第27話 火薬と千歯こき
永禄四年(一五六一)七月十五日
ばたつく日々が落ち着くものの、夏の暑さがまだ続く時期。
石川城近くの馬場から、十数頭からなる駄馬と二十数人もの人足の一団が出発した。
馬は両脇に俵を釣り下げられ、重いそれをうっとおしそうな顔をしてゆっくりと進んでいく。すれ違う者たちが一様に鼻を押さえる。臭うのだ。俵から糞便の臭いがただよい、辺りに流れているのだ。
一団は石川城から少し離れた人里少ない山の中に入る。
山林の間の細い道をさらに進めば、不意に開けた場所が現れる。
そこには建物がある。
長さにして長さ十二間、幅は七間、高さも三間ほどのなかなか大きな建屋が二つ、横に並んでいる。
火薬を作る大長屋だ。
そのうちの片方、より真新しいほう――月の初めに出来たばかりの火薬長屋二号棟だ――に一団は乗り付け、荷物を降ろし始めた。
大長屋の横には炉が併設されており、既に試窯を一度終え、火を入れる準備が出来ている。
隣にある、先に出来た大長屋一号棟を覗くと、既に牛糞や馬糞、馬房に使われていた藁や尿を混ぜた土、それらを馴染ませるための土などが大量に運び込まれており、人足たちが無言でそれをかき混ぜている。
「相変わらず、強烈だな、これは」
俺はげんなりしながら、馬から俵を外していく。
荷物――すなわち動物の糞便や土の類が俵ごと放り込まれると、臭いが爆発的に広がる。
風通しが良いとはいえ、口鼻を布で二重に巻いてもなお臭う。漂うアンモニアが目を刺激して涙がこぼれる。周囲には大量のハエが飛び回り、羽音がうるさくして仕方ないほどだ。
作業するものは、いずれも高額の賃金を提示して近隣で雇った者たちだ。
格好は、異様だ。口には布を、服の上からは厚手の蓑をかぶり、動物の皮で作った手袋まで付けてもらっている。この時代から見れば過剰に思えるであろう装備だが、衛生面は怠れない。ただまだ夏も厳しい七月、既に汗だらけだ。
ちなみに、その異様な格好の者たちの中に自分こと鶴もいる。金浜からは止められたけど(当たり前だ)、培養土の作り方は堆肥の作り方と相似だが、違う部分もある。今日は二号棟の初開きだ。その為初めての者も多く、まず率先して実演しない事には始まらない。まだまだこの作業をできる人間がいないのだから仕方ない。
小屋の一角に培養土の素がある程度――腰丈くらいの高さの培養土が小屋の横数メ―トルまで横長に積み上がっていく。
「じゃ、今日から新しい建屋での〝肥料作り〟の始まりだ、よろしく頼むよ!」
肥料作り、の部分を強調する。実は彼らにはこれが『火薬作り』とは説明していない。機密の漏洩を避けるためだ。
さっそく人足たちに説明を始める。
まず、土瓶の中にある液を数滴、手にたらす。黄色い液体だ。
「何ですか、その液体は?」
「木酢液だよ。これはこの培養土の発酵を促すんだ」
作業員の質問に答える。これは冬に作った木酢液だ。木酢液は発酵促進剤としても使える大事な資材だったりする。
「このでかい水差しはなんですか?」
配られた道具に男たちが怪訝な顔をする。
それは、蓋と持ち手がついた木桶に、長い鉄の筒がつけられた道具だ。筒の先にはこれまた鉄の部品がつけられており、それには小さな穴がいくつも開けてある。確かにでかい水差しだ。
いわゆる、ジョウロだ。
「水を均等に巻くための道具だよ。こうやって」
木酢液をジョウロの桶底が浸るくらい垂らして、その後にその桶がいっぱいになるくらいまで水を入れて薄める。そして培養土に向けて傾けると、水のシャワーが勢いよく降りかかる。
「こうすることで均等にまんべんなく、細やかに水をかけることが出来るし、傾けるだけで水が撒けるんで便利なんだ。これを使って薄めた木酢液を撒いていこう」
ジョウロ、戦国時代にはまだなかったのね、意外だった。けど便利なのは確かなので、木具師に頼んで幾つか作ってもらった。ただ素材的にプラスチックやブリキみたいな軽いものは作れないから、どうにか工夫したい所ではある。
