25 VS 勇者
振り返った先、立っている人物にも見覚えがある。
「……勇者」
「顔まで見られちまったら、ますます生かしておけないよなぁ」
同じ世界から召喚された人間――今、この国で「勇者」と呼ばれている青年がそこにいた。
手に、立派な長剣を携えている。たぶん、聖剣ってやつだ。
聖なる剣――そんなものを持っているのに、顔は邪悪そのものにしか見えない。さっきの発言だって、モブ雑魚敵が言うやつじゃん。
「……これ、あんたがやったの?」
聞くまでもなく、そうなんだろうけど。
内心は怒りでどうにかなってしまいそうなのに、意外と冷静な声が出た。
勇者までの距離は10メートルぐらい。これって剣の間合いなのかな。一応、結界は張ってあるけど、私物理防御は低いからさ。
向こうが殺しに来るっていうなら、杖を構えて戦わないといけないんだけど――勇者がどれぐらいの強さなのか、まだ測りかねていた。
――一人で来たのかな。それとも、あとの二人は隠れてる?
勇者は三人組だ。
女子二人も一応「勇者」って括りらしいけど、攻撃魔法と回復魔法がそれぞれ得意なんだって、街の人が話しているのを聞いた。
――そっか、魔法だ。やっぱり、隠れてるのかな。
魔の森を突っ切って帰るとき、魔法で攻撃されていた。
あれはたぶん、その女勇者の仕業だ。魔法が効かなかったから、物理攻撃が得意な男勇者にバトンタッチしたって感じかな。
「めんどくさ」
「ああン?」
思わず声が出てしまった。
さっきの質問は無視だったくせに、男勇者は私のこぼした呟きが気に入らなかったのか、またモブ雑魚敵よろしくな態度を見せる。
――勇者ってこんなのでいいの?
これなら、今日会った王子や騎士団長のほうがちゃんと国を守ったほうがいいんじゃないの?
その人たちだけじゃ足りないほどの力が、こいつにあるとは思えないんだけど。
――聖剣を使えるってだけで、そんなに偉いのかな。転移者チートでもあるんだろうか。あーあ……そんなのどうでもよくなるぐらい、腹立つんだけど。
魔王討伐の出立前だっていうのに、何をしているんだろう。この勇者たちは。
ここに来た理由はなんとなくわかる。
広場でのアレ。恥をかかされたって思ってるんでしょ?
いかにもモブ雑魚敵が考えそうなことだ。
女子二人の前でやられたのが、気に食わなかったのかな。それとも、あの二人も同意見なんだろうか。ストレス解消のいじめ、みたいなものかな。あほくさい。
怒りを通り越すと、人ってどんどん冷静になるみたいだ。
大事な工房を粉々にされて、黙って見過ごすなんてできない。
同じ世界から来た勇者相手に、私の魔法がどれだけ通用するかわからなかったけど、逃げる気にはさらさらなれなかった。
「……簡単には死なないよね」
アイテムボックスから、性能が高めで売れなかった指輪を適当に二つ取り出す。
どれでも、ある程度の能力底上げになるはずだ。今は選んでいる余裕はなかった。
同時に杖を構える。
先端を勇者に向けた瞬間、あちらも油断はしていなかったのか、素早い動きで勇者が地面を蹴った。
――見えてるけどね。
それでも、師匠に比べればその動きは遅い。
やっぱり師匠って、かなり別格の強さだったんだな――なんて、そんなことを考えながら、まずは様子見のための魔法を発動する。
魔術造形で作った十個のビー玉サイズの玉を、勇者のほうに打ち込んだ。
「――くッ」
こちらに真っ直ぐ飛び込もうとしていた勇者が、私の魔法に気づいて避ける。
反射神経はまあいいらしい。
体勢を立て直して、再びこちらに向かってくる勇者に私も二撃目を繰り出した。強さは互角ぐらいだろうか。
勇者といっても、まだ訓練も途中なのだろう。
旅の途中でレベル上げをして、魔王討伐を目指すんだろうか。今ぐらいの強さなら、負けないかもしれない。
――でも、油断は禁物。
結界魔法を展開する。
後ろから、魔法の気配を感じたからだ。女勇者だろう。
パチパチとあの静電気みたいな反応が起こる。やっぱり、あれは女勇者の魔法が原因だったらしい。
それにしても、魔法弱すぎない?
「……お前、魔族か?」
――んん? 何言ってんの、コイツ。
まあ、同じ転移者だろって聞かれるよりはいいんだけど……魔族?
もしかして、魔王の仲間だと思われているんだろうか。全然違うけど……っていうか、王都で会ったんだから、それぐらいわかんない?
「お前を倒せば、その報奨金で出立前に贅沢できそうだな」
「……できないと思うけど」
――っていうか、人殺しって犯罪じゃないの? その辺、どうなんだろう。魔族だと思ってるからセーフってこと?
勇者は勝手な思い込みで話を進めてくるし……たぶんこれ、会話も成り立たないやつだ。
こっちも会話なんてするつもりないけどね。
いきなり攻撃してくるやつなんて、たとえ同じ世界から来た人間だったとしても、話が通じるとは思えない。
――そもそも、ザ・陽キャみたいなコイツがあんまり好きじゃない。
その上、モブ雑魚敵だしね。
勇者って感じじゃないと思うよ、君。
「はあぁ!!」
なんて、すごい気合いの入った雄叫びを上げながら、男勇者が私の懐に飛び込んでくる。
避けられない速さじゃなかったけど、戦いの流れを変えるために今回は避けるんじゃなくて、結界でその攻撃を受けることにする。
「え――」
私の予想を反して、聖剣は私の結界をないもののように通り抜け、その切っ先が私の胸部を真っ直ぐ貫いた。




