第56話 出兵準備の顔合わせ
永禄五年(一五六二)四月二日
石川高信は帰国と同時に陣触れを発した。
津軽の勢力は石川城に参集し、まとまって南へ向かうこととなった。
参陣する津軽衆は、石川高信を大将として、大浦弥四郎為信・大浦五郎信勝率いる大浦衆、和徳讃岐守満安率いる和徳衆、瀧本播磨守重行率いる大光寺衆、浅瀬石の千徳大和守政氏率いる浅瀬石衆などが参陣し、その総勢は二千五百を超える。
高信と俺は、参陣した武将たちに対する着陣の挨拶を交わす仕事をまずこなした。
「お久しぶりです、弥四郎殿、五郎殿」
石川城に続々と集まる軍勢のひとつを率いて、大浦弥四郎為信と大浦五郎信勝が高信に謁見してきた。
「本来は当主・大浦為則が不具のため、我が父、大浦紀伊守守信が出るはずでしたが、紀伊守も病身のため、代わりに我ら兄弟が参陣しました。若輩者ですが務めを果たします故、寛如くださいませ」
そう、大浦紀伊守守信はここのところ体調を崩したとのことだった。
「弥四郎殿の実力は存じて居る。お養父上が来られないのは残念だが、御身がおられれば頼もしい。此度はよろしく頼む」
高信はまだ年若い為信に慇懃に頭を下げ、俺を指す。
「此度は我が息子、鶴改め石川十郎慶信が初陣となる。同い年とはいえ武将としてはこちらの方が若輩者、先達の武将として目にかけてくだされ」
「大浦弥四郎殿、此度は初陣の仕儀となりました。足を引っ張らないように働きます故、よろしくお願いいたします」
「……こちらこそ、石川殿の御子と轡を並べて戦えるのは光栄です」
と、社交辞令のような挨拶を交わした。
「どこを攻めるかは出陣の後伝達される。まあ、想像できるかもしれんが、そんなに突飛な場所ではない。ひとまず南部表、とでも言っておいてくれ」
と高信は言った。鹿角に攻め込むのは出来るだけ秘匿する、ということだ。出陣して数日で分かることではあるが、念のための処置だ。
「承知しました。兵どもはなるべくなだめておきます」
為信はきびきびと答えた。
幾つかの連絡事項を伝達しているうちに雑談となる。
「ところで、その鉄砲の先についた袋はなんですか?」
そう聞いてきたのは五郎殿――信勝だった。側に置いておいた鉄砲を目ざとく見つけたようだ。
その火縄銃の先には、袋で包まれた部分がある。
俺は鉄砲を手に取り、袋を外す。そこから顔を覗かせた刃渡り一尺ほどの刃が光る。
そう、銃剣だ。
柄の部分から八角形の銃口に嵌るように八角形の輪っかが飛び出ており、ちょうど先目当(照星)の突起の部分に邪魔にならないよう切欠きがある。銃先に輪っかを差し込んで、それを捻じって回すと切欠きと先目当の部分がカチッと嵌って固定されるようになっている。
「銃剣と言いまして、家臣が作ってくれました。鉄砲衆はどうしても両手がふさがりますので、いざという時の護身用としてこういう道具があると便利だと思いましてね」
俺が三戸に行っている間、弘宗はよほどこれの作成に没頭していたようだ。帰ってきた時に満足げな顔をして「とりあえず八つほど作ってみました」と報告された時にはさすがにちょっと呆れた。楽しかったようで何より。さすがに八個もいらないので、予備も含めた二個を貰い、残りは他の鉄砲衆にも使い方を教えて配った。形ばかりの訓練もしてみた。
「なるほど、それはまあ確かに」
「ははぁ、つまり弭槍みたいな道具ですね」
為信は反応薄く、信勝は楽しげに答えた。矢弭とは、弓の先に槍の穂先のような物をつけていざという時の護身用にしたもので、確かに銃剣と理屈はそっくりだ。
「十郎様は鉄砲衆を率いるのですか」
「ええ、銃兵を含めた者たちを率います」
「……武士は槍をもって武功を上げたがるもの、鉄砲を好むとは十郎様は中々奇特でいらっしゃいますな」
(鉄砲など臆病者が使う道具だろうにそんなのにお熱なのかよ)
んっ? なんか副音声が聞こえた気がした。
為信はいつものすまし顔で座っている。あ、この野郎。
