表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

二人目の問題児

 全校生徒そう告げた後、ヘリは屋上へと向かった。

 彼女の名前は寒風澤 永久。寒風澤財閥の長女で、俗に言う社長令嬢って奴だ。おしとやかという言葉を嫌い、人とは違う事をする事を好み例えば髪の毛の色も他の人ならやりたがらない水色に染め、髪型も同じ理由でサイドテールだ。

 面倒な事にわがままで、常にクラスを掻き乱す問題児でありいつも俺に迷惑をかけている。

 特別推薦で入ってきたパンドラメンバーであり、加山とセットで居ると暴走が酷くなり更に手が付けられなくなるのは言わずもがなだ。


「やあやあやあ、おはよう!」


 屋上から階段を降り、クラスのホームルームが始まっていることを一切気にせず大声を出しながら入ってくる。

 いつもの事なので、先生も慣れたように対応する。


「おい、遅刻だぞ寒風澤。今何時だと思っているんだ」

「昨日はちょっとばかし忙しかったからね。朝起きれなかったんだ、ほらこれで遅刻を取り消してくれたまえ」


 そう言って懐からスッと札束を取り出しヒラヒラと煽ってやる。


「分かっていると思うが私相手に買収しようとするな。昨日競馬で当たったばかりで金ならあるんだ。前のように受け取ったりはしないぞ」


 何故この人はしれっと、汚職を暴露しているんだ。教育委員会やPTAに怒られても知らないぞ。


「ちっ、今日は遅刻か。まあいいわ、それよりもなぜ皆は静かなのよ。もっとはしゃぎなさいよ、私が来たのよ?」


 こいつもこいつで何故皆がこの状況で、はしゃぐと思っているんだ。どれだけ自分に価値があると、アイドルにでもなったつもりか?


「ほら、お金をあげるわ。愚民は私のためにはしゃぐのよ!」

「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!」」」


 クラスの半分以上の生徒がプライドを捨て、ばらまかれたお金を拾うクラスメイト。これぞ学級崩壊だな。


「金だ……! パチンコだ!」


 目をキラキラさせた先生は、生徒以上に率先して拾っている。

 これが本当にうちらの担任だと思いたくないな。そんな事を考えていると、ちょいちょいと服を引っ張ってくる加山。


「下川は拾わなくてもいいのかい? 金欠だろ」

「俺をこれを拾うような落ちぶれだと思うか?」

「うん」


 即答された。少し傷つくな……。


「あいつらと違っておれは既に必要分だけは懐の中に入れてある、あまり舐めるなよ」

「やっぱりあたしの考え方は間違いではなかったじゃないか」

 

 あんなに醜態を晒すようでは遅い、誰にも見られないくらいに素早く懐に入れないと。


「やっぱり金は正義なのよ」


 教卓に膝を組んで座り、お札で仰ぐ寒風澤。その姿は成金のそのものだ。そのうち、お札に火を付けて暖をとりそうだ。

 このまま調子に乗らせるのも癪に障る、少し反論してやろう。


「そんな事ない! お金が無くても数日は生きてられるからな!」

「そう言ってる人がお金を拾っていたら説得力ないぞ」


 すぐさま隣の加山ツッコんできた。死活問題だから仕方ないじゃないか。俺だって好きでお金を拾っているわけじゃないんだからな。


「それで加山は、私が頼んだものを作ってくれたのかしら?」

「ああ、この惚れ薬だな。意外と面白い工作だった」


 俺の惚れ薬を奪ったのは寒風澤だったのか。こんなものを頼むなんて、まさかこいつにも好きな奴が居るのか……。少しは普通の学生っぽい心もあるんだな。


「にしても寒風澤よ、これは何に使うんだ?」

「ふっふっふ。これで気に食わないやつを……」

「なんであたしの周りは頭のおかしい奴しかいないんだ」


 それはこちらが言いたい言葉だ。それに巻き込まれてるんだからな。そういえば一応聞いておかなくては。


「なあ、寒風澤。昨日俺のロッカーにエロ本を入れたりしてないか?」

「いったい何の話? 私がそんなくだらないことをするとでも」

「するかしないかって言ったらするだろ。俺の困った姿を見たいとか言って」

「それもそうね……。まあ、でも私じゃないわよ。昨日は加山とカードで遊んでたもの。そんなことしている暇はなかったわ」


 これが本当だとしたら、一体誰が俺の下駄箱の中にエロ本を……。俺を貶めたいとかそういうことを考えてとかか?  近くに落ちてたからって入れるものではないだろうし。どちらかが嘘をついてると考えた方が楽だが、こいつらにそれをするメリットがあるとは思えないし。

 そうこう色々と思考を巡らせているとようやく冷静になったのか、先生が立上り声を上げる。


「ほら、みんなもうやめなさい! このままじゃ先生である私が責任を取られるから」

「ふとことから出ている札はなんなんだ」


 先生といい生徒といい、このクラスに何故ここまで変人が多いんだ。一年生のころはパンドラメンバー達は別々のクラスで、俺は加山だけ同じクラスだったがよかったんだが、今や全員同じクラス。問題児が多いクラスには男の先生などのそれらを御せる先生が配属されると聞いた事があるが……、どう考えてもこの先生は汚職するような人だしこのクラスの担任には向いていないと思う。

 そのうち本当に誰かしらから教育委員会に訴えられるだろ……。


「いいか、私は自分の評価をあげるためにこのクラスに率先してなりたいと言ったんだ。だから、大人しくしろ」


 ここまで自分の欲に駆られている教員はどうなんだ。個人的な考えではあるが教員って子供為に何かしてあげたいって人がなるものじゃないのか? 教員免許を取るのってかなりめんどくさいっていう話もあるし……。