人数分のジョウロを使って、薄めた木酢液を撒いていく。あらかた撒き終えると、コスキ――本来は雪かきなどで使われるスコップのような道具だ――で混ぜ合わせる。
しっかり発酵させるためにある程度水分を抜いているとはいえども、やはり重いし、臭い。いや、痛い。アンモニアは容赦なく目を刺激するし、数百キロ、なんならトンを超す糞便の臭いは鼻が使い物にならなくなるほどの刺激だ。
集まった者たちが黙々とこれらを混ぜる。ある程度均一になるまで混ぜ合わせると、色々なものをさらに投入して混ぜる。詳細は機密。色々な分量がまだまだ要研究だ。
培養土が熟した後、硝石水から硝石を抽出する際には木灰を使うのでその準備もしなければならない。そのためにも窯を作ったのだ。
ただ木灰は農家から見れば元手がほぼなくて済む大事な肥料だ。まとまった量を確保しようとすると農家から召し上げる形になりかねない。そうなるとかなりの不満が上がってしまう可能性があったので、あらかじめ木を切って木灰も作らなければならない。窯をそばに準備したのもそれが理由だったりする。
十数人が大量の土を前にただコスキでひたすらかき混ぜる。コスキは結構便利だけれども、土を乗せる部分がヘラみたいに平らだし、強度を保たせるために丈夫な木を厚く太く使わないといけないので、子どもの体には余るほど重い。正直金属製のスコップが欲しくなる。これも今度作ろうそうしよう。
十分に混ぜ合わせて、その日の作業は終了だ。清らかな空気が本当に美味い。
「お疲れ様です。今後は半月に一度、これを適時尿土を混ぜ合わせて切り返して空気に触れるようにします。そうすると熱を発し続けて発酵が進んでいく。大変な仕事ですが、よろしく頼みます」
作業員たちは皆、おおぅ……と意気の上がらない返事をする。さすがに肉体的にも精神的にも疲れたようだ。自分だって正直さっさと体を洗いたい。
その分だけ銭も弾んでいるのだが、脱落者が出来るだけ少ない事を祈りたい。
「外に出たら蓑を集めて洗い場に置いてください。あと体を洗うための洗い場も横にあるから、そこで体も洗って」
と言って、集まったそれぞれに茶色の液体が入った桶を渡す。
「サイカチの液だよ、これで体を洗ってくれ」
サイカチの木の実はサポニンを含み、遠い昔から洗浄に使われてきた。
この作業に従事する人間には衛生面を最大限に配慮すべきだが、やれることには限界がある。最低限でも出来る事、と考えた時に思い浮かんだのがサイカチだった。ちょうどサイカチの豆果が手に入る季節なので、まだ青い豆果を乾燥させて試験的にやってみたけれども悪くなさそうだ。ただやはりこれだと季節に左右されるから、いずれせっけんとかも作ってみたい。せっけんなら売り物に出来そうだし。
小屋の培養土を外から見る。しばらくすれば発酵熱を発して分解が進み、半年もすれば熟して臭いもなくなった良い培養土が出来る。硝石もその頃には取れるようになる。
そうなったら、培養土から硝石を抽出する。火薬を抽出するのは作業場を別にして、人足とは別の口の固い者を使い行わせている。すでに第一号棟の熟成し切った土から硝石を精製出来る事は確認済みだ。
……正直、個人的には精製なんかせずに肥料として田畑にぶち込みたい。培養土は非常に良い堆肥として土を肥やしてくれる。馬糞は繊維分が豊富で土を作る力があるし、牛糞は養分に富む。だが、今回はそれはかなわない。もったいない。
愚痴はともかく。
いち早く精製した硝石に木炭と硫黄を混ぜて黒色火薬にし、実際に鉄砲で放っている。試射をしたのは高信だ。好奇心が止められなかったらしい。
黒色火薬はしっかりと点火し、放たれた弾丸は狙い過たず的を撃ちぬいた。高信が喜んだのは言うまでもない。硝石が精製できるのを見て即座に二号棟を作るよう指示したのも高信だ。