「何、鉄砲はとても良い武具です、たとえ猪武者でも一発で撃ち倒せる。積極的に使わぬ道理もないでしょう。石川ほど揃えられぬかもしれませぬが、弥四郎殿ももっと使われてはいかがか?」
(いきり立った奴を倒すにはちょうど良い武具なもんでな、それが分かんねえとか頭固いぞ猪武者、あ、数揃えられるほどの金が無えか)
こっちの副音声が聞こえたかどうか、為信の表情がぴくりと動いた。
顔を合わせて、どちらともなく笑い合う。信勝は少し顔をこわばらせ、高信は今にも大笑い出しそうな顔でにやけていた。
その後来たのは平賀郡大光寺氏の大光寺城代を務める重臣・瀧本播磨守重行と、和徳讃岐守満安だ。
瀧本重行は四十代ほどの熊みたいな外見の男だった。髭はもじゃもじゃ、背は中肉中背ながら肉厚で筋肉が身体中を覆っておるような印象だ。大光寺氏の当主がまだ成人前のため、その代行としての参陣だ。
「我が大光寺の名を示せる良い機会をお与えいただきありがたい限り!」
なんというか、一言で言えば暑苦しいお方だ。押しが強くてグイグイくる。
「本来ならば我らの長者丸様が成人されて参陣できればもっとよかったのですがそこは致し方なしです。十郎様も戦の際には乳井の糞坊主ではなく、この瀧本をお頼りになられよ!」
瀧本はずずい、とこちらに顔を近づけてくる。むさくるしいぞこの人。
「十郎様は乳井の坊主どもと懇意とのこと。いかん、いかんですぞ。確かに連中は奸智が働きなかなか手ごわい連中ですが、しょせんは肉食破戒の生臭門徒、沙門大名などとおだてられている輩にすぎませぬ。武門としては我が大光寺がより頼りになると自負しております。十郎様も此度は我らの戦さ姿をとっくとご覧あれ」
うわぁ仮にも郡代の子どもの前でこんなに堂々と他勢力を批判して来る人初めて見た。一応同じ領内だよね。
大光寺氏と乳井福王寺氏は長年対立している。乳井の領地は大光寺氏の領地である平賀郡に点在しており、その面積も相当に広いため、大光寺氏にとっては領内を支配するにあたって目の上のたんこぶのような存在なのだ。乳井氏はその領地を基盤に独立大名のように振る舞っているので、その点も大光寺氏としては面白くないらしい。
――未来の歴史では、この瀧本重行は福王寺玄蕃を暗殺してその領地を簒奪し、それが却って民心が離れる原因となったりもしている。
「こらこら瀧本殿、十郎様が困っておられるぞ」
和徳満安が取り成すように口をはさむが、瀧本重行は止まらない。
「鉄砲衆を率いると聞きましたが、遠くから撃つだけでは臆病の徴、武功など上げたか分かりませんぞ」
瀧本は満面な笑顔で言い放つ。
「なあに、我らの武事は津軽一ですぞ、いかな十郎殿が初陣で〝農事より戦が苦手であっても〟、この瀧本がお膳立てして武功を〝あげさせて〟見せましょうぞ、ぜひともお任せあれ」
子どもに言い聞かせるように、善意いっぱいにそう言う。
――そこまで露骨な物言いをされると、逆に冷静になるものだ。
和徳殿はその空気を感じたのか、すっと間に入ってくれる。
「十郎様、この瀧本と乳井は境目を巡って争っておりましてな、こやつの乳井への悪口と大言壮語はすぐにこぼれるつばのようなもの、汚いが気に召されなさるな」
こちらは戦場よりも鍛冶場に居そうな、沈着ないかつい親方といった風情だ。
「津軽は遺恨多く新しき土地故、どうしてもこういう言葉が出やすいのだ、ご勘弁くだされ」
和徳殿はそう言って津軽の遺恨という話の方に話題をそらした。俺もそれに乗る。
「和徳殿も遺恨をお持ちか」
「それはもう。大浦殿など先代の御当主を我らが討ち取った故、拙者の家をずいぶんと恨んでおられような」
歯を向いてほがらかに笑う。うわぁ怖い……。
「此度はそのような遺恨多き家が集まり戦う戦です。御郡代様はその采配も丁寧に行われるお方。郡代様の子である貴殿にとっても、きっと良き学びになると思いますぞ」
「儂を褒めてもどうもならんぞ和徳殿」
