17 最推しはファーラかもしれない
「勇者のあの顔見たか?」
「姉ちゃんたち、カッコよかったぞ」
勇者たち三人は、怒ってどこかに行ってしまった。
これで目をつけられたとしても、彼らは近々王都を発つ予定なんだからどうだっていい。祭りが終わったら工房に引きこもろうっと。
「でも、ファーラまでそんなこと言うとは思わなかったよ」
「決まりというものはありますからね。それに、セトさんの商品に対してあんなことを言うなんて、我慢できるはずがないです」
うん。女神は今日も女神だった。
並んでいる冒険者さんたちから「もしなんかあったら、俺たちが守ってやっからよ」と頼もしい声を掛けられる。
みんな美人には優しいんだな。
「私も、ファーラに何かあったら嫌だから、お守りにこれ渡しておくね」
「これは……?」
「まあ、いつもどおり試作品なんだけど。ファーラを守ってくれる腕輪だよ」
シンプルな指輪ばっかりを作っていた反動で、細かいものを作りたくてたまらなくなった私が作った腕輪だ。
ぱっと見た感じはかなりシンプルな腕輪だけど、3mmほどの幅の腕輪本体には、かなり細かい装飾を彫り込んである。
モチーフは森の木々。最初からエルフであるファーラのために作ったものだった。
こっちは指輪と違って、付与効果はない。ファーラを守りたいって気持ちを込めて作ったからか、一度だけ致死攻撃を防ぐ効果があるらしい――これもすごい効果だよね。
まあ、詳細の説明は省いたけど。
だって、そんなこと言ったらファーラ受け取ってくれないかもだし。
「……とても、素敵です」
腕輪をうっとりした表情で眺めるファーラを、周りの冒険者たちがだらしない顔で見つめている。
待て、お前らは見るんじゃない。これを見ていいのは私だけだ。
「しっかし……その箱の中の指輪、やべえやつだろ?」
「やべえんですかねえ?」
金貨10枚の指輪を一つお買い上げしてくれた狩人っぽい冒険者の人が、結界ケースの中に入った指輪を眺めている。
いろんな角度から――興味はあるらしい。
お金はないみたいだけど。
「出しましょうか?」
「いらねえよ!」
やっぱり、即答で断られてしまった。
周りの冒険者仲間がそれを見て笑っている。
「こんなの、誰が買えるんだよ。欲しいけどよ!」
――やっぱり、金貨500枚は大金だよねえ。
ふと、あの少年が持っていた白金貨のことを思い出す。
あの白金貨が本物なら、あの子は速攻で買えるんだろうけど……でも、あんまり興味なさそうだったな。
彼もここに並んでいる商品は一通り見てくれたはずなのに。
――鱗の魔力を使ったもの、って言ってたもんな。
それが欲しかったのなら、ここに並んでいるものじゃ、絶対にお眼鏡にはかなわなかっただろう。それぐらい……あの鱗の魔力を混ぜて作った造形は比較にならない付与効果がつく。
実は一個だけ、作ったものを持っていた。
アイテムボックスに仕舞ったままにしているけど――これは、普通の人に売っちゃいけないものだって、考えなくてもわかる代物だ。
「黄昏の魔術師……あの大賢者様なら、ぽんっと買いそうだな」
「ああ。違えねえ。あとは剣聖様や教皇様か?」
――なんか、師匠の名前の後にすごそうな人たちがポンポン出てきた気がするんだけど……師匠ってやっぱりすごい人なのかな。
◆◇◆
「完売おめでとうございます!」
夕方には商品すべてが完売した。
あの目玉商品二つは残ったままだったけど、これだけ置いておいても売れる気はしないし、これで露店は閉めることにする。
完売したら、店は閉めてもいいことになっていた。
祭りは夜まで続くけど、その辺りはかなり決まりがゆるいらしい。
「あら。もう閉めるのね。お疲れ様」
「お疲れ様です。そちらも結構売れてますね」
「ふふ、そうね。王都の方は元からお財布がゆるいから、楽しくなっちゃうわね」
「今日はお祭りだし、余計だな」
あはは。二人とも正直ものだ。
まあ、でもわかる。祭りの日とは財布の紐がゆるむものだ。
私もイベントでは売った金額よりも買っちゃったりして、結局何をしに行ったのかわからないことがよくあった。
――今日の稼ぎは使いきれそうにないけどね。
しかし、完売するなんて……これでしばらく生活に困ることはなさそうだ。
っていうか、わざわざあのボロ工房に住み続けなくていいんじゃない? ってぐらいのお金が稼げたけど……いや、でもなんか愛着湧いてきたんだよなぁ、あの工房。
自分であれこれ手を加えたっていうのもあるけど……まあ、しばらくはあそこでいいか。
「セトさんは、もう自宅に戻られるんですか?」
「ううん。しばらくお祭り見て行ってもいいかなーって。ファーラは?」
「じゃあ一緒に……回りませんか?」
「――ッ」
これは、まさかのデートイベント?
ファーラの親密度マックス来ちゃった?
――って、そういうゲームじゃないけど。
でも、嬉しい!
こんな風に誘ってもらえるなんて……ファーラとはもう、友達ってことでいいのかな? いいよね?
「えっと……だめでしたか?」
「いいよ! 行こう! よかったら、案内してほしい!」
「はい。是非」
満面の笑みを浮かべたファーラに、意識が遠ざかりそうになる。
だめだ。まだ倒れるわけにはいかない。
この夜のお祭りデートイベントを完遂するまでは!!