「これで鉄砲購入の目途が立った。京都に商人を送ってでも買いに行かねばな。出来るだけ買い付けたいところだ」
ニコニコ顔で高信は鉄砲を玩ぶ。
「あまり大量に買い付けて金欠にならないでくださいね、高いんだから」
「農事に金を使いまくるお前が何を言うか」
それを言われると弱い。
正式に農業指導役となって予算もつけられたので自由度は上がったが、それでもやりたいことには不足過ぎる。どうにか蜂蜜の販路を広げたりできないか、あるいは別の金策が無いか、最近はちょっと考えている。
鉄砲は、高い。鉄砲そのものもまずもって高いが、何より輸送コストがかさむ。畿内からこの津軽までとにかく距離があるし、道中は山賊海賊が湧いて出る。一番無難なのが日本海航路を使う事なのだが、ここを使おうとすると準敵国であるところの安東氏が間に挟まるので、結局は手前で陸路を使わなければならない。その手間はそのままコストに上乗せされるのだ。
「なぁに、鉄砲を欲しがっている奴は何人もいる、うちで買いきれなかったら他の家を紹介してやればいい。何だったら家督にでも売り込めばいいさ」
はっはっはと笑った後、そういえば、と高信は話を振る。
「お前と付き合いのある商人も京都に伝手があるんだろう? もし鉄砲を買い付けてきたら買い取るから、そう伝えておけ」
付き合いのある商人? ああ、楡の事か。あの男は一応人買いなのだけれども、まあ、人買い以外の商売も頼んでいるから今更か。
今はまだ京都にいるんだろうか。書状を送りたいところだけれども、残念ながら今宛て所が分からない。今年中にはまた来ると言っていたから、こちらに来たら話を通しておくか。
永禄四年(一五六一)七月二十日
ゴリゴリとのこぎりで木材の長さを調整して、そのたびに長さを確認し、よしと確認できたら、そのまま組み上げていく。
膠を接着剤のように接合部に塗って、部品同士をがっちりとはめ込む。組み上げ自体はプラモデルを作っているようで結構楽しい。あとは釘を打ち込んで固定。
そうして組上がったのは、言うなれば、二本足しかなくて片方が斜めに傾いたテ―ブルのようなものだ。
持ち上がったほうのテ―ブルの一辺には凹字状の細い溝を走らせた長い角棒が組み込まれている。また、二本足の間には踏み板が通されていて、下がったほうのテ―ブルの一辺と接続している。
最後の部品を取り出す。長い一辺をノコギリみたいにーーと言っても、ノコギリよりも刃の山の部分が明らかに大きいーーギザギザに尖らせた長方形の金属の板だ。それを凹字の溝に差し込み、最後に開けてあった穴に膠を塗った木栓を打ち込んで金属板と角棒を固定し、完成だ。
「……なんですかこれ?」
最後のギザギザの金属の板を作って持ってきた森宗弘宗が、相変わらずの怪訝そうな顔で首を傾げた。それににやりと笑みを返してみせる。
「これぞ千歯こきだよ」
「千歯こき、ですか?」
「稲を収穫して穂から外す時って扱き箸を使うだろ? それの代わりになるものなんだ」
収穫された米は、乾燥をかけた後、稲から籾を取り外す。その作業は、〝現代〟においては収穫時にコンバインが自動でしてくれるが、この時代においては人力で行われる。
扱き箸という手持ちの道具で稲を数本挟んで、引っ張って籾を稲から外す。それをひたすら繰り返す。
つまりすさまじく人手も時間がかかる、単純労働の極致なので精神的にも肉体的にもめっちゃ疲れる。
そこで発明されたのが、この千歯こきだ。
百聞は一見にしかず、俺は倉庫にしまっていた、まだ籾がついたままの稲穂を取り出した。
「これをこうやってな……」
稲穂を束ごと針山に向かって振り下ろす。稲穂は針山の間に引っかかる。
「これを引っ張って籾をこそげ落とす」
「なるほど……けど、そんな量を差し込んでも大丈夫なんですか? 引き抜けますか?」
「出来るよ、こうやって」
踏み板を踏んで千歯こきを固定し、足と腕に力を入れて、引く。