高信が呆れたように言う。高信はおべっかの類は聞き飽きているのだ。
「事実ですぞ。此度も郡代様の元で戦えることを楽しみにしておりました」
「うむ、此度は我が息子をよろしく頼むぞ、和徳殿、瀧本殿もな」
「お任せあれ!」
空気を読まない瀧本が大声で返事した。
「ふう……」
瀧本らが退出した後、ため息をつく。高信がふん、と楽し気に鼻を鳴らす。
「いやはや、中々あけすけであったのう」
「……瀧本殿は良い方ですね、あれは五割善意で言ってましたもの、面食らって怒る機を見失ってしまいました」
逆にちょっと可愛いくらいだ。残り五割は多分自慢心だ。
「瀧本殿はなぁ、善人であるが、人の心が分からぬ。しかも強い。人の心が分からぬ善人は自分の正しいと思う理ばかりで動いて行いを正そうとしない。たいそう厄介だぞ」
高信はほんの少し疲れたように苦笑した。今までも同じようなことがあったのかもしれない。
「諸将には俺の噂がきちんと広まっているんですね」
「そりゃそうだ、お前が農事にかまけていること、奇特と奇怪の両方で話は広まっておるぞ」
「奇特と奇怪、ですか」
「農民を救う奇特な子でありで、武士の身でありながら武事をおろそかにして農事にかまける奇怪な子だ、とな」
おおう、それは初めて聞いた。
農事にかまけて武士としての鍛錬を怠っているのだろう――そう見られているのはそれなりに知っていたけれども、ここまで真正面から言われたのはさすがに驚いた。
「甘んじて受けろよ、お前がやってきたことがどう見られているか、石川の息子とは常に見られている立場だと心得よ」
「分かっていますよ」
そして最後に、千徳大和守政氏が来訪した。田舎郡の浅瀬石を支配する領主だ。
――実は、内心一番会いたかった人間が彼だった。
彼とはぜひとも話したいことがあったのだ。
「千徳殿、参陣嬉しく思うぞ」
「ははぁ、拙者としては安穏としていたかったのですが……お呼びとあれば参陣せねばなりませんからなぁ」
高信が笑いかけるのに対して、なんだか疲れた風情で言葉を返す千徳様。まだ三十代後半だそうだが、一見小太りの、雪国によくいる脂肪と筋肉がほどよくついた体つきに、疲れた老け顔が相まって、実年齢よりも老けて見えてしまう。物言いが不敬にならないかちょっとヒヤヒヤするが、高信もそれから金浜も気にしていない。いつもこんな感じの人らしい。
諸々の話し合いを進め、世間話に話が移ると、千徳様は金浜に話を向けた。
「それにしても、久しいねぇ金浜。君がお役目を変わってからあまり顔を合せなかったからねぇ」
「はい、千徳様におかれましてはお懐かしゅうございます」
金浜の挨拶に何故か嫌そうな顔をする。
「気持ち悪い物言いするね」
「……うるさい黙ってろ、お役目だ」
「ははっ、お役目なら仕方ないね」
珍しい、金浜がずいぶんと荒れた喋り方をする。
「……我が故郷の閉伊金浜と、千徳様の御本願地である閉伊千徳は、隣り合わせの領地なのです」
嫌そうに金浜が補足する。
「と言っても、山を挟んでそこそこ距離があるけどね、海から船で行った方が近いくらいさ」
千徳政氏はちょっと意地悪そうな顔をする。
「知っているかね慶信様。守役殿は今じゃ潮気が抜けて立派な宮仕えだが、若い頃は中々のいたずら者でね。閉伊海のあちこちを船で行き来しては騒ぎを起こしていたのですぞ。若党を引き連れてよそ者の海賊を追い払った話など語り草ですぞ」
「へー、そうなのか金浜?」
いたずら者とはなかなか刺激的な表現だ。金浜はものすごくいやそうな顔をして首を振った。
「……若気の至りです。そういう千徳様こそ、若き時分は『千徳の荒武者』などと呼ばれて閉伊海どころか遠く蝦夷地まで船を出すような破天荒であらせられた」
「蝦夷地には物を売り買いしに行っただけだよ、そんなのあの頃の閉伊衆なら幾らでも居たさ。今じゃ俺も潮の臭いもしないこんな津軽の野原で領主様だよ。ままならんもんだ」
そう言ってため息をつく。なんか……屈折しているのかしら?
