27 これから
――いや、トイレごときで取り乱してる場合じゃないよね。
といいつつ、現在作っております。トイレ。
まさか工房を失った直後に、トイレを作ることになるとは思っていなかったよ。
でも、こんな私でも一応現代人だからね。大事なんだよ。
ちなみに、この異世界のトイレ事情は結構優秀。ご飯もおいしいし、やっぱり先人の転移者だか、転生者が頑張ったんだと思う。
だから、ちゃんとした宿に泊まることさえできればトイレに困ることなんて、そうそうないんだけどさ――っと。
「できたー」
簡易トイレ(洋式)完成!
我ながらいい出来だと思う。折りたためるし――ってアイテムボックス持ちなら、そんなにコンパクトに作らなくてよかったか。
「ってか、これ。わざわざ魔術造形で作ったって言ったら、いろんな人から怒られそう」
すごい魔法だって言ってくれる人、多いもんね。うん……ごめん。
でもまあ、便利に使えて私的には最高なんだけど。
「それにしても……これから、どうしよう」
工房兼自宅を失ってしまって、ここから先、どうするべきかを完全に見失ってしまった。
拠点があるって大事だったんだな……魔術造形で家を作るっていうのは、現実的じゃないし。このトイレを作るだけでも、結構魔力を消費したんだよね。
うすうす気が付いていたけど、大きくて凝ったものを作るのにはあんまり向いていないらしい。
「師匠みたいに、旅に出る……?」
でも、それもあんまり現実的じゃないなぁ、なんて思っていたりする。
だって、勇者たちも近々出立するんでしょ? ばったり遭遇とか考えただけで嫌なんだけど。それならやっぱり、ここを拠点にしておきたかったんだけど――いや、それも無謀か。
勇者たちがまた報復に来ないとも限らないし。
「……あー、もう。ほんとにどうしよう」
「困りごとか?」
「……え?」
突然消えたと思った少年が、また現れた。
ぽりぽりと頭を掻きながら……何やら申し訳なさそうにしている。
「無事だったんだね」
「ああ。お前も怪我がないようでよかった」
――この子、やっぱりいい子だな?
近づいてきた少年が、地面に座っていた私に手を差し伸べてくる。
立てってことなのかな?
なんとなくその手を握ると、びっくりするぐらい強い力で引っ張り起こされた。そういえば、工房に引きずり込まれたときもこんな感じだったな。
「あ! そうだ、さっきの飴!!」
「アメ……?」
「私に食べさせたやつ。あれのおかげで助かったんだけど、ただ防御力が大変なことになってて!」
「ああ。それなら、じきに戻る」
――そうなの?
まあ、確かに考えてみればあんなチートアイテム……延々と効果が続くわけないよね。
それならよかった。私、バリカタ魔術師になったかと思ったじゃん。
……いや、よかったのか?
「壊れてしまったんだな」
「……あー、うん」
少年は私の工房の残骸を眺めていた。
散らばっていた魔術造形物は全部拾ってアイテムボックスに入れたけど、建物の残骸はこのままにしておくしかない。
それを見るたび、やるせない気持ちになる。
「悪かった。人間同士の争いに、表立っては手を出せない立場なんだ」
「ってことは……やっぱり、君って人間じゃないんだね。魔族ってやつ?」
「人間からは、そう呼ばれているな」
――やっぱり、そうなんだ。
人間とは、どこか違うと思っていた。
金色の瞳や縦長の瞳孔もだけど、少年の雰囲気も人間のそれとは何か違う。うまく説明はできないけど、師匠みたいな強い人間の気配ともまた違う感じがする。
こういうのがわかるのも、転移者だからだったりするのかな。
「行くあてはあるのか?」
「それを今、悩んでたっていうか」
「そうか。なら、来い」
「え?」
手を、急に少年に握られた。
かと思ったら、周りの景色が一瞬にして変わる。
「え、え……ぇええ?!」
真っ黒な部屋だった。
壁も天井も調度品も、部屋にあるものはすべて黒で統一されている。
「私の城の一室だ。好きに使えばいい」
そう言うだけ言って、少年はまた忽然と姿を消してしまった。
うん……ああやって、空間転移で移動してたんだね。
神出鬼没の謎が一つ解けたよ。
転移魔法は師匠でも詠唱が必要だったはずなんだけど、少年、今無詠唱だったよね? それどころか、魔力を動かした気配すら感じなかった。
かなり高度な魔法のはずなのに――魔族ってやっぱり人間よりも魔法が得意なのかな。
「にしても、城って言ったよね。さっき」
ぐるりと部屋の中を見回す。
広い部屋だ。広すぎる。
工房の全部屋がこの部屋一つに、すっぽりおさまっちゃうぐらい、あるんじゃないかな。
「んでもって、黒すぎる」
少年も黒かったけど、魔族って黒い色が好きだったりするんだろうか。
部屋の中を一歩進みかけて、自分が土足であることに気づいて慌てて靴を脱ぐ。ふかふかの絨毯を土足で踏むって感覚、日本からきた転移者にはどうしても許せないことだと思うんだ。きっと、私だけじゃない。
そんなことを考えながら、黒いカーテンで閉ざされている窓のほうに近づく。
おそるおそる隙間から窓の外を覗いて、広がる景色に愕然とした。
もしかして、ここ……魔界とか、そういう風に呼ばれている場所だったりしませんか?
第二章【勇者出立祭】END
第二章完。続いて、第三章。お話の舞台は魔界に――!?
ゆるゆると更新予定ですので、お付き合いいただければ嬉しいです。
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