5話 ワンダーアーツ
アリスを抱えながらお城に向かって飛んでいるのだけど、アリスは未だに「きゅ〜・・・」と
言いながら気絶していて起きる気配が無い。
背中に背負っている本が邪魔なので僕はそっちを先にどうするか考えることにした。
「ディメンションポケット」
そう呟くと本は一瞬で消えた、背中の重みが無くなってスッキリして気持ちがいい。
もう一度魔法を唱えると瞬時に本が飛び出してくる。この魔法は指定したものを別次元に移動させて
好きな時に出し入れできる魔法の様だった。とても便利なので今後も多用する事間違い無いだろう。
前に抱えてたアリスを背中に移動させる事にした。特に凹凸の無い体が密着するがいい匂いがする・・・
いかんいかん・・・目的を果たさなければ。
グリモワールを読みながらしばらく飛行しているとお城が見えてきた。初見で目が引くのはとても紅い
外装だろう、今まで見てきたファンシーな見た目が多いこの世界の中では、異常なくらい歪さを感じる。
「アリス〜? そろそろ起きてくれないか〜?」
背中で寝ているアリスに声をかける
「ん・・・うーん・・・ はっ・・・ごめんなさい私寝てた・・・?ってきゃあああああああ」
いけない空を飛びっぱなしだったんだ、寝起きにしては刺激が強すぎたか。
「ごめん!いきなり空を飛んでてビックリしてると思うけど聞きたい事があって。目的地はあのお城だよね?
どこから侵入できるかな?」
「ーーーだ・・・大丈夫・・・私、鍛えてるから・・・。お城に裏庭があるからそこに降りてほしいな」
意外とこの子は脳筋なのかもしれない。でも流石にシュッシュとシャドーをするパンチには、最初見た時の元気は全く感じられない。
「裏庭だね、分かったじゃあ見つからないように迂回しながら滑空するよ。せーのっ」
「ゆっくり飛んでーーーーー!!!!!!」
ビュンッと飛ぶ速度が加速した時にアリスが抗議した気がしたけど気にせず飛ぶ事にした。
裏庭に降りた僕たちは、ノワールを探すために城内へ入るルートを探す事にした。
「どこかに開いている窓とかあればそこから入りたいね。もし無かったら最悪魔法を使うけど・・・」
正直魔法を使えばどんな壁でも通り抜けたり、透視したりして数秒かからず目的地まで辿り着けるだろうけど
もしも城内にやり手の魔法使いが居たら魔力を感知されてバレてしまう可能性がある為なるべく使用したく無い。
「それなら良い所があるよ! 私がこっそり遊びにいく時に使ってる入口があるんだっ」
アリスが教えてくれたのは従者用と思われる更衣室で、幸い今日も窓が施錠されていなかった。
「ここには居ないみたい。 あと居るとしたらあの子の作業場か女王様の所だと思う。」
「じゃあ作業場から見に行こうか、そこに居てくれたら嬉しいけど・・・」
アリスが案内してくれて作業場へ着いたもののノワールは居なかった・・・乗り気じゃないがその女王様の所に行くしか無いかもしれない。あとは敵対的じゃ無いことを祈るだけだ。
城内に潜入して分かった事だけど、このお城には人間が居ないのかもしれない。基本的に作業しているのは人形の様なもので、特に意志を持たずに作業をしている感じがする。しかもとってもノロマだ。
みんなノロノロと清掃したり物を運んでいるだけで、僕達が目の前を通っても何も反応しない。これなら最初から正面から堂々と入っても問題なかっただろう。
女王の間に着いた僕達は、中からうっすら話し声がする事に気がついて扉に聞き耳を立てることにした。
「言い訳はいらないのだけど? あなたが居てくれないと困るから遅刻しない方法を答えなさい。
そうでないならまた給料を減らす事になるわけだけど・・・そうなるとあなた、困っちゃうわよねぇ?」
「きゅ・・・給料は減らさないで下さい・・・これ以上は・・・薬が買えなくなってしまいます。」
「ならもっと私の為に働きなさい、良いことを思いついた。 あなた今日からお城で住み込んでもらおうかしら。そうすれば遅刻したり休んだりしないわけだから、毎日朝から夜まで働いてもらえるわね。」