ジャ、と乾いた音を立てて、束が引き抜かれる。ばらばらと端草まじりの籾がばらばらとテ―ブルの斜面を落ちていく。
「な? 扱き箸なら束をさらに何等分にもして籾を外さなきゃならないけど、これなら一回の動作で三分の一束から半束分をこそげられる。その分だけ早く済ませられる。便利な道具だろ?」
扱き箸で行う脱穀作業は長ければひと月にも及ぶ。だが、この千歯こきがあればそれを半分程度にまで圧縮できる。
「よく考えますね、鶴様」
弘宗は感心しているのか呆れているのか、いつもの顔だ。
「けど、問題が無いわけじゃないんだよなぁ」
「なんですか?」
「扱き箸仕事で賃金を得ていた者たちが仕事を失う」
千歯こき。またの名を後家倒し。
戦や病気などで夫を亡くし、特別な技術も持っていない後家が、貴重な賃金を得る仕事として重宝されたのがこの扱き箸による作業だ。この時代でも、農家のみならず、下級武家の未亡人が困窮して扱き箸仕事をしていることが、よくある。
扱き箸による作業は、とにかく単調で苦痛だが、扱き箸で稲を挟んで引き抜く、という誰でも出来る作業だ。故に後家や――後家のみならず子どもや、何らかの事情で本来の仕事を行えない男なども、賃を得ることが出来る貴重な仕事なのだ。
扱き箸仕事は一日十文がどこでも相場だ。たった、と思うかもしれないし、実際安い。だがこれでも二十日で二百文、ひと月で三百文にはなる。三百文があれば、米で三斗(四十五kg)は買える。この時代の人は副菜などほとんどなく、ほとんど主菜だけでカロリ―を得るので、ひとりにつき一日五合(七百五十g)は食べる。家族四人として日に二十合(三千g)、単純計算で十五日分の食糧になるのだ。もし独り身なら二か月分。これが米でなくもっと安い麦や稗ならばもっと買えるだろう。それくらいの金額にはなるのだ。
千歯こきが普及することで人手が要らなくなると、この賃仕事が奪われる。しかもこの仕事を行う者は、概して貧しい者が多い。
と、言っても、この津軽、北奥羽の地ではまたちょっと事情が違うので、一概には言えない部分もある。
具体的に言えば、この地は労働力が不足している。稲扱きをするにも人が集まらないので、作業が進まずに結果時間ばかりかかってしまう。なので本来はこういった後家のみならず、脱穀作業とは別の仕事を行わなければならない者たちもこの作業に動員され、結果として能率が落ちる。その時間があればできる別の賃仕事が出来なくなり、全体のパフォーマンスが落ちる。
その意味でも、千歯こきが導入されるメリットはかなりあるのだが、それはそれとして賃仕事を奪われる者が出る事には変わりない。
「そんな事も考えているんですか、鶴様は……」
なぜか呆然としている弘宗に肩をすくめて見せる。
「大事なことだぞ? いかに良い道具だって、使ってくれる人が困窮したら普及しないんだ。刀鑓だってそうだろ?」
かといって、完全に普及するまでこういった不利益を蒙ってしまう人が出るのは避けられない。どんな技術でも道具でもそうだけれども、こういう問題も時間を経れば収まるところに収まり、新たな仕組みが出来るものだ。けれども、その定着するまでをどうするか、かつより良い場所に収まるように、というのは考えなければならない。仕事が無くなった先がもっとひどい労働に就くことになっても問題なのだ。かと言って、これが難しいんだけれども。
「何か対策はあるのですか?」
この問題の何が難しいかと言えば、代わりになるような仕事が無いのだ。
こういう単純作業であるがゆえに慣れれば誰でも出来て、かつ米や麦のように広範に栽培される作物故にどこでもかならず行われる短期集中式の仕事――というのは、その仕事がなくなったら、代替に出来るような仕事が無い。
「実を言えば、全てを解決する方法はない。ただ石川の、自領だけなら、あるはある」
