失踪(4)
髭男は住宅街を抜け、レンガ道は石くれが目立つ農道になっていく。
土地をコの字に囲んだ農民の家が続いていたが、蒼然とした傾いだ家が目立ち始め、人が住んでいるようには思えない。
ここまでくると、警吏の巡回路から外れて治安が急速に悪くなるのだ。
男の影が町はずれの倉庫に消えると、距離をとっていた分、急いで倉庫に近づいた。
耳を澄ますと中には動物の息遣いと、男女の話し声が聞こえる。
――なるほど、そういうことか。
俺は倉庫正面の閂を外し、大きな扉を堂々と開けた。
中はランプが灯り、男女と髭男がびっくりした様子でこちらを見ている。
――やれやれ、とんだ依頼主だ。今日はやっぱり厄日だね。
***
早朝、俺は保安室に寄った後、リリーが昨日書き残した連絡先の住所を訪れた。
場所はギルドハウスとカリトメノス通りのちょうど中間にあった。
彼女の住居は一階が生活雑貨店で二階が貸し部屋になっている、その一室だった。
朝ということもあり、通りは随分うらぶれている。仄暗い通りの残飯にカラスがありついて、狂ったように鳴いている。
軋む木造の階段を上がり、部屋の扉を叩いた。
何の反応もなかった。
ことの顛末を知っている俺は強気だ。普段なら気が引けて絶対にしないが、今回の依頼についてはちょっとした怒りがあった。
しつこく何度も叩くと、やがて扉の向こうで物音が聞こえた。
「はい? なんですか……?」
小さく開くと、昨日よりも老け込んだリリーがいた。
しかし俺を認めると大きな目を丸くして、波打った髪を手櫛で整える。
どうやら、俺がここを訪ねてくることを予期していなかったようだ。
こんな早くに――。
リリーはそう思ったに違いなかった。
「朝早くにすみません。フィンさんの居場所が分かりましてね。ちょっとお邪魔しますよ」
開いたドアの隙間に足を入れて、半ば強引に玄関に入った。
部屋は簡素な作りで、低ランクのギルドメンバーや学生が借りそうな物件だ。
リリーの服装は、ギルド保安室を訪れた際の気品漂うワンピースドレスと違って、男が着るような白いシャツを一枚しか着ていなかった。
「それで、弟はどこに……」小さな玄関をあがる前に、リリーは俺の袖口をつかんだ。奥の部屋からわずかに朝の光が射しこみ、反射したリリーの瞳は鋭かった。
「いいでしょう。私も早く終わらせたい」
俺は左目を涙袋から上に押し上げる。
ぐるりと目が眼孔の中で回転して、押し上げた手のひらに落ちた。
リリーは小さな叫び声をあげて、袖口の手を離すと口を押えた。
「これはマジックアイテムですよ。私の左目は風景を魔法で焼き付けて、投影することができるんです」
巧妙に作られた瞳孔を上にして手のひらに乗せると、空中に映像が浮かび上がる。ぼんやりと映し出された霧のような絵は、ゆっくりとピントが合うと、ある男の顔が写し出された。
リリーの弟、フィンだった。




