一方は上山館前の袋地に繋がっています」
「なら、安東勢がどちらに進むのか監視して、進軍先を確認したらすぐに通報してくれ。どちらに行くかでこちらも行動が変わる」
佐多六は頷いて、斥候の武士と共に再び去っていった。
「さて、間に合いましょうか……」
俺、弘宗、金浜、和徳が集まり、厳しい顔で地図を見る。
一刻半(三時間)後には敵勢がこちらに来る。それまでに救援を願ったとして、こちらの援軍が来るまでにはもっとかかるだろう。
「もっとも近傍の部隊は松館ですが、あそこはこちらよりも小勢。ある程度まとまった兵と言えば上山館ですが、沢沿いの道が向こうにも繋がっているなら、どちらにしても動かせません。動かしたらそちらに安東勢が現れた時に貴重な城をむざと明け渡すことになってしまう」
「上山館は大浦弥四郎殿が入られておられる。かの者も若いながら戦巧者と評判です。大浦の重臣たちも戦慣れした者ばかり、彼なら敵が来ても来なくてもうまく立ち回りましょう」
金浜の分析に頷く。
「もし向こうに兵が行ったらすぐさま救援に行くつもりで行こう。となれば、他に援兵を頼めるのは親父殿か一戸殿か、あるいは石鳥谷の鹿角一戸衆か」
金浜は首を横に振った。
「殿がいる花輪の陣所からここまではさほど距離はありませんが、悪いことに、米代川は昨日の雨でまだ荒れたままです。川を超えるまでまた時間がかかるかと。それに安東の兵力が千以上となれば、対抗できる兵の数を送らねばなりません。相応に時間がかかるでしょう」
「なら、大里の陣にいる一戸様も同じか……石鳥谷の鹿角一戸衆はどうだ? 相当の兵がまだいるはずだが」
一戸の集結地となった石鳥谷館は米代川の左岸だし、尾去館や松館からもそこまで離れているわけでもない。頼みにするならこっちか。
「こちらも少々時間がかかりましょう。他の安東勢がこちらに近づいていないか警戒しなければなりませんし、石鳥谷にもまだ昨日の増水で兵が戻っていない状態のはずです。足りない兵を無理に引き出してこちらに送る余裕がどれだけあるか、分かりません」
本来なら交代の部隊が川を渡ってこちらの城に入り、米代川右岸の警備に入るはずだった。そうなれば尾去館なども十分な数で迎撃できたはずだ。つくづくタイミングが悪い。
「つまり、ある程度の間は独力で抵抗する必要があるってことだな。この城に籠る兵の数は今何人だ?」
「は、石川衆が弓衆が四十、鉄砲衆が四十、徒歩が百、和徳勢が弓衆が二十に徒歩が百といったところです」
「三百名程度か」
「悪い兵数ではありませんな。弓と鉄砲衆が多いので、籠城にも大変向いておる」
そう言ったのは和徳殿だ。金浜は一度頷き、地図の兵力を置く。
「あとは安東の兵力次第ですね」
「籠城して安東の兵相手に数日耐えられると思う?」
「安東の兵がどれほどかによりますが、二千は超える兵がまとめてこちらへ来るのであれば、無理です。尾去館はここ数日の普請で大分補強できましたが、やはり小城。安東も花輪や柴内が維持されているうちに鹿角に入り、足場を得て南部勢を攻撃したいでしょう。この尾去はその足場として絶好の地、時間をかけていられない安東は、兵の数で押して遮二無二にでも落そうとするでしょう」
「二千と三百じゃさすがに不利か。どうにかして相手の兵を減らせばなんとかなるだろうか」
「せめて先手をある程度減らせれば、安東の動きも鈍ると思います。が……」
減らせるなら――その言葉にパッと思いつく。
「……この三百の兵を伏せ勢として、安東勢を迎撃できる?」
俺の提案に、金浜と和徳殿が顔を上げる。
「なにも安東の全軍を撃退する必要などない、安東の先頭にいる軍勢を打ち崩して足を止めさせる。それによって親父殿たちの援軍が尾去館に入る時間を稼ぐ」
「城から出てひと当てしようと? 危険です」
金浜が俺の提案に淡々と言う。俺はかまわず城の外を指差す。
「尾去の間道の出口当たりに、少し高まった場所があった。あそこからこの城までなら距離も近く、迎撃してすぐに撤収できる。怖いのは馬廻の襲撃だが、弓衆と鉄砲衆に先手と馬衆を優先的に攻撃させて足を止め、壊乱させる。敵勢が動けなくなったら一目散に城に戻って籠城する」
「そうそう上手くいくとお思いか?」
どうだろう。分からない。けど、今まで習ってきた金浜の戦のやり方から言えば、無理ではないはずだ。
「……ここで少しでも時を稼がねばこの城も落とされて皆死ぬ。後で死ぬか先に死ぬかの違いだ。それに、首尾よく行けばこの城を維持して守りきることも出来る」
「引くという選択肢もありますぞ」
「どこに引く? 川はお前が言ったとおり荒れているのだろう? 南の石鳥谷の陣に後退するにしても、こちらは徒歩だ、引いているうちに馬衆に追いつかれる可能性は高い」
「一刻半あれば逃げるなら十分間に合います。それに、追いつかれて我らが死んでも、十郎様を逃がすことくらいは出来ましょう」