「こんな方ではありますが、千徳様は何度も武功を上げられた巧者です。十郎様も良くお学びなさいますよう」
「こんな、とはなんだい、失礼な」
金浜のぞんざいなフォローを、千徳は機嫌よく鼻で笑った。
「ところで千徳様、福王寺様から話は行っていると思うのですが……」
と、頃合いを見て話を振ると、千徳様は頷いた。
「そういえば、乳井を挟んでお願いがあったね。あれは元々十郎様のご依頼とか」
「はい、そのことをお話したく」
この前、福王寺玄蕃殿に依頼した土の採取の許可について、こちらからも改めて話を通しておきたかったのだ
「何でも、土を探しているとおっしゃられていたが」
「はい。乳井の修験様に探してもらっているのですが、その土があるのは千徳様の御領分、土がもし見つかったら、その採掘と精製の許可を戴きたい」
「我が領内にそんな貴重な土があったかねぇ。いったい何を探しているんです? 金です? 銀です? 鉄、はこの辺ではあまり聞かないけど」
「ベントナイトです」
「べ、べん? 何?」
「ベントナイト。別名膨潤土などとも呼ばれていますね」
〝現代〟だと水田資材としてはホームセンターで売っているくらいには一般的な資材だし、身近な所ではいわゆる犬猫のトイレの砂などの原料として使われている。
「はぁ……それがそんなに貴重な土なの?」
「農民たちにとっては、金銀にも勝る価値を持ちます」
当惑した顔の千徳様に対して断言する。
「ふぅん……どういう土なの?」
お、少しは興味を持ったかな?
「この土は、水を含めると膨張、膨らむ性質を持っています。その性質によって水田に使うと水漏れを効果的に減らしてくれるのです」
ベントナイト、冷害対策としてもかなり重要な資材だ。
水田稲作というのは水の管理が重要になってくる農業だ。稲は一定の区画に水を貯め、その水を吸うことで稲は生長する。
だが、火山灰土などが優越する地域の土は、容易に水が抜けてしまう。それは畑作においては決して悪い性質ではないが、水田稲作においてはマイナスに作用することが多い。そして南部・津軽は黒ボク土――火山灰土が広がる地域だ。
水が抜けやすい土壌だと、水を貯めてもそれは土壌にどんどん抜けていき、土壌によっては稲作が不可能なほどの水量低下を及ぼす。それを補うためにさらに水を注がなければならず、その分だけ貴重な水を浪費する。
湧水などで顕著だが、新しい水というのは大概冷たい。水抜けのする水田は間断なく冷たい水が流し込まれ、稲もその冷たさに晒される。これは、特に気温が上がらない冷害の時には、稲にとって文字通りの致命的な温度になり得る。
冷害の際に稲を守る方法として、畦を高くして水位を上げて止水することで、冷害時の低い気温をそれよりもわずかに高い水温によって守る、という方法がとられる場合がある。だがこれも、すぐに水が抜ける土壌では水位を維持できず、水も冷たいままでかえって悪影響を及ぼす場合がある。
ベントナイトは土壌に混ぜることでいわば目の粗い土の穴を埋め、水が抜けないようにする。そうすることによって無駄な水の消費を抑え、水温を高くできるようにする。さらには稲の生育に必要な養分であるケイ酸が含まれており、それらの可給も見込める。
ただし欠点もある。ベントナイトは初年はかなりの効果を持つが、年を経るごとにその効果が薄れていき、四年ほどでその効果は半減するとされている。なので本来は客土――他の地域から持ってきた粘土などの水抜けしない土を投入する――なども行うことが望ましい。だが、客土というのは文字通り田んぼ全体に大量の粘土を運び込まなければならないので難しい。
一般的に客土を施すとして、一町当たりにつき客土を投入すると、必要量が(改良の方向性にもよるけれども)、概算で百トン~二百トンとされる。一反当たりだと十~二十トン。これを他の地域からわざわざ運び、土地の土と混ぜなければならない。津軽全土となればもはや途方もない。