この問題を解決する事は出来ないけれども、あくまで石川領内だけなら多少は仕事を準備する事は出来る。例えば、直轄領での収穫などで金を出してこういった立場の人間を多めに雇うとかはできるだろうし、新しい仕事を創出することも、多分できる。ただ予算措置をするとなると親父殿との相談になるし、収穫期はどこも臨時で人手を大量に雇うので、下手をすると人手の取り合いになりかねないしちょっと難しい。
まあ、これは正直道具が普及したら顕在化していく問題なので、道具が普及すらしていない現状で憂いてもまだ早い。その時が来た時に対応できる準備だけはしておこう、という話だ。
将来の話、と言えば、いい機会だとふと思い立ち、話を変える。
「本意ではない農具の鍛冶仕事をいつもまかせて申し訳ないと思う」
弘宗はばっと驚いたようにこちらを見た。
「けど、君のおかげで俺にとっての最初の関門は超えられそうだ、本当に感謝している」
弘宗が居なければ、様々な農具や道具は作ることが出来なかったし、こんなに早く量を揃えることも出来なかった。
彼の腕は、少なくとも農具に関しては確かなものだ。今までこの時代にない道具の構造を理解し、再現し、こちらの考えが至らなかった際に起こる問題にも適切に修正や改修を行える人間はそうそういない。そういう得難い才能が彼にはある。
ただそれが、彼が望む技能であるかどうかだけが気がかりだった。指示された仕事には――彼にとってはずいぶん頓狂なものだったとしても――真面目にこなしてくれるし、手を抜くこともなかったけれども、そもそも彼は自身の鍛冶としての家業と出自に引け目を感じている様子が、やはりあったからだ。
技能があるからと言って無理をさせるにも限度がある。
「俺は今後もこういう事を続けるし、きっと生涯をかけてやるだろう。弘宗にも引き続き鍛冶仕事をしてもらうことになるから。君の力はそれくらい貴重だから、出来ればこれからも俺に仕えてほしい」
「……ありがとうございます」
「けど、それが弘宗の本意でないと思うなら、これ以上無理強いはしない、鍛冶仕事も頼まない。この二年、十分付き合ってくれたと思う」
「鶴様、それは」
「弘宗は俺にどう仕えたい? 武門としての活躍を望むなら、俺が元服するまでもう数年待ってくれ。それが待てないなら親父殿の出陣に参加できるよう頼んでもいい。他にこうありたい、と望むなら、出来るだけ手助けをする。他へ仕官したいなら、まあ君の立場上難しいかもしれないけど、紹介状くらいは書くよ」
弘宗が浪岡北畠氏から派遣されているのは公然の事実だ。高信からも許可を得て自分に仕えている立場の彼を、他家に仕えさせたいと言っても通らない可能性はあるけど、まあ話を振るくらいは出来るだろう。出来れば戦功をあげさせてあげれば再就職の話は早いんだけれど。
弘宗と言えば、戸惑っていた。そりゃいきなり自分の進退の話をされたら困るだろう。
「ま、今こっちが提供できる事はほとんどない。自分もまだ元服前の立場だからさ。君に関してもアレコレ出来る事はそんなにない。けど、今後どうしたいか希望を言ってくれたらできるだけそれに協力するよ、ってことだ。すぐさま結論出せって話でもないから、ゆっくり考えてほしい」
むしろ色々提供してもらって心苦しいくらいだ。それに報いる方法もあまりない。せめて今度ボーナスでも出そうと心に決めた。
「……分かりました」
弘宗は困った表情のまま、頷いた。元々の性格なのか、それとも仕事だと言い聞かせているせいなのか、弘宗は自分の希望をあまり口にしない。
けど、まあ、自分に仕えるより他により良い道があると考えられるなら、それを言ってくれればいいと思うのだ。
「とりあえず今は引き続き農具の作成を頼む。頼りにしてるよ」
弘宗の肩を叩いて、俺は千歯こきの仕上げに戻った。
お久しぶりです。大変遅くなりましたが、続きを投稿します。
もしよろしければお読みくださいませ。