「――――」
金浜の顔は恬淡としていた。その行動が当然である、という顔をしている。
死を当然として動く武士という生き物が目の前にいる。その実感が、驚くほど自分の心を揺さぶった。
そして、自分はそれを指揮しなければならない。同じ武士として。
「――武功を上げるために逸っておいでか?」
金浜の言葉に目を丸くする。いや、本当にそんなことは考えていなくて、思わず苦笑が漏れてしまった。
武功。武功。何が武功だ、馬鹿馬鹿しい。
今の自分が武功を上げなければならないのは、分かる。だが、俺にはその『武功』になんの魅力も感じていなかった。
(ああだからか、こんなに気乗りしなかったのは)
「……何が可笑しいか」
「金浜、俺はな、俺ごときがこの状況で武功を上げられるだなんて思ってないよ」
数千が命のやりとりをするこの戦場で、しょせん初陣でしかない小僧がそうそう武功が上げられるだなんて思っていない。まだまだ武技も未熟な者が、すぐさま結果を出せるとも思っていない。
だが、引いたら不味い場所くらいは分かるつもりだ。
戦うべき時に戦う、というのは、きっとこういうことだと思う。
これは、この城を任された俺の戦さだ。
「――ここで尾去館を失えば鹿角の左岸に楔が打たれ、北の津軽勢と南の一戸勢が分断される。逆に花輪殿などの鹿角勢は安東との連絡路が復活して息を吹き返しかねない。ここで安東を食い止めなければこの戦、負けだ。ならば負けないために戦わねばならない。ここが切所だ。
金浜、聞くぞ。俺の提案した行(作戦)、今のこの兵力からみて出来るか、出来ないか?」
「……出来ます。そして敵の兵を減ずるという意味なら、効果的です。ですが、危険です」
「危険を顧みずやる価値はあるか?」
「……あります。ですが、あまりに危険です」
「なら、やるぞ。失敗したら俺が殿を務める」
「十郎様!」
そう言うしかない。
ここは引けない。ここが陥落したら、鹿角に来た南部軍を、ひいては南部領全体を危険にさらしかねない。
いきなりそんな立場に立たされるなんて、本当に嫌だ。さっさと終わらせて田植えをしたい。
と、前に出たのは今まで護衛として黙っていた弘宗だ。
「金浜様、いざとなれば私が十郎様をお守りします。たとえ殿になったとしても絶対に殺させはしません」
「森宗殿……!」
弘宗を叱ろうとする金浜を制して、俺はもう一人の部隊指揮官――和徳殿に向き直った。
和徳殿はこちらをじっと見ている。こちらを値踏みするような視線。何度も浴びてきた目だ。
「和徳殿、申し訳ないがご協力いただけないか。こちらには幸い、弓衆と鉄砲衆がそれなりにいる。尾去館の備えに若干を残して、兵を出してもらいたいのだ」
「……分かっておられようが、城の外で戦えば相当の犠牲が出る。特に徒歩勢は安東勢の矢面として酷いことになりましょうな」
「はい……それでも、ここで安東に打撃を与えなければ、城が落ちる時間が足りなくなります。和徳殿が今は頼りなのです」
「…………」
「さいわいというべきか、待ち伏せをする道は非常に狭く、相手も自由に身動きできる場所ではありません。こちらも小勢で効果的に迎撃できます。ここで出鼻をくじければ、我らが生き残る目も増えましょう。和徳殿にとっては自分の戦ではないかもしれませんが、おしてお力添えをお願いします」
「……城を捨てるというのはさすがに武士として選べませんな。それに石川若君の考え、拙者は賛成です」
和徳殿は自分の髭をぞりぞりと弄った。
「ここで安東の兵を減らしておかねば、籠城も難儀しましょう。それに時間がかかるとはいえ援軍は必ず来ましょう。それまでどの城も落ちず、尾去に敵をくぎ付けに出来れば、我が方は勝てます。なるべく兵を減らさずに、一気に先手を減らせるなら充分勝ち目はありましょう」
俺は再び金浜に向き直る。
「金浜、やるぞ。そして、やるからには勝つ」
「……承知しました」
金浜は不承不承といった風に頷き、迷いを振り払うように深く頭を下げた。
「金浜弾正信門、改めて弓鉄砲衆の武者奉行を命ずる。取れる手立てを全て取り、安東勢の侵入を食い止めろ。もう一度聞くが、出来るか?」
「私を誰とお思いか」
顔を上げた金浜はいつものような男前の表情で傲然と鼻を鳴らした。
「我が父は石川左衛門に智謀の人ありと言われた金浜円斎。私はその息子にして直弟子ですぞ。伏勢の采配、とくご覧あれ」
「金浜の実戦、学ばせてもらうよ。――和徳殿には徒歩衆をまとめてお預けする。御采配、よろしくお願いいたします」
「承知! 石川の若君の初陣に、良き華を添えてみせましょうぞ!」
武士らしい快笑をあげて、和徳は立ち上がった。
「すぐさま手配し準備だ。安東勢は待ってくれないぞ」
「はっ!」
俺は地図を片付け、すぐさま兵を集めるため立ち上がった。