話を聞いている限りとんでもない職場待遇だ、ノワールはまさに奴隷の様な状態で毎日働かされる一歩手前まで来ている。なんだか僕の境遇と似てる部分を感じたので少し怒りが湧いてきた所でアリスの様子を見ると。
「ちょっと待ちなさーーーーーいっ!!!!!!!!!」
アリスが顔を真っ赤にして飛び出して行ってしまった。
「あなた誰?」
「あ・・・アリス・・・どうしてここに? だ・・だめだよここに来ちゃ。」
「ノワールは黙ってて!!!!! 私の名前はアリス!!!女王様からノワールを助けに来たのよ!!!!」
アリスは勇気を振り絞って発言したからか、よく見ると体が少し震えていた。
「ふむ・・・じゃあお前は私の従者を奪いに来たって事で良いわよね? そして勝手にお城に入ってきた侵入者・・・・ 奪いに来たのだから逆に命を奪われても、文句ないわよねぇ?」
アリスに向かって殺気を飛ばす女王。危険を感じた僕はアリスの前に瞬間移動した。
「また出てきた・・・いつから誰でも入り放題な城になってしまったのかしら・・・・。」
「失礼してしまい申し訳ございません。私はグリム、こっちはアリスです。そこのノワールがアリスの友人なので探しにきたのですがお話を聞いてるうちに奴隷の様な扱いを受けているのを知ってアリスは我慢はできなくなってしまったみたいです。」
「それで?こっちとしては何も変わらないわ、ノワールみたいな優秀な人材が居なくなると困る。
勝手に城に入られてイライラしてる。これを解消する方法はただ一つ、貴方たちを処刑する事だけだわ」
だめだ、言葉だけじゃもうどうしようも出来ない。戦わないといけない。けど、僕は戦闘なんかしたことない・・・上手くできるだろうか・・・。
『ワンダーアーツを使用しますか?』
グリモワールが突然喋り始めた。ワンダーアーツ??聞いたことない魔法名だ、さっぱり中身は掴めないがとりあえず。
「使用する!!!」
そう叫ぶとアリスとノワールが光り始めた。
「何これっ!?!?どうなってるの!?!?」
「わ、わぁー・・・」
少しすると光が消えて中の二人が見え始めてきた。そしてよく見るとさっきと違う部分があった。
アリスは剣を持っている、持っているというより捕まってるに近いなぜならその剣は、この城と同じくらいと大きさだからだ。 当然壁は吹っ飛んでしまって女王の魔は日当たりの良いテラスの様になってしまった。
女王はあまりの出来事に吹き飛んだ部分を見ながら白目を剥いて呆然としていて少し可哀想に思えた。
「でっかすぎ!!!こんなの持てないよぉ!!!!おにーさんっ助けてぇぇぇぇぇぇぇ」
剣にぶら下がって助けを求めるアリスを助けようと飛行する準備をしていると
「剣さん小さくなってぇぇぇぇぇぇ!!!!」
アリスが叫ぶと突然剣が小さくなっていく、そして普通の短剣くらいのサイズに収縮してしまった。
もしかしたらアリスの意思に合わせて大きくなったり小さくなったりする剣なのかもしれない。
「お前たち・・・もう許さないから・・・全力で叩きのめしてあげる。ミラーワールド」
事故とはいえ本気で怒らせてしまったようだ。女王が腕を振ると鏡の鏡面が無数に生まれ、尚且つその中から
女王が沢山現れた。
無数に現れた女王は全員が魔法を構えており、一斉にアリスに向かってそれを放出しようとする。
しかしアリスはすでに女王の目の前から一瞬で消え去っており、僕の隣にノワールと一緒にいつの間にか移動していた。
「この懐中時計・・・これが私の能力みたいです。時を止めることが出来ます。」
ノワールもアリスのように光に包まれた後、いつの間にかこの懐中時計が手元にあったそうだ。
しかも能力がえげつない・・・時間魔法なんて使える魔術師は元いた世界に存在するのか・・・?
「ノワール!!!貴方、私を裏切るっていうの!?」
「ごめんね女王様・・・。でもアリスは私の大切な友達なんだ、だから・・・傷つけるのは許さない」
そう言って全員が戦闘態勢に入る、僕もグリモワールを持ち、身構えるのだった。
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