02 ユオの正体
「言っていなかったか?」
「初耳なんだけど」
全然どういうことかわからない。
ユオに初めて会ったのって、工房に訪ねてきてくれたときだよね?
その後、広場で露店を出しているときにも来てくれて……そのときに、白金貨を狙ったガラの悪いやつらには襲われていたけれど、それは全部ユオが倒しちゃってたし。
私が命を救った覚えは、全くないんだけど。
「気づいているんだと思っていた」
「……気づいてって?」
「私の正体に」
そう言いながら、ユオが私に向かって手の甲を差し出す。
私が見ている前で、まるで絵の具の色をこぼしたかのように、ユオの手の甲がじわりと黒く染まった。
「え、え……何、これ」
指先まで真っ黒になったところで、今度は違う変化が起こる。
柔らかそうだった皮膚が、みるみるうちに硬くなっていく。そこに、鱗が現れた。
「……この、鱗って」
「あの夜、森で私のことを救ってくれただろう?」
「うそ。ユオってあのときの、ドラゴン?」
魔族だって聞いていたし、目がどことなく爬虫類っぽいから……竜人とか、そういう種類なのかなとは思っていたけど、まさかあのドラゴンだったなんて。
「ってことは、あの鱗」
「私の鱗だな」
「ええええ……痛かったんじゃ」
「あれぐらい、どうということはない。気にするな」
――本当になんとも思ってないって顔だけど……鱗って、人間でいうところの爪的なものじゃないのかな……どうということなく剥がせるってことは、唇の皮ぐらい?
あれだって、うまく剥がせないと痛いし、血が出ると思うんだけど。
それでも、ついめくっちゃうよね、唇の皮。
いや、別に皮の話はしていないけど。
「恩人の力にはなりたいと思うものだろう? 黄昏殿にも感謝している」
「黄昏って……ああ、師匠のことか」
そういえば、あのとき一緒に助けたんだっけ。
懐かしいなぁ。なんかもう、随分前のことのような気がする。
「だから、遠慮する必要なんてない」
「んー、そうはいっても」
「すでに、セトに助けられているものも多いと聞く。感謝こそすれ、迷惑だと思うことはない」
――それって、魔術造形でお手伝いした人たちのことかな。
シェフ以外にも、魔術造形で作ったものを渡した人はいる。
王都で冒険者相手に売っていたレベルの装飾品じゃ、ここにいる魔族の人たちにはちょっと物足りないみたいだったけど、それでもステータスを強化できるのは便利なことが多いらしく、ちょいちょいそういう方面でお手伝いの依頼が来ていたりするのだ。
その対価だって、ちゃんと貰っている。
「そう言ってもらえるなら、ここで造形するのもいいんだろうけど……あ、でもやっぱり一度は王都に顔出しておきたいかな。ファーラとか、心配してるかもしれないし」
あれ以来、王都には全く顔を出せていない。
スマホみたいに連絡を取る手段がないから、ファーラにも直接連絡できていなかった。
ただ、ユオの部下の人に私が無事だってことだけは伝えてもらったし、ファーラの無事も確認してもらってはいたけど。
だって、勇者たちが今度はファーラを狙わないとも限らなかったから。
「なら、このあと一緒に行くか?」
「忙しいんじゃ」
「別に構わない。転移を使って向かうのが、一番早いだろうからな」
――それは、確かにそうなんだけど。
甘えちゃっていいのかなぁ。
めちゃくちゃ足に使っちゃってるけど……ユオ、偉い人なのに。
「じゃあ、ここに書いてあるやつ、ついでに買って来てくれねえか? 珍しい食材があったら、それも」
いや……私よりもっと雑に目上の人を扱っている人が、ここにいたわ。
◆
「セトさん!!」
魔術師ギルドに入るなり、ファーラの抱擁に出迎えられた。
最高ですね。ありがとうございます。
「ご無事なのはわかっていたんですけど、でもやっぱり顔を見るまでは心配で」
「ごめんねー。勇者と正面からやり合っちゃったから、なんだかんだで顔出しづらくって」
「怪我がないならいいんです」
――ファーラ、やっぱり天使だなぁ。ふわふわだし、いい匂いするし。
可愛い。可愛いしかない。
そうやってファーラを愛でる私の隣では、ユオが珍しそうにギルドの中を見回している。
ここに入るのは、初めてなのかな?
「あ、すみません。お連れ様もいるのに」
「ううん。大丈夫だよ」
「――あいつらは、ここにも攻撃を仕掛けたようだな」
「え……?」
突然、ユオがそんなことを言い出した。
どうやら、物珍しさでギルドの中を見回していたのではなくて、建物に残っていた魔力の残滓を確認していたらしい。
「ファーラ……大丈夫だったの?」
「よかったら、奥でお話ししませんか?」
「うん。そうだね。ユオも一緒に」
「ああ」
連れ立って、いつも通してもらうギルド内の個室に入った。
私とユオが席に着いたところで、コンコンと扉を叩く音が響く。
「ワシも邪魔するぞい」
そう言って、部屋に入ってきたのは、お髭がまた少し伸びたギルド長だった。