「しゃあない、ちょっと下川来い」


 俺は先生に無理やり腕を引っ張られ、転んでもそのまま引きずるようにしてドアへと向かう。少し抵抗してみるも、何処にそんな筋肉あるんだと思われる力で引っ張られ、なすすべなく廊下を引きずられてしまう。

 これ、他の先生が見たらただの体罰だろ。


☆☆☆


 生徒指導室まで来て、ようやく引きずるのをやめてくれた。先生は椅子に座り足を組む。


「なんでここに連れてこられたか分かるか?」

「分かったら苦労しないんですけど。また加山達が何かやったんですか」

「あくまでも自分ではないと言いたげだな」


 俺はまじめに学生生活を送ろうとしているからな。


「お金ばらまきはいつものことだし……、校長の銅像を魔改造したんですか?」

「お前があいつらのことをどう思っているかよくわかるな。そうじゃなくて、お前のことだ」

「俺ですか?」


 何かしたっけな……。特に先生にわざわざ呼び出されて言われるようなことをした記憶もない。


「お前をこのクラスにしたのはあのバカ二人を監視するためだって話をしただろ」

「はあ、そういえばそうでしたね」

「だったら何故しないんだ」

「話はされましたが、俺はやるって言ってないからです」


 新たなクラスが始まった初日、先生に呼び出され問題児二人が何かしでかしたら俺が対処しろとそう告げられたのだ。告げられるだけで、何故俺が選ばれたのかどうすればいいのかなども一切言わずに……。


「お前しか頼れる奴はいないんだよ、頼むよ」

「そんなこと言われても、俺にあいつらを制御できるわけないじゃないですか」


 それが出来るな一年生の段階でもうやってる。というか、それをやるのは先生の仕事なんじゃないですかね。


「あいつらと関わっているせいで俺もパンドラプラスとか言われて困ってるんですから。まじで誰が名付けたんだか……」

「パンドラプラスって言う名前を付けたのは私だぞ」

「は? 今なんて言った」


 聞き逃せない言葉が聞こえた気がするが……、気のせいだよな。


「聞こえなかったか? だから、パンドラプラスっていうのを付けたのは私だって」

「はあ⁉ 先生なんですか。そのせいで、俺がどんな思いをしたと思ってるんですか! 友人が出来なくて困ってるんですよ。それなのに……、」

「そうは言うがな、元々生徒たちの間でもパンドラの箱という言葉だけだと語源的にお前が入れられないって困ってたんだ。だから私がよい名前を決めてやったというわけだ」

 

 自信満々に鼻息を荒くして言い放つ先生。

 よい名前を付けただろ? みたいなことを言われても、こっちは怒りしか湧かないぞ。


「お前はあの中でも、どちらかというとまともだ。加山や寒風澤に比べたらな」

「どちらかというとって何ですか。まるで、俺もまとまじゃないみたいな言い方ですね」

「そう言ってるんだよ。でだな、どうすればあいつらを制御できると思う」

「さっきから言ってるんですが、なんで俺なんですか」


 特に、なんの変哲もない男子高校生だ。あいつらみたいなやばい思考もないし、俺が選ばれる意味もない。


「人間というのはな、他人から言われるよりもより近い人間に言われた方がより変えようとする意識が生まれるんだ。お前だって知らない人から突然金を貸せだのパチンコに一緒に行かないかだの怪しいツボを買えだの言われてもやらないだろ?」

「前半との話の繋がりが分からないですし後半のチョイスもおかしい気もしますが、まあ分かります」

「だからな、あいつらと近く更にあの中でまだまともだと思われるお前が選ばれたって訳だ」


 選ばれたって訳だ! じゃねえんだよ。そんな理由で納得できるなら苦労しないんだ。

 そんな事を今更言ったところでどうこうなる問題では無い。


「それで俺はどうすればいいんですか」

「それを考えて実行するのがお前の役目だ」


 そんなアホな……。丸投げされても何も出来ないんだが。


「私も他の教員らと話してはいるんだけどな……。どうもこうも、下手なことをすれば寒風澤の親が出てくるし、加山だってコンピュータ室のパソコンの修理という仕事もあるからな」

「なんで加山に仕事させてるんですか。てか、普通に思ったんですがそうやって問題児を起こすような生徒だったらさっさと退学させればいいじゃないですか」

「はあ、それもそうなんだがな。あのバカ共はここに特別推薦で入ってきただろ? つまりこの学校の顔なわけなんだ。そんな奴らを退学させたとなると泥を塗るという事だ。まあそれを校長や理事長が許すはずもなく…………」

「じゃあこんな推薦はなからやめればいいじゃないですか。この推薦で入ってきて人の殆どが変人で問題児なんですよね?」

「いやまあ……。さっきから正論ばかり言うんじゃないよ! 反応に困るじゃないか。いいか、社会人になったらなんでこんな事しなきゃいけないんだろって思うことはたくさんある。だが、そういうもんだと受け入れるしかないんだよ。上の立場の者には逆らえないからな」


 ようは、教師たちがいくら抗議しても現場を知らない理事長がこの推薦をやめようとはしないってことだろ。そのしわ寄せが生徒である俺にまで来るっていうのはどうなんだ。


「ともあれ毒を以て毒を制すともいうし、後のことはお前に任せるぞ」

「そんなことを言われても俺が困るんですが」

「何とかなるって!」

「そんな無茶苦茶な……」

「あ、あとお前には先に伝えておくが。今日の帰りか昼病み辺りにお前ら三人を呼び出すからな」

「はあ……」


 そんな会話を終え、先生がドアを開けてくれたのでそこから廊下へと出る。これからも、先生が助けてくれるようなことはないという絶望感を胸に……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