近代においては土を運ぶためだけの列車が編成され、あるいは水と混ぜて泥にした土をパイプラインで流して運ぶなどしなければならなかった。そんな大規模な運搬手段の無い前近代でそれをやろうとしたら、土を運ぶだけで莫大な労力と資金がいる。土地を作り替えるという事業が、あまりに膨大な事業かが分かるだろう。
ちなみにベントナイトは投入量はこれもやり方によるが全面施用で一町当たり五~十トン。一反当たりだと五百キロ~一トン。二十分の一程度だ。それでも相当な量だが、全面施用とは別の方法もある。だが、まずは採掘をしなければ絵に描いた餅だ。
だからこそ〝現代〟においても日本で有数のベントナイト産地である黒石の山中を福王寺様に探ってもらったのだ。採掘は人力になるので多くはならないだろうが、それでも軌道に乗って津軽の需要を満たせるくらいにしたい、という目論見だった。
――という説明を政氏様にする。
ようは、水持ちがよくなり、その分だけ稲の生長に利点があるのだ、ということが伝わればよい。
「ふーん、そんなに大事な土なのね」
千徳様の反応は淡白だった。まあ普通の反応だ。水温が大事だと言っても、農業にものすごく詳しいわけではない武門の人にとっては『へーそうなんだ?』って反応になるだろうし、何だったら気温水温を普段は意識しない(〝現代〟と違い、一度単位で水温を計れるわけではないこの時代の)農民だって、その重要性を理解しきれているかと言えば微妙な所だ。
「なので、乳井と我らの鉱夫が山に入る許可をいただきたいのです」
「修験者が山に入るのはいつものことだし、山師たちも別に入って構わないけど……土って売れるのかい?」
「ものすごく高い値段というわけではないですが、売れます。知っていますか。岩木川の下流域では泥炭――サルケという土が取れます。その地域の家々はそれを一枚五文程度で買って冬の暖房の燃料にしています」
サルケ(猿毛)、と呼ばれる泥炭は、木の生えていない荒蕪地が広がる岩木川下流域ではポピュラーな商品だ。自分で採掘したり、サルケ売りと呼ばれる業者が数十センチ角のブロックにして土を掘り出して、家々に売っている。煙も臭いもきついが、冬の暖房燃料として貴重な資源だ。
「ベントナイトはサルケを超える価値を持つ土ですので、需要が喚起され軌道に乗ればサルケよりももう少し高く売れましょう」
採掘するにも人夫が必要になるし、ベントナイトはそのままで使うより、細かく砕いて熱風で乾燥させることでより効果的なものが製造できるので、ついでに熱風を吹かせる為に炉なども併設したい。ついでに何か作れるなら作りたいし。となるとその分だけ金額も上乗せになるので、例えばサルケなどよりは高くなるはず。幾らの金額が適正になるか分からないけど、まずは出来上がったベントナイトを頒布し効果を見て、そこから普及を通じて商品化していきたい、というのが本音である。
政氏は眠たげな顔のまま頷いた。
「ま、構わないよ。御郡代様も、よろしいですかな?」
「農事は全て十郎にまかせておる。構わんよ」
高信が頷く。
「そのような良い土なら、我が領内でも使わせてほしいですなぁ」
「もちろん。完成品は幾つか卸します故、使い方も含めてお伝えしますよ」
こうして浅瀬石様の許可を得て、ベントナイトが採掘できるようになった。後は見つけるだけだ。あそこの土地にベントナイトが眠っているのは間違いないのだから。
ただ、ひとつ懸念がある。
ちらりと目の前のこの千徳様を見る。
彼は〝史実〟では津軽為信と同盟を結び、南部氏と敵対するのだ。
つまり、この人が敵対すると(この前八戸の石灰が輸出停止になったように)ベントナイトも輸出を止められる可能性がある、ということでもある。
その対策はなかなか思い浮かばないのだけれども、その辺も追々考えないといけないだろうなぁ。




